本が好き!プロジェクト第三十二弾レビュー!

オタクコミュニスト超絶マンガ評論
- 紙屋 高雪、きあ
- 築地書館
- 1890円
「ペンは剣より強し」
時代には新たな人が現れ、思想は同じでも時代時代により、旧イズムという器の中から、新しい更新者。
温故知新していく弁者が登場する。
本書を手にし、私の脳裏には、そう過ぎった。
おそらくは、筆者にとって本書〈書評〉とは、現代の彼なりの共闘かつ運動なのであろう。
革命という極限的理想行動が旧タイプの方法論であるとするならば、彼の中核には、サブカルチャーとしての漫画を通して、一方で純粋にはまりながら、もう一方で社会の在り方を見つめ、それを介して、自身の意見を放っていく(ぶっそうにではなく、とても穏やかに)。
それが新しいという言い方が正確ではないかもしれないが、著者なりの方法論のように私には見て取れた。
さて、本書の書評(漫画評)。
何処に特徴があるのか?
それは文体であろう。
一般の漫画評は(一部のコアな漫画評を除いて)、日常語にて表記され、語られてきたような気がする。
しかし、著者である紙屋氏の文体は、あまりにも哲学的だ。
マルクスの著作物に関らず、彼の勉強されてきたと伺われる哲学用語が紙面を彩り、そこで語られる現代ポップカルチャー的漫画群が、哲学のまな板の上で観測分析されるさまは、現代に、漫画評論家系吉本隆明の登場!かと思わせられるようなインテリジェンスを見せられたような気がする。
つまり、文体が哲学的であるのだから、個々の漫画における内面や行動理由に到るまで、その掘り下げ方が緻密で、しかも鋭い。
さらに驚かされるのが、自身のインテリ性を誇ろうという欲がさほど無く、社会的弱者に目を向け、さらに皮膚感覚で物事を捉えていると、私には感じられた。
そう、著者紙屋氏とは、品行方正な、ハートあるインテリ。
それが私の印象だ。
特に読み応えがあったのが、(残念ながら漫画評ではなく)第3章「仕事」の中の「格差とは貧困の問題である:『ワーキングプア』NHKスペシャル」についての評と、第6章「戦争と政治」の中の「『丸山眞男』に手をさしのべる 希望は、革命。-赤城智弘『希望は、戦争。』について」と、もう一題「いま左翼と保守主義者は共同できるか」の三点の評論だ。
そこで語られる命題と、それを語る筆は、一流の評論家に劣らぬ公共的表現を正確に表記していき、しかも漫画郷の中で井の中の蛙になっているオタクとは一線を画し、社会全体を見通している聡明なその知性に、私は、圧巻されてしまった。
しかし、彼は(まだ若いし)、既成の評論家を目指す道よりも、自身の好きな漫画を語ることで、自身の立つ場所、位置を摸索しているのだと思う。
事実、一般評論家として著書デビューをする道は、極めて困難であるだろうし、それを目指すためには、相当の信念が必要となってくるであろう。
それよりもオタク・コミュニスト漫画評論家という新手の肩書きを武器に、世間に剣(または銃)ではなく、ペン一つでメッセージしていく道。
それを選んだ著者は、ある意味、新しい共産主義の(例えではあるが)ニュー・ファッション・リーダー的存在者として、世に登場した時代の申し子だと、私には感じられた。
(つまり、コミュニスト界のエビちゃんだ)
無論、時代の申し子としてのスケールは小さいことはいうまでもない。
しかし、各分野に、そういう時代に呼ばれた人という存在者は時代時代に登場し、そして、役目を終えると消えていったように、彼も時代が生み出した新しいモデルなのだと思う。
コミュニストという思想デザイナーの思想服を、より現代に受け入れられ、需要を作りだすための。
時代に呼ばれたモデル。
著者の洗練された知性と教養の光る一冊!
~本書は、「本が好き!」プロジェクトにて、「築地書館」様から、「あなた(薫葉)に書いて欲しい」と、指名献本をいただきまして、書評を担当させていただきました。
無論、指名された方は私一人ではありませんが、この度、直接にわたくしめを指名していただけたことには、大変感謝しております!~