2008-01-25 04:09:09

本が好き!プロジェクト第三十三弾レビュー!

テーマ:本が好き!プロジェクト(書評)

アンダーカレント

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書評 /ライフスタイル



 月刊「アフタヌーン」の連載を経て、2005年に単行本化された作品。




 銭湯の若女将のかなえの前から突然失踪した夫。


 その心の空白が、如実に描写されるこの漫画は、かなえの心象風景が、実際の風景の色使い、表情によって表され、読む者の心を強く捉える。

 空気感。そう、これほどまでに空気感を描き込んだ作品は少ないのではないか?


 人生の明暗をデフォルメに任せることなく真正面からトレースしようとする筆者のある種の姿勢が、こちらにも静かに迫ってきて、私は、音の無い部屋の中で、ただページをめくり続けた。

 その(夫を失ったという)喪失感を、決して感情に表すこともなく、ただひたむきに銭湯の湯を焚き、風呂場を磨くかなえ。
 しかし、物語全体の持つ空気が、悲愴な絵の旋律に任せ、胸を何度もノックしてくるのだ。

 人は、人を失うと、平常心は失うのは当然だ。ゆえに、本書のかなえも、言葉にすれば、どこまでもその思いは止まることなく流れ出していくことだろう。
 しかし、何一つ愚痴をこぼさず、人にも自身の苦しみを相談しないかなえ。

 その姿が、読者を強く惹きつけ、彼女の内心は、一体どんな状態なんだと、想像力をかきたててくれる。

 人生は、美しい。
 が、同時に悲しく虚しいものだ。

 愛は、永遠だと思っていても、かなえのように、理由もなく人生の伴侶に去られてしまう女性もいる……。

 そんな、かなえの元へ、ここで働きたいという男が訪ねてくる。

 堀という無口な男。かなえは、彼を住み込みで働かせ、しかし、まったく二人の間に、ドラマチックなことは起こらない。
 ただたんたんと日常が過ぎていき、それでも二人は互い語り合うこともない。

 しかし、どこか空気の似た二人は、静かながら力を合わせて仕事をやっていく。

 そんな折、かなえの親友から探偵を紹介され、夫捜しを彼女は始めた。

 やがて、現れた夫。
 しかし、堀の方にも予想もしない展開が……。

 そんな人生交差点の真ん中で、かなえは、半分だけ事実を知った状態で、新しい門出
へと向かって歩きだす。

 結論からいうと、この物語は、ハッピー・エンドではない。

 しかし、人生と同じで、道半ばにして結論を出せないように、本書は、非常にリアリティを重視した作品なのだ。

 どこまでも空気感重視で、細部においてまで繊細な作風だ。

 男と女のとある姿、形。
 それを非常にリアルに写実したかのような、読後に、何ともいえない余韻の残る秀逸な作品。

 漫画というフォーマットの中で、久しぶりに作品性高き人間ドラマに、私は触れられた気がする。(2008/1)

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