2009年09月07日(月)

一枚のレコード

テーマ:音楽の話
 クラシック音楽を愛する人にとって、一枚のレコードはとても重いものです。
 それは一枚のレコードに刻まれた音楽に、独特の価値を感じるからです。
 近頃はほとんどの人がCDで聴くため、レコードと書くのは間違っているかもしれません。しかし、音の記憶という意味もあり、ここではレコードと呼ばせてもらいます。

 ふり返ってみると、わたしにとって最初の重いレコードは、カール・ベーム指揮のモーツァルト交響曲第41番『ジュピター』でした。毎朝、毎晩、必ず聴いたレコードです。
 それに続いたのはフルトヴェングラーの指揮、ベートーヴェン交響曲第5番と9番の刻まれた二枚組のレコードになるでしょうか。
 ジュピターと合唱付きの間に、何枚も好きなレコードはありましたが、重さで計るなら、この順になるでしょう。

 フルトヴェングラーに続くのは、人生でも大きな意味を持つ『大地の歌』です。
 ブルーノ・ワルター指揮、ニューヨークフィルハーモニー。
 この曲に出会っていなければ、今のわたしはここにいません。

 『大地の歌』に続いて、たくさんのマーラーのレコードが来ますが、重さを考えると、『大地の歌』に続いたのはブラームスのピアノ協奏曲第1番になるでしょう。
 この曲と出会わなければ、今のわたしは大きく違っていたはず…。まず、スキーをやっていないでしょうから。
 ブラームスの協奏曲に捉えられた頃のわたしは、同時に何種類ものレコードを聴くようになっていました。いちばん聴いたのは、そして今もよく聴くのはイッセルシュテット指揮、ブレンデルです。

 音楽の流れはモーツァルトからベートーヴェンへと流れ、マーラーへ進み、ブラームスへ辿り着きました。
 その途中、ショパンやシューマン、フランス音楽やバッハに想いを熱くした時期もあります。しかし、ふり返ってみると、人生を変えたり人格形成に影響を与えたのは、上記の4人の作曲家たちだと信じられます。

 そんな作曲家やレコードには「もう出会わないだろう」と想うようになって、ずいぶん時が流れました。
 しかしどうも54才にして、新しい作曲家と演奏家、そしてレコードに取り憑かれたらしいのです。
 作曲家はショスタコーヴィッチ。演奏家はセルゲイ・ハチャトゥリアン。レコードはヴァイオリン協奏曲第1番です。

 この曲から現代文明への厳しい批判が、わたしには聴こえてきます。
 音楽を超えた思想が、わたしを揺さぶり、気づかないものに気づかされたり、隠されていたものを見せられたりします。

 素晴らしい音楽は、一つの世界を見せてくれますが、その世界とは紛れもなく聴き手の心です。
 一音一音が、聴き手の心の深いところに光りを当て、自分でも知らない真の姿を見せてくれるのです。
 驚きと覚醒に満ちた一つの体験。時に恐ろしく、時に美しく。

 セルゲイ・ハチャトゥリアンは若いヴァイオリニストであるにもかかわらず、デビュー後初の大曲録音にショスタコーヴィッチを選びました。しかも、ポピュラーな曲との組み合わせではなく、ショスタコーヴィッチの1番と2番の組み合わせです。
 そこに、外見や話題性で世に出ることの多い他の音楽家と、違う何かを観るように思います。

 ショスタコーヴィッチで、生きたビブラートを響かせるのは難しいのではないでしょうか。
 どこかおどろおどろしくなってしまったり、逆にあっさりとしすぎたり…。
 近頃の若く美しい女性ヴァイオリニストのほとんどが、美しいけれど意味の感じられないビブラートを響かせるのに対して、セルゲイのビブラートはすべてが重い振動を伴ってわたしの心を揺さぶります。現実には細かい振幅なのですが…。
 そんな感動を、彼とわたしの相性と云ってしまうこともできるでしょう。しかしわたしは、自分がショスタコーヴィッチに感じている深くて重い何かを、演奏するセルゲイも感じているのだと信じられるのです。

 年をとると、目眩くような体験が少なくなるように思っていましたが、チャンスさえ与えられるなら、人間はいつまでも心の底から感動できるようです。
 そんな素晴らしいレコードが、セルゲイ・ハチャトゥリアンのショスタコーヴィッチ・ヴァイオリン協奏曲第1番です。
ショスタコーヴィチ;ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調
¥1,297
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