本が好き!プロジェクト第二十一弾レビュー!
テーマ:本が好き!プロジェクト(書評)
名づけえぬものに触れて
- 柳 美里
- 日経BP出版センター
- 1575円
livedoor BOOKS
書評 /エンタメ・タレント

私(薫葉)は過去、劇団に所属したことがある。その時、やはり自分は言葉の人間だと思った。
肉体と言葉が均衡する演劇以前に、自身の言葉を探して言葉の森を彷徨う狩人。
柳美里さんが劇団に所属しながらも芝居を捨て、小説道へ転向したのも、どこかそれと似た心理が働いたのではないだろうか?
初めて、TVのドキュメント番組で柳美里さんを観た際に、私はそう予感した。
さて、本書は、02年に自殺された「らばるす」という柳美里ファンの自殺を機にウェブで記録されていき、それを書籍化した日記ブログだが、これを、まな板に載せて、柳美里の文才をどうとか評するのは、ちょっと違うと思った。
文章で生きるものは、常に文章をジャッジされるのが、この世界の暗黙の了解ではあろうが、もし、その角度だけから本書を論じるならば、光る文章は余り見受けられない一人の女性の呟き。
その域を出ないと思う。
しかし、一個の肉体が、こうして一人の人間の死に反応し、ここに自身の足跡を(公共的に)残していったという彼女の心の動き。
そこに人間として、無視できない情を誘われた。
そう、言葉の上では目を惹く言葉は余り見られないが、その奥にある彼女の思い。
それが、一冊の中にパックされていること。
まぁ、それでよいではないか。
私はその角度から本書を評したいと思った。
いや、感じたい。そちらのニュアンスの方が近い。
その奥底を言語化するのが作家の使命。
そういう声も背後から聞こえてきそうだが、今回はあえて、私は耳を閉ざそう。
単純でも、一人の人間の吐いている空気。
そして、彼女の鼓動。
それが活字以上に、何か空気として伝わってくる。
日記。
そう、本書は日記であるのだから。
そういう読み方で、間違いとはいえないだろう。
いや、それは作者の甘えだと反旗を掲げ、高尚な、高尚なものを求めたい。
そう声高に叫びたいなら、それもきっと作者に届くはずだと思う。
何故なら作家は、常に自身の作品に対する評価に神経を向けているだろうから。
しかし、死角までを埋められない。
ゆえに、意見が出るのは、作者が高みに上がることを助ける梯子でもあるだろう。
柳美里という作家の精神不安。
その揺らぎが、彼女の文学の根幹にあるのだとしたら、精神安定した時、彼女の口から、筆から言葉は零れてこなくなるかもしれない。
ならば柳美里という作家は、そこに立ち位置があり、そこを住処にして、これからも書いていく方が、作家生命も長く続くはず。
そうなると、彼女の文章をどうこう評する前に、彼女の不安定さと、アイデンティティに、作家として、個性があり、出版も絶えずに行われる。
~精神は不安定でも、仕事運は頗る強い。そう生まれる際に運命決定されていたのかもしれない?~
そうなると、文章が第一義ではないのだ。
彼女の思考、思想。
それが読者の注目すべきところ。
よって、文章力だけを軸に、評せられない作家。
それが柳美里であり、論理を超えた、国籍問題について、この国の保守派たちへ投げかける抵抗文学者。
思想と断定するには、正確さには欠けるが、大局において、自分の思想を核に、物を書き続ける柳美里。
その人生。
そして、その役割者として、彼女は現代の文化人なのだと思う。
ゆえに、本書も、その一冊として私は受け止めたい。
気を惹く文章ではなかった。が、彼女の存在が、そう、まさしく生き文学なのではないだろうか!?(07/8)




