題「ミスター・ヘイスティングス!」
テーマ:本が好き!プロジェクト(書評)
働く女性のための「こころのサプリメント」
- 著:ピースマインド(編)
- 出版社:マガジンハウス
- 定価:1260円
書誌データ /

「ポアロ、どうしたんだい。急に呼び出したりして」
「いや、二十一世紀の女性たちの心の問題について、君と話しあいたいと思ってね」
「さすが、名探偵。どんなことにも興味を示すところは、百年以上の付き合いを経ても未だ変わらないところだね。ならばそろそろ、『灰色の脳細胞』なんていう君の負の口癖を、返上してもいいんじゃないのかい」
「なら、『世紀の脳細胞』ってのはどうだろう」
「確かに、君も私も、もう一世紀以上、顔を合わせているから、私にならば伝わるな、その非論理的な言語が」
「ヘイスティングス。座興はこの辺にして、そろそろ本題だ。ここに一冊の本があるのだが、どうやら科学は発達をしたとはいえ、現代人とは、相当知的ストレスを溜め込んでいるようだ」
「なになに『働く女性のための「こころのサプリメント」』か、まずタイトルのセンスがよいね」
「いや、そればかりではない。この書物の中で、悩める淑女たちの相談に乗るのが『(株)ピースマインド』」というメンタルヘルスの総合コンサルティング企業なんだが、そこに所属するエース・カウンセラーの三名のアドバイスが、なかなか論理的で私は好感を持てたよ」
「どうしたんだい、今日はやけに上機嫌じゃないかい。君が手放しで褒めるのだから、相当な腕前なんだろうね。そのカウンセラーの先生方は」
「例えば、興味深いアドバイスに『上司である自分が、どう関ると相手(ミスの多い新人)が最低、最悪の状態になるのか』ということについて想像し、関り方を考えてみるとよいでしょう。ということが書かれているのだが、これは犯人を追い詰める際の我々の心理にも置き換えて考えられるのではないだろうか。私がどう関り、どう動けば、犯人は反射的に私の動きに対する作戦を練る。ならば、こちらがいかにデリケートに動くか。そう、蚊の鳴くようにね。そうやって相手の油断を誘う。
この本の場合は、上司としてあまり干渉せず、距離を計りながら付き合っていくと置き換えられるのだが、いや、この本は、犯罪心理にも応用できて、私の知的好奇心を大いに満たしてくれたよ、ヘイスティングス旧大尉」
「なるほど、それは興味深そうだな。ポアロ、ちょっと読ませてくれないかい」
「いいよ、この本の世界を、君と共有したいと思ったからこそ、今夜は君を呼び出したのだからな」
「サンキュー、ポアロ。では、読ませてもらうよ。
(パラパラめくり)ふむふむ、『問題があると、その解決策を求めるあまり、近視眼的に反応して失敗しがちです。大局的な見地から問題を眺め直せると、自分がなすべきことや働きかけの時期を見定めやすくなります』か。
確かに、とても論理的で的確なアドバイスだ。ありがとう、ポアロ。これは私も購読するとするよ。よい本を紹介してくれた」
「いや、それは君の孫娘へのバースディー・プレゼントだ」
「あっ、そうだったのか」
「結論は、最後まで伏せておくのが私の性分でね」
「ありがとう、ポアロ! だけど、やはり口癖の『灰色の脳細胞』は、そろそろ返上した方がいいだろう。そう、君の脳細胞は未だ美しく、瑞々しいよ。
おっ、ポアロ、もう消えちまったのかい。まったく逃げ足から事件解決に到るまで、本当に早い男だ」
朝が来て、そして誰もいなくなった(英国)墓地周辺にも静けさが戻った……。
正確には、誰という言葉は、的確ではないかもしれないが……。
そう、深夜の囁き声が、人のものであったのか、死霊のものであったのかなど、知る者など、いやしないであろうから……。
一方、英国から日本へと嫁いで、東京で暮らしているアーサー・ヘイスティングス旧大尉の孫娘の机の上に、見知らぬ本
が一冊置かれていた。
家族に聞いても、誰も知らないという。
「おかしいわね。買ったつもりもないのに」
彼女の部屋の机に立て掛けられた可愛がってくれた祖父との写真。その祖父の瞳が二コリと笑ったように、彼女には感じられた。
「お祖父さま、不思議なことが起きました。でも、私、こう思うことにいたします。これは、お祖父さまからの贈り物であると。
誕生祝いを、ありがとうございます。ミスター・アーサー・ヘイスティングス!」





1 ■コメント
ありがとうございました。
さっそく読ませていただきました。
読書会もされているんですね。
またブログの内容もバラエティに富んでいて知性を感じます。
ブログの大先輩ですね。
私のつまらないブログにお越しいただき恐縮しております。