鳥が運ぶ過去と未来

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夜明け前、わたしのベッドで騒ぐものがいる。妻ではない。猫でもない。布団をあげると、わたしの胸から二羽の鳥が首を出している。赤と黄色の鳥と青と黒色の鳥。私の顔を見ると話しだした。
「ガァー、ガォー、ガッ、ガッ」
「ぎゅるるー、ぴー、ぎゅるるっぴ」
カタカナは赤と黄色の鳥。ひらがなは青と黒色の鳥。二羽は私の目を見つめて、できるだけ配慮して声を落として話しているのがわかる。
赤と黄色の鳥は、これから時間の壁を超えて過去へ飛んでくるという。過去がどのていどなめらかに落ち着いたか見てくるという。青と黒色の鳥は、やはり時間の壁を超えて未来へ飛んでくるという。未来がどのていど準備できたか確認してくるという。
何故、なんのために彼らがそれをする必要があるのかピンとこなかったので、私は正直に思うことを半分寝ぼけながら言った。
「過去は昨夜の天丼の食べ残した海老の尾のようなものしかないと思うよ。もう食べれないし、美しいものではない。未来には食べる前、いや、天丼屋でご飯と天ぷらを入れタレをかける前のプラスチックの四角い弁当箱のように、味気ない空虚さしかないと思うけれど」
すると二羽はそれは断じて違うと主張し、少し声が大きくなった。二羽の口を押さえて私は、「わかった、わかった、きみたちが好きなようにしたらいい」と言うしかなかった。あのままでは妻が起きるし、上の階の住人に迷惑をかける。
二羽は、頷くと、すっと私の胸から全身を現し、羽をひと叩きしてそのまま天井を突き抜け消えて行った。
昨夜の天丼の穴子は大きかったので半分残してあるな、あとであれ食べようと考えていると、天井が赤と青に一瞬ひかり、二羽は私の胸に戻ってきた。はやいものだ。そうか、障害物はないし、時の流れに波や難破船があるわけではないからーーーーいや、あったかもしれない。鳥に訊かなくてはと考えていると、二羽は小さい声で話し始めた。
ガィー、ガェー、ガック、ガッタ」
「ぎゃらりー、ぽー、ぎょらりっぴ」
赤と黄色の鳥は、私の過去にはちょっと語るには恥ずかしい罪と後悔があり、風も冷めた天ぷらのように湿っている。しばらく治まるのを待った方がいいという。青と黒色の鳥は、未来には死があったが、油に入れる前の竹輪のようにだらりとしているから、やはりしばらく待った方がいいという。
私はなんとなく納得した。待った方がいいと。それにまだ早朝で眠いのだから、いづれにしろ動く気がしないし。
ところで、と私が難破船とかあるの?と訊こうとした時は、すでに鳥たちは鳩時計より速く静かに胸のなかに入ってしまった。
まあいいさ、明日にでも訊くさと、私は眠りに落ちた。
夢を見たんだが、衣をつけられ油に指で摘んで落とされる夢だった。寝汗をかいたのは油のせいか、時を流れる冷めた天ぷらのような風のせいかわからなかったが、二羽の鳥の話が原因だとはわかった。明日、注意しなくては、と汗を拭くとまた眠りに落ちた。
次は昨日の穴子天ぷらの残りを電子レンジでアツアツにして食べる夢だった。



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チキンかなしや

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チキンかなしや、かなしやチキン。チキンを食べる時、思い浮かぶ歌である。鳥たちの生活?する小屋、その生涯を考えると、この歌が似合う。産まれて、食べられるために太らされ、ある日首を捻られ、羽根を毟られ、熱湯をくぐり、包丁を受ける。
酷すぎやしないか!と思いつつ、ケンタッキーフライドチキンを食べる。
今日、丁度チキンを食べているところでインターフォンがなった。見てみると、人間ほどの大きい鶏とカーネルサンダースさんが立っている。二人の視線はカメラに真っ直ぐ向かっていて、すでに見られている気がした。
「どちらさまですか?」
「カーネルサンダースとキングオブチキンです。お話ししたいことがありまして」
「どういった御用でしょう」
「顔を合わせてチキンと、イヤきちんとお話しする必要があるけっこ」大きい鶏が返事をした。勢いに負けて、ドアを開けた。
「今日はチキンと、イヤきちんとお話ししなければならないと思って、参りましってこっこ」
「どうしてもその必要があると判断したものですから」
二人、イヤひとりと一羽はドアから同時に入ろうとして入口に肉団子のように詰まってしまった。つくねのように、というべきかも。
「あなたは昨日フライドチキンを食べて、皮を残しこけーこっこ」
そういえば昨日、西日暮里のケンタッキーフライドチキンに行った。しかし皮を残したかどうかは覚えていない。
「わたしの仲間は命をかけてあなたの前に出て行ったのに、皮を、皮を残しっこ、こっここんなこと許されないっこ」
キングオブチキンはきちんとわたしのテーブルの写真を見せた。鳥のデコレーションのiPhoneで。指が無く、爪なので扱いは面倒そうだった。
証拠を出されては否定しても問題が長引くだけだ、今日は急ぎの仕事がひとつあるのだから、早く終わらしてしまわないと。わたしは、ごめんなさい、次からは皮もチキンと食べますと頭を下げた。
「きちんと、きちんと、きちんと、こっこ」
キングオブチキンが少し落ち着いたと思ったら、カーネルサンダースが顔を赤らめ話し始めた。顔が赤いのは、キングオブチキンに全身を扉の枠に押しつけられているからだろう。
「わたしが抱えているのは別の問題です」
コホンと咳をした。
「あなたは村上春樹が描いたわたしについて、好印象を持っていないとお見受けします」カーネルサンダースーー????あっ、『海辺のカフカ』だ。
「別に悪い印象は持っていませんよ。わたしにとってあなたは、チキンを食べるには絶対的に必要な方ですから」
キングオブチキンがわたしとカーネルサンダースを見比べた。
「あなたがチキンの首を捻り、羽根を毟り、刻んで油に入れ、11種類の香辛料にまぶさないと、わたしはチキンを食べれないのですから、感謝しています」
キングオブチキンが嘴でカーネルサンダースの首を摘んで外に引っ張った。
玄関前で、ひとりと一羽は人間の言葉でなく鶏語でしばらく言い争っていた。カーネルサンダースは鶏語が得意そうで、全く引けを取らなかった。
こっけ、ココ、かこっこ、ケッコ、けけこっこーーひらがながカーネルサンダース、カタカナがキングオブチキンで、やはり発音には少し違いがあった。
しばらくするとキングオブチキンが、「今日はこっけ、迷惑をおカッケしましココこっこ」と言い、お辞儀をした。
「これからもよろしくこっこ」
「これからもごひいきによろしくお願いします」
カーネルサンダースはキングオブチキンに首を嘴で挟まれたままお辞儀をし、ひとりと一羽のドアを閉めた。
お腹が空いたわたしは、昨日食べきれずに持ち帰ったチキンを電子レンジに入れた。
なにしろ仕事があるのだから。
あたためたチキンは、キングオブチキンのほお肉のような感じがして、ためらわれたが一気に食べた。チキンかなしや、かなしやチキンと歌いながら。


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お店買います

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ノゾムは会社を辞めた。理由?流れだった。青森への突然の転勤命令にノゾムが顔を歪めたのだろう、上司は「嫌ならーー」と黙った。ノゾムは「そうですね」と言った。その場で退職届けにサインをさせられた。
ビルの自動ドアを出てから、ノゾムは何処へ行くか悩みもしなかった。最高高級車の販売店を設立した。ショウルームはない。お客は前の会社の中でも高級取りの極一部のエリートだ。一台1000万、利益200万、二ヶ月に一台売れると充分だ。
会社設立し、ひとまず自分のワンルームマンションを本社にした。
電話回線を二つ引いた。電話とファックスのためだ。
このファックスがうるさいーー母親より、恋人より、朝枕まで来て顔を叩く猫より。いや、深夜墓場を走り回る亡霊よりーーこれは言い過ぎか⁈
ノゾムが販売するのは、イタリア車に限っている。日本での販売会社が少ないのと、一度癖があるイタリア車に惚れ込んだひとは、その癖が好きになり他の車に乗れないのだ。デイトの度に三十分遅れ、そのくらいで怒るなんて男としてレベル低いよ、と言いながら、二人だけになると首に巻きつき「愛してる、ごめんね」を言い続け、ベッドに転がる。そんな感じだ。イタリア車のメーカーには悪いがそういう感じがする。
幸せな結婚のためにはイタリア車を選ばないだろう。イタリア車はその時を楽しむためだ。そうでないと、ドアが閉まらなくなったり、手を放すと左に曲がって行く車に乗らないだろう。女性の皆様、ごめんなさい、しかし、男にとってはそうなのだ。ドアが時々落ちる、ウィンカーが折れる、ギヤが入らない女性になぜか惹かれるのだ。もちろん幸せなドライブは保証されない。
山の中で一夜を過ごしたり、そこで恋に落ちる出会いがあったり(その落とし穴はいたるところにある、銀座にも浅草にも下北沢にも)するのだから。
話を戻そう。
そのイタリアの輸入販売を始めて、事務所を整えた時、直ぐたくさんのFAXが来た。一日二十枚。
内容は、「業務用スパゲティ、安く販売します」「台湾出身の中国人を雇いませんか?派遣します」(北京出身のノゾムの奥さんは怒ってこう言った、「台湾出身なら良いの⁈ 悪さは同じだよ」ーー確かに、悪さは全人類同じだ。しかし、レストランへの派遣に台湾からのひとを本当に連れて来ているのか⁈ 本当は中国本土のひとではないのか⁈ーーノゾムは言わなかった。
業務用スパゲティ10kg、マッシュルーム2kg、ホールトマト24缶、それに便利そうなスパゲティトング、ソースパン5種セットーーいろいろな宣伝が毎日来る。
FAXのトナー代と紙の料金を考えたらとんでもない、と毎日厚くなった紙を捨てていた。
ある日、ノゾムは一枚の紙を捨てれずにテーブルに置いて一時間は見ていた。
それはA4のモノクロに、「わたしの過去を消してください。料金3万/日」とあった。
今の収入よりいいじゃない!!!
ノゾムはFAXにある電話番号に即電話した。
ルールー、ルッ。
「お世話になります。過去消し代行のボーケです」若い女性の声だ。
「東京都xxxxxxxxxxxxのyyyyノゾムさんですね」
つい、ノゾムはハイと返事した。電話番号が登録されています。今日のご注文は?
実はこのFAXは先週から契約して使っているのですが、毎日イタリアン料金の材料と調味料、調理器具の宣伝のFAXがたくさん届くのですが、うちはイタリアの特別な車の輸入代行会社でレストランではないのです。
「申し訳ございません。FAX送信会社は別でございましてーー」
「そこの番号は?」
「秘密保持契約で公にできないんですねーー」しばらく黙って(多分考えて)彼女はこう言った。「どうでしょう!!!ほとんど有名なインターネット案内から検索して自動でFAXしていると思います。有名なインターネット案内の会社に電話をなさっては????」
京都の街を一日歩いた後の感じで、ノゾムは「ありがとう」といった。言葉の合間に淀川や河原町の渋滞の悩みをはさみながら。
『ジャラン』には消してもらった。しかし、FAXはへらなかった。
ノゾムは決心した。『お店買います』のFAXにはすべてメールで、査定してくださいと送った。『スパゲティ卸します』のFAXには、10%の値下げ依頼のメールを送った。同時に、東京の文京区、北区、他北側のイタリアンレストランに、受信したFAXの値引きを消して見積りを作成し送信した。
半年後、ノゾムはイタリアンの男を紹介する仕事までひろげた。ひろげざるを得なかった。台湾出身のコックを送るより良いだろう。
人手が足りない時は、髪を染めて、片言日本語のノゾムが出向く。
時々、『お店買います』のFAXが来ていた。ノゾムは『お店売ります、イタリアンコック付き』のFAXを北東京地区に送った。狸と狐にピザを売りに行く感じだった。
三週間後、電話がきた、
「お店、売られるんですか?」
「もちろん、値段によりますが」
「そのあとも勤めて頂けるんですよね」
「もちろん、そちらが満足してくださるのでしたら」
「イタリアンでも、特別なシチリア料理も大丈夫ですか?」
「なんでも」

ノゾムは店を売った。買った時より3000万高くで。条件はコックとして20年勤めること、その保証としてありとあらゆるものを担保にさせられた。

ビザ、スパゲティ、チキンのバジル炒めーー半年はそれが続いたーーそのあと、トマトのピザ風グリル、スパゲティの麺抜き、チキン炒めのバジルとオリーブオイル抜きが増えた。客層も変わっていった。
一年後、トマトとハムのサラダ、チキンの半焼きの注文が増えた。

仕事にやりがいを失ったノゾムは妻のノゾミに、ある日、店をやめたいと打ち明けた。「良いんじゃない!!」と言うノゾミの横顔が口が飛び出て、耳が高く、尾まであった。「それで、子どもとわたしをやしなっていけるなら」
頭まで布団を被って寝た。

翌朝、ノゾムはいつものように鳥の羽根をむしっていた。「おはようございます」挨拶して行く人びとが、口が長くなり、耳が立ち、スカートの裾から襟巻きのようなものが下がっているとしか思えなかった。













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