2009-07-08 06:47:56

「水中のシークレットガーデン」

テーマ:ブログ
「君を好きになってしまったんだ、もう僕の頭の中に入れるのは君と薄荷とボリス・ヴィアンくらいのもんさ」

「'薄荷'はやめなさいって言ったでしょう」

「薄荷がなくては頭の中が腐臭を放つじゃないか」

「だったらお菓子を食べればいいじゃない」

「生憎パンもお菓子も好きじゃない」


そうやって僕らは僕の庭を作ることに決めた。
僕の頭に入りきらなくなったものものを、しまっておく庭が必要だった。

砂粒みたいに細かい日差しを浴びながら、錆びたスコップを持つ手で夏の続きを掘っては整えた、誰も知らない7月7日。何処だかわからない場所に居た。
周りには何もない。
蜃気楼のせいで来た道は歪んでしまい、僕達は取り残された。
誰かの捨てた西瓜の皮が、地面の草の生えていない部分に沢山落ちていて、干からびた種は黒を渇かせ散っていた。

僕達はまず、やわらかくした土をレンガで区切っていった。
時々眠りを邪魔された虫が迷惑そうに鼻を鳴らす。
元気がない土にはキャンディを撒いておくことも忘れない。
スイートは最上級の養分だからね。

空は一層高くなり、見上げると太陽の溶けたしずくが目にしみて痛い。

一等大きく囲った土の中には僕の頭くらいある黄金色の球根を埋めることに決め、一緒に飼っていた猫と全身鏡と今まで付き合ってきたガールフレンドも埋めた。

向かいの花壇には土が足りなかったので僕の愛読書を1冊1冊手に取り、1ページ1ページ丁寧に小さな文字を手で払っていった。
さらさらと文字が落ちていく。しばらくは土の上でざわざわ蠢いているが直に土に馴染むだろう。

「そうしたらスナック菓子の苗でも植えない?そんでコミックしか読まないガキ達にも食べさせてあげましょうよ」

そんなことを言う彼女には見えないように、僕はこっそりヘッセの詩集も土に還した。

そうやって、大切にしていたグレイのパーカーやカメラや映画の半券をしまったり埋めたり飾ったりしていくうちに 周りには負けず嫌いな木やパラソルが生え始め、大分豪華な庭っぽくなってきた。

「暑いね」

「疲れてきたわ、セブンアップが飲みたい」

あたりに自動販売機は見当たらなかったが、僕が持ってきたらしいスミレ色のリュックサックのポケットにはちゃんとセブンアップが入っていた。

土の詰まった爪をプルにひっかけ力を込めると、小さく間抜けな音がして8月の蓋があいた。


「後は何かしら、そうね池が足りないわ」

「それは愉快だね、噴水もあればさらに文句なしだ」

「でも水はどうする?」

「僕の涙腺が1つ余っているから、それを使えば大丈夫だ」

「それなら早く造りましょう」

僕達は大理石によく似た代理石を拾い集め、削ってよく磨いてから膝ぐらいの深さに丸く掘った土の周りや中に敷き詰めた。

そして仕上げにジーンズのポケットから涙腺を取り出して、池の真ん中に埋め込む。

何か悲しいことを考えなくてはならない。
悲しいこと。僕は彼女がいなくなってしまうことを想像した。
体がかっと熱くなって、体中の水蒸気がざわざわと暴れる。続いてすぅっと一点にそれが集まる感覚。

途端に池の真ん中が空をめがけてさぁっと飛沫を上げ始め、
あっという間に僕らの池は水で溢れかえった。

やがて水辺にはファニーフェイスな鳥たちが集まりだし、彼女はいつのまにか水着に着替えていた。
金色の、僕の知らないセパレートのやつだ。

「なんだ、僕があげたグリーンのワンピースの水着じゃないの?」

「せっかく誰もいないんだもの、露出したって悪くないでしょう。それにほら、私意外とウエストも細いわ」

「でも君、そんなに派手なもの、君にはあまり似合ってないよ」
僕はなんだか初めて彼女の体を見たような気になって幾分寂しさを覚える。

「昔のボーイフレンドにもらったものだから私の趣味じゃないわ、だから汚したって構わない」

彼女はショーツに指をひっかけてぱんっと音をたてながらおどけて見せたが、なんだかたまらなくなった僕はそれを無理に脱がせようと躍起になった。
やめてよ、と語気を強める彼女を無視し、僕達はそのまま池の中で荒く体を交わした。
汗と唾液とデタラメな涙を互いの体に貼り付け合っては、池の水に何度も清められた。


気がつくと空は血のにじんだようなスミレ色で、疲れ果てた僕らを生えすぎた木々が囲っていた。
細い風が肌寒く、彼女は震えていた。

僕は気を取り直そうと気に入りのレコードかき集め、くしゃみをしながら木の枝に穴をひっかけて何枚もそれを飾った。
木々が互いに相談しあって上手くそれらを調合し、聞いたこともない素敵な音楽を奏で始めると、彼女はようやく元気を取り戻したようだった。

「素敵!ジャズやクラシックやロックをぜーんぶまとめてシェークして、ソーダでアップしたみたい!」

腰をゆらし、頭や手足をめちゃくちゃに動かす。
体が温まり、うっすら汗が滲んでも、
僕達は踊り続けていた。


それから数日間(だか数週間、もしくは数年間?)、僕達はそこで暮らした。
あの夏の夜、'庭というからには家がなくては本末転倒だわ'という彼女の言葉に、僕は大きく頷いたというわけ。

家はお粗末だったけれど、庭には何時もフルーツやスナックが実ったし池の水も枯れなかったから、僕達の生活はまあまあだった。
ノットソーバッドくらいがライトなんだってことを、僕達はちゃんと知っていた。

僕は彼女を愛していたし、庭は豊かで、頭の中には薄荷もいらないくらいにすっきりと彼女だけが収まっていた。

思い出やカレンダーや時計ももちろん庭の土の中だったから、
ちっとも寂しくなんてなかった。

だけどある朝。
あれは仕方なかった、目覚めたら庭に埋めたはずのものものが僕のリュックに全部詰まって枕元に置いてあったんだもの!

僕はびっくりして、横で眠る彼女を起こそうとしたよ。
けれどもまたびっくりしてしまったんだ。
なぜなら横で眠っている彼女はもう僕のスイートハートではなかったからさ。

上手く言えないけれど、僕には確かにわかった。
もう僕の愛した彼女はどこにもいないんだって。

本当に悲しかった。
本当さ、僕だって悲しかったんだ。
その証拠に庭の池からは水が溢れかえってそこらじゅう水浸しだったのだからね。

咄嗟に、早く逃げないと溺れてしまう、と怖くなった。
後はあっという間だった。

リュックを背負い、彼女にさよならのキスをした。訳が分からないくらいにめちゃくちゃに走って、ふと後ろを振り返ると庭は水の中だった。

いつか庭から見た道や外の世界が蜃気楼でゆらゆらと曖昧に溶けていたように、
外から見た庭は水の中でゆらゆらとただ美しかった。

水の中から彼女の歌が聴こえた気がしたけれど、リュックが重たくて僕はもう動けなかった。

座り込んで懐かしい重さのリュックを抱きしめながら、置き忘れてきた僕の涙腺を想った。

[WAY=OUT]-20081221013223.jpg


マイシークレットガーデン、僕がしまってきたのは彼女だった。




**********************
なぜかちゃんとあるセブンアップ、
悲しい性交、
甘い食事、
囲う木々、
相手がいなくなることを想像するより相手を好きではなくなった時の方が大泣きする僕の涙腺、

私の恋愛観をショートショートにしてみました。あの作家さんに影響受けまくりです。


要は、去った後も「僕」が泣くたびに水が溢れ植物が枯れることのない庭。
人って都合よく感傷的になってしまうから、昔の恋を想って泣いたりする本当に弱い生き物!

駄文サーセンw

コメント

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1 ■ブログを読みました☆

どうも初めまして☆
私は今年うつ病にかかってしまい、在宅で仕事をしている久恵と申します。
今日は一日気分が乗らず、色んなかたがたのブログを読ませて頂いていてこのブログ記事に辿り着きました。
もし良かったら、また読ませて下さい。
毎日自宅で苦痛なので、こういった記事が読めればうれしいです☆

2 ■無題

ありがとうございます。
恥ずかしくてなかなか書けませんがまた機会があれば ぜひ。
体調が良くなることを陰ながらお祈りします。

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