山田詠美のデビュー作「ベッドタイムアイズ」を読んだ! | 三太・ケンチク・日記

山田詠美のデビュー作「ベッドタイムアイズ」を読んだ!


スプーンは私をかわいがるのがとてもうまい。ただし、それは私の体を、であって、心では決して、ない。」これは言うまでもなく、山田詠美のデビュー作「ベッドタイムアイズ」の冒頭の部分です。この作品で1985年の文藝賞を受賞したというから、いまから20年前の作品です。このブログにも書きましたが、先日、最新作「風味絶佳」を読み、彼女の他の作品はまったく読んでいないので、たまたまブックオフで見つけたものですから、デビュー作品である「ベッドタイムアイズ」を読んでみようと思ったわけです。


「日本人の少女と黒人の恋人との出会いと別れを、痛切な抒情と鮮烈な文体で描き、選考委員各氏の激賞をうけ文芸賞を受賞した話題のベストセラー。」と本の宣伝文句にあります。面白いのはこの本、後ろに「昭和60年度文芸賞選後評より」として、江藤淳、野間宏、河野多恵子、小島信夫の各選考委員の選評が載っています。この作品を最も推したのは江藤淳と河野多恵子だったらしく、本の帯にもその選評が載っています。河野多恵子は「感性や知性を認識手段とするだけでは捉えきれない未踏の真実を的確に生み出し、本当の新しさを示す。」と絶賛しています。


デビュー作がその後の作家をかなりの部分顕わしているとか、そういうことを言うつもりはまったくないのですか、やはり読んでみると20年前の時代が大きく作品に反映していますね。当時は、「黒人脱走兵とクラブシンガーの大胆な愛の物語」ですから、性描写だけを抜き書きされたり、社会的にもセンセーショナルに取り上げられていたようです。そういうこともあってか、山田詠美の作品というと僕は避けていたような気がします。僅か101枚のこの作品、アッという間に読み終わりました。実はこの作品、どうも以前読んだことがあるんじゃないかと思い始めました。そういう「既視感」がなぜかこの作品にはあります。


私の心には、もう公式が出来ている。
2sweet+2be=4gotten (Too sweet to be forgotten.)


「忘れれられることは甘すぎる」、と訳せるかどうか。スプーンは脱走兵ですから、別れは迫っている中での限定された空間での、体と心のズレを描いています。1987年には映画にもなったようです。キム役は樋口可南子、マリア姉さんは大楠道代です。それで思い出しました。赤坂真理の小説「ヴァイブレータ」、これも寺島しのぶで映画にもなりました。同じようなテーマにみえますが、いや、違うかも知れませんが、主人公の女性の哀しみははるかに「ヴァイブレータ」の方が数段上だと僕は思います。