2007-06-06 02:59:31

本が好き!プロジェクト第十六弾レビュー!

テーマ:本が好き!プロジェクト(書評)

ハイドラ

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書評 /国内純文学



 読者モデルの早希は、カメラマンの新崎の専属モデルとなり、やがて二人は同棲を始める。

 しかし、最近すれ違うことが多いせいか、知人の紹介で、ミュージシャンの松木と関係を結び、彼女は二人の男性を天秤にかけつつ、ただ何となく日々を過ごし続ける。


 混沌とした現代女性の日常を、女性特有の生理的な文体(いや金原氏にしてはあっさり)で綴られた恋物語。


 07年刊行。
 本書には、都会で暮らす若い女性の生態が記録されている。
 気構え過ぎず、かつ心理に蓋をしてしまうでもなく、金原氏の等身大の思いを、少だけし色づけるような形で、自然に綴られた告白文。


 ゆえに、これまでとは違い、エキセントリックな若者の自我に抑制がかかり、一般人に近い女性の感覚でヒロインの心理が綴られている。
 ゆえに、過去作と比較して読むと「ナチュラル!」
 そう思う人は多いのではないだろうか?


 単に彼女が社会性を身に付け(意識し)大人になったと想像もできるが、これは金原氏の心理的変化だと私は察した。

 それまでのどことなく過激な男性を求めるヒロインに対し、本書ではこれまでと比較してノーマルなカメラマンに恋する心理は、やはり彼女自身の男性観が変わってきたようにも思われるし、男性に対する過剰な思い。
 それも、以前と比べて熱が低下し、自然な感性へと近付いていったのではないだろうか?


 無論、早希にせよ、カメラマンの新崎にせよ、アブノーマルな感覚は宿してはいる。

 しかし、金原文学において、本書の人物は一般的に近く、文体も(これまでと比べて)癖が無い。
 会話に、時折過激な表現が見られるが、それほどドキリとさせられる言葉遣いも無く、ここにきて、彼女は大人になったのではと勘繰ってしまった。


 しかし、基本的に彼女の描く女性というのは、男性依存型で、自我、個性は強くとも、どこかで折れて、男性に自身を合わせるタイプが多い。
 その性格面は本書でも変わってはおらず、男性あって、自分がある。
 そういう女性像が本書でも書かれていた。


 無論、人間、そう変わらないもの。
 しかし、金原氏の文章は、洗練されていて、リズムもよく、無駄な表現もバッサリと削られているせいか、年齢にしては上手く、ヒロインの人間性は、まだ完成には到っていないが(迷える女性という印象だからだ)、文章面は、完成されていると思う。


 そして、構成的にも、これだけの枚数を、自然な調子で書いてしまう印象を受けた点など、なかなかの書き手だと再認識させていただいた。


 さらに文章面は今後も伸びる予感が感覚的に伝わってくるだけに、今後のご活躍にも期待のできる作家といって過言ではないと思う。


 ストーリーの面白さ云々よりも、都会に生きる現代女性の生態。
 それを覗き見る生態事典のような捉え方で、特に男子は読むとよいかもしれないという感想を持った金原ひとみの新刊。


 特に、本書のヒロイン早希の食べ物に対する感覚。
 これは、食べ物倫理的には問題があると思うものの、特異な女性の生態としては、個性を刻んでいるに違いない。


 作家は、人の暗部を活字化する商売屋でもあるため、隠されている生態。
 それを写生するガッツ。
 それが彼女の作家としての役割として認識して、本書評を終えたいと思う。

 

 ご清聴、ありがとうございます!

 

~この書評を、金原ひとみさんの亡き叔母の(私もお世話になったことのある)「長尾邦加」様に捧げます~


 *  長尾さんのことは、金原ひとみさんのお父様が、ココ で書かれています。

    そこに書かれているギャラリー「アートガーデン」にて、地元詩人の(故)三沢先生、夜想のSさんに紹介していただき、俳句会を通じて、二度ほど長尾さんとは、お話をさせていただいたことがありますが、一番感心させられたのが、地元ではトップクラスの詩人の三沢先生が話をされると、姿勢を正し、非常に礼儀正しく聞かれていて、「この人は、文学に対して真剣な人だ」と感心してしまいました。その一年後でしょうか、その長尾邦加さんととても顔つきの似ている姪の金原ひとみさんが芥川賞を受賞されたとき、あぁ、あの長尾さんの血縁の方なら、それは文才があるかもしれないと早速書店へ行きました。しかも人相が似ていますし。


 しかし、長尾さんは生涯、(大変熱心に)文学を勉強しながら、地方の文学賞止まりでしたが、金原ひとみさんが、その夢を叶えられ、ホッとして、自分の運までも捧げて、天国へと旅立たれたのかもしれません。


 その死を知った際、人の成功の影には、それを生み出そうと、影で支えてくれる人たちが存在する。そう思いながら、合掌したものです。 


 2007/6/6  薫葉豊輝

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