本が好き!プロジェクト第三十三弾レビュー!
テーマ:本が好き!プロジェクト(書評)
アンダーカレント
- 豊田 徹也
- 講談社
- 980円
月刊「アフタヌーン」の連載を経て、2005年に単行本化された作品。
銭湯の若女将のかなえの前から突然失踪した夫。
その心の空白が、如実に描写されるこの漫画は、かなえの心象風景が、実際の風景の色使い、表情によって表され、読む者の心を強く捉える。
空気感。そう、これほどまでに空気感を描き込んだ作品は少ないのではないか?
人生の明暗をデフォルメに任せることなく真正面からトレースしようとする筆者のある種の姿勢が、こちらにも静かに迫ってきて、私は、音の無い部屋の中で、ただページをめくり続けた。
その(夫を失ったという)喪失感を、決して感情に表すこともなく、ただひたむきに銭湯の湯を焚き、風呂場を磨くかなえ。
しかし、物語全体の持つ空気が、悲愴な絵の旋律に任せ、胸を何度もノックしてくるのだ。
人は、人を失うと、平常心は失うのは当然だ。ゆえに、本書のかなえも、言葉にすれば、どこまでもその思いは止まることなく流れ出していくことだろう。
しかし、何一つ愚痴をこぼさず、人にも自身の苦しみを相談しないかなえ。
その姿が、読者を強く惹きつけ、彼女の内心は、一体どんな状態なんだと、想像力をかきたててくれる。
人生は、美しい。
が、同時に悲しく虚しいものだ。
愛は、永遠だと思っていても、かなえのように、理由もなく人生の伴侶に去られてしまう女性もいる……。
そんな、かなえの元へ、ここで働きたいという男が訪ねてくる。
堀という無口な男。かなえは、彼を住み込みで働かせ、しかし、まったく二人の間に、ドラマチックなことは起こらない。
ただたんたんと日常が過ぎていき、それでも二人は互い語り合うこともない。
しかし、どこか空気の似た二人は、静かながら力を合わせて仕事をやっていく。
そんな折、かなえの親友から探偵を紹介され、夫捜しを彼女は始めた。
やがて、現れた夫。
しかし、堀の方にも予想もしない展開が……。
そんな人生交差点の真ん中で、かなえは、半分だけ事実を知った状態で、新しい門出へと向かって歩きだす。
結論からいうと、この物語は、ハッピー・エンドではない。
しかし、人生と同じで、道半ばにして結論を出せないように、本書は、非常にリアリティを重視した作品なのだ。
どこまでも空気感重視で、細部においてまで繊細な作風だ。
男と女のとある姿、形。
それを非常にリアルに写実したかのような、読後に、何ともいえない余韻の残る秀逸な作品。
漫画というフォーマットの中で、久しぶりに作品性高き人間ドラマに、私は触れられた気がする。(2008/1)
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