2007年06月24日 06時44分39秒

絲山秋子の「逃亡くそたわけ」を読んだ!

テーマ:本でも読んでみっか

kuso



著者の絲山秋子は、1966年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。「イッツ・オンリー・トーク」で文学界新人賞、「袋小路の男」で川端康成文学賞、「沖で待つ」で第134回芥川賞を受賞。と経歴にあります。この作品「逃亡くそたわけ」は、2005年2月25日初版発行とありますから、芥川賞受賞は2006年1月なのでその約1年前、絲山秋子初の書き下ろし長編小説だったようです。絲山秋子の作品は、「沖で待つ」の芥川賞受賞をきっかけに、僕も何冊か読み、このブログにも書きました。


そもそも「くそたわけ」とはなんぞや?どなたかが書いていましたが、どうも名古屋の方言らしい?真偽のほどはわかりませんが。この作品の最後の最後に、「なごやんは浜に降りて行って、青い海を挟んでくっきりと浮かび上がっている薩摩富士に向かって前のめりになりながら、『くそたわけっ』と叫んだ。(了)」という個所だけしか、このフレーズ、というか、単語はありません。何となくニュアンスはつかめますが。その個所の横のページ(p169)に、九州全土の地図が載っています。博多から、国東半島を通って別府温泉、大分、そこから阿蘇山を通って一路南下し、小林市から宮崎、戻って、鹿児島から薩摩半島の最南端、指宿まで、経路が黒い線で記されています。


21歳の躁病女性、花ちゃんは、「亜麻布二十エレは上衣一着に値する」という、自分では止めることのできない幻聴に悩んでいます。九州最大の精神科の単科病院の開放病棟に入院していたが、「21歳の夏は一度しかない」と思い、病院から脱走します。「ね、一緒に逃げよう」と誘ったのが24歳の茶髪のサラリーマン、鬱病の「なごやん」、名古屋生まれの名古屋育ちなのに、なぜか標準語で話します。一応、慶応大学を出ているので、4年間は東京にいたことになります。「今は九州ですけど、いずれ俺は東京に帰ります」といいますが、それは嘘でした。


躁の花ちゃんと鬱のなごやん、2人は病院から脱走して、なごやんの車で福岡から鹿児島までの九州縦断の旅が始まります。その車は「広島のメルセデス」と呼ばれている名古屋ナンバー、マツダ・ルーチェの中古車です。もうハチャメチャな旅です。花ちゃんは無免許で運転しだし、当て逃げまでします。畑の野菜を盗み、ラムネを万引きしてラッパ飲みします。滅茶苦茶ですが、せっぱ詰まった悲壮感が無く、なぜか道すがらのどかな雰囲気が漂っています。花ちゃんは博多弁でまくし立てます。なごやんは名古屋弁、じゃなくて頑なに標準語で通し続けます。その2人のやりとりが妙に面白可笑しく、時には混乱して絶妙です。


「亜麻布二十エレは上衣一着に値する」は「資本論」が出所か?「昔はリンネル20ヤールだった」と、旅の途中に立ち寄った医者は言います。「精神病って判ったとたん、振られたと」と花ちゃんが言うと、「人間の欲望は他者との相関性にしかないって。自分の意志とか思考が純粋に存在していないのだから他者と分かり合うことを想定すること自体が間違っているんだってさ」と、なごやんはヘーゲルを引用して言います。「ねえなごやん、悲しかね、頭のおかしかちうことは」と花ちゃんが言うと、「いいらしいよ、ラベンダーの香りって落ち着くんだって。・・・ふたりで、探そうよ」となごやんは初めて「ふたりで」と言います。そして2人は知林ヶ島の浜でラベンダーを見つけます。


精神病院から脱走した2人ですけど、「逃げるのに、理由なんていらない」と花ちゃんはいいます。2人が一緒に逃げるのは生まれ育った土地から逃げたいのか?「なごやんだって元は名古屋から逃げたっちゃないと?」、「うるさいよ!俺は逃げたんじゃなくて名古屋を捨てたんだ」「逃げることはできても、逃げ切るなんてしきらんよ。地球にいたら地球に閉じこめられてるのと一緒たい」。誰しも「束縛」逃げたいのは山々です。が、しかし、食べ物のお国自慢にはそれぞれが我を張り、笑わせられます。


JALのマークの入ったホテル、別々の部屋を取り、ダブルベットに寝ころんで真っ白い天井を眺めながら花ちゃんは、「あたしがなごやんを失う日が躁と屋内と言うことを思った。なごやんはいつまでも九州にいる人ではないのだから、いずれ別れるときは来るわけで、その時は佐賀弁をわざと使って、『そいぎんた、またね』と言ってやろうと思った。その時、なごやんは『そいぎんた』が『それじゃあね』という意味だったと知るのだ」。


2人の逃避行も、福岡を出てから1000キロを突破します。薩摩半島の先、開聞岳を見ながらなごやんは「俺さ、ほんとはきょう辺り退院の予定だったんだ」と言います。「さすがに疲れたな。帰るか」「うん」「おまえは博多に生まれて博多に帰れるから、いいよな」。自分のふるさとのことをこんなにも複雑なカタチで愛している人もいるなんて、なごやんと会わなければわからなかった、と花ちゃんは思います。そしてなごやんは、薩摩富士に向かって「くそたわけっ」と叫びます。


「逃亡くそたわけ」中央公論新社


映画「逃亡くそたわけ―21才の夏」

映画「逃亡くそたわけ」宮崎フィルム・コミッション

過去の関連記事:
絲山秋子の「沖で待つ」を読む!
絲山秋子の「イッツ・オンリー・トーク」を読む!その1
絲山秋子の「イッツ・オンリー・トーク」を読む!その2
絲山秋子の「袋小路の男」を読む!

絲山秋子の「ニート」を読む!
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