2007年06月02日 12時26分00秒

長嶋有の「夕子ちゃんの近道」を読んだ!

テーマ:本でも読んでみっか

yuuko


昨年創設された「大江健三郎賞」、ノーベル賞作家の大江健三郎が1年間、若い作家の作品を読み続けて、1人で選考した作品、果たしてどんな作品が選ばれるのか、いやが上でも興味が増します。この賞は賞金はなく、外国語への翻訳・刊行を賞とするだけです。その栄えある「第1回大江健三郎賞」に選ばれたのがこの本、長嶋有の「夕子ちゃんの近道」でした。奥付を見ると1006年4月30日発行とあり、発表があってからすぐさま書店に走って購入した、僕が持っているものは2007年5月15日3刷です。


先日もこのブログで書きましたが、長嶋有の「泣かない女はいない」、題名だけの興味でブックオフで購入し、しばらく経ってから読みましたが、まさか30代の男性が書いたとは思えないほど、女性の心理を見事に描いていました。一見平板ですが、微妙な細部まで正確に描き出されています。まるで柴崎友香の書いた作品かと思うぐらいに。長嶋有は、29歳で「猛スピードで母は」で芥川賞を受賞します。それについてはこのブログでも書きました。その中にあるデビュー作「サイドカーに犬」がなかなか良かったと思っていたら、映画化されたようです。ナゾの女・ヨーコさん役の竹内結子が好演しているらしい!


さて、「夕子ちゃんの近道」ですが、本の帯には以下のようにあります。
アンティーク店フラココ屋の二階で居候暮らしをはじめた「僕」。どうにも捉えどころのない彼と、のんきでしたたかな店長、大家の八木さん、その二人の孫娘、朝子ちゃんと夕子ちゃん、初代居候の瑞枝さん、フランス人のフランソワーズら、フラココ屋周辺の面々。その繋がりは、淡彩をかさねるようにして、しだいに深まってゆく。だがやがて、めいめいがめいめい勝手に旅立つときがやってきて。


長嶋有、初の連作短編集です。古道具屋というと、近くは川上弘美の「古道具 中野商店」を、そしてまた、古くは村松友視の「時代屋の女房」を思い浮かべます。共に古道具屋に集まるどこか怪しい人々を軽妙に描いた、名作の誉れ高い作品です。はっきり言えば「夕子ちゃんの近道」は「古道具 中野商店」に非常に近い作品と言えます。むしろ下敷きにしたと思えるほど。が、しかし、調べてみると、もともと長嶋有のお父さん、長嶋康郎氏は、国分寺の恋ヶ窪というところで「ニコニコ堂」という古道具屋を営んでいたんですね。

gunzou

長嶋康郎の経歴を見ると、1947年、新潟県生まれ。獨協大学文学部卒業。ロック喫茶店共同経営、土木作業員を経て、1978年より「古道具ニコニコ堂」店主。各地の骨董市でも店を開く。とありますから、こちらの方が古道具屋としては年季が入っています。河出書房新社から、古道具を巡る人と物との関わりをユーモラスに描き出す「古道具ニコニコ堂です」という本を出しています。そんな日々の体験が長嶋有の「夕子ちゃんの近道」の細部に生きています。



僕はフラココ屋の「4代目バイトくん」です。お店の2階に住んではいるが、仮りの居場所という気でいる。かといって新しい住居や仕事を探すでもない。白髪の執事が降りてきて「ぼっちゃま」と言う、そんな妄想が。その僕は、「古物を扱っていると、それがせいぜい売り子ぐらいの浅いかかわり方でも、これまで築き上げてきた価値観が狂わされることがよくある」。そして「古道具屋にいるということは、物の価値が転倒している様を間近でみつづけるということで、だんだん生き方もそうなのではないか」と、僕は考えるようになります。でも「物は古びることで価値をまとうけど、ヒトはナマモノなんだから」と、瑞枝さんは自分に言い聞かせるように言います。



「ヘタウマの手練れ」と言われ、「いまどき稀な、したがって日本文学の新しい人物像」と大江健三郎に言われた長嶋有。「この語り手は、自分を指す主語をできるだけ省略しようとします。さらに自分の来歴は、わずかに抽象して語ることしかしないし、小説を読み終わっても、その姓名はわからないままです」。



人を食ったような名前の朝子さん、夕子ちゃん。夕子ちゃんは先生と怪しい関係。店長の前カノ?過去に関係がありそうな瑞枝さんやフランソワーズ。ひとりひとりは得体の知れない人ばかり、がしかし決して素性の深追いはしません。でも魅力的な人ばかりです。店長のお母さんもまた魅力的な人です。頑固そうで口うるさい大家さんも「あの子らはかわいそうでね、親同士が離婚しちゃったろ」と孫娘たちを気遣い、「だからだよ」と「寂しくなきゃやらないよあんなこと」と哀れんだりします。最終章で、僕はパリのアパルトマンの中庭で、夕子ちゃんが洗濯物を干しているのを見て、不意に自分が旅をしていると思います。「フラココ屋の2階に転がり込んだときから、旅というものがずっと途切れずに続いているように」僕は思います。



70代のベテランと30代の気鋭、大江健三郎と長嶋有、公開対談の席で大江健三郎は、受賞作について「子どもは近道を持っているが、成人で近道を持つ人間を考えたのは独創的」と評し、「文章を短くして正確にするということが自覚的になされている。逆に、無意識に短くする人は先細りだと思う。たくらみようがないから」と語ったという。最終章「パリの全員」について長嶋有は、「最後の7話は蛇足だという批評があったが、大江さんに『僕はそうは思わない』とおっしゃっていただき報われた。風船は脹らませた後に結わえないと風船にならない。6話までで息を吹き込み、7話で結わえる作業だった」として、「オチを付けることを律儀にやろうと思った作品」と自作を振り返ったという。

(参考:朝日新聞2007年5月27日文化欄)


長嶋有公式サイト

過去の関連記事:

長嶋有の「泣かない女はいない」を読んだ!
第1回大江健三郎賞に長嶋有さんの「夕子ちゃんの近道」

講談社が「大江健三郎賞」創設 選考は大江氏1人
長嶋有の「猛スピードで母は!

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コメント

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2 ■kazu19902000さん、コメントありがとう!

自分では「読書家」と言われるほど、読んでるとはとても思いません。このブログに書いている物は1年間に70冊位じゃないでしょうか?もちろん、読んでも書いていないものもありますが。ライトノベルや推理小説、ベストセラーのたぐいはほとんど読みませんから、読むジャンルが限られています。自分ではまだまだ読み足りないと思っていますが、最近はご多分に漏れず、読書のスピードが遅くなってきました。これからも、よろしく!

1 ■すごい読書家で!

私のように、買ってばかりで読まない本ばかりの人間から見たら、「とんとん」さんの読書力にはただ驚嘆です。見習わなくては(‐^▽^‐)

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