その17 伝衛門おみよと会えず
足音の主は、約束していた時間より、少し遅れてやってきた伝衛門でした。
出掛けに、ちょっとした用事が起きて遅れた伝衛門は、もうとっくに、そこに来ているはずの、おみよの姿が、見当たらない事に、不審を覚えました。
悪い予感に胸騒ぎがしてなりませんでした。
今頃になって気が変わって来られなくなってしまったのだろうかとか、誰かに見つかって、此処に出てこられなくなってしまったのだろうかとか、待っているうちに、沼に落ちてしまったのではないだろうかといった、悪い想像ばかりが次々と浮かんでまいります。
しかし同時に、悪戯好きの彼女の事、自分を驚かす為に、そこいらあたりに隠れているだけかもしれないとか、自分のように、出掛けに、出るに出られない用事が出来て、遅れているだけかもしれないとか、自分が少し遅れたので、拗ねているのかもしれないといった希望的な考えも浮かんできました。
伝衛門はともかくしばらく待つことにしました。伝衛門は、おみよの名を、時々呼び、あたりを探しながら、しばらく待っていました。
しかしおみよの姿を見る事はありませんでした。伝衛門の心配はどんどん膨らんできました。
夜中の事、あたりは暗くて、直ぐにはどうしようもありません。何か手がかりになるものをと思っても、草の生い茂った川原は、真っ暗で、何も見えず、それもできませんでした。
心配しながらも、伝衛門はその夜は一旦、自分の家へ引き揚げるより仕方がありませんでした。
その18 伝衛門おみよの異変を知る
翌朝、夜が明けるのを待って再びそこにやってきた伝衛門は、その場所の草がなぎ倒され、人が争った形跡があるのに気付きました。
同時に茂った草の中から、おみよの物とおもわれる、女物の腰のものと、男の下穿きが残されているのに気付きました。
伝衛門は、おみよの身に、一方ならぬ事が起こっていることを確信しました。
もう周りの人間の思惑を気にしているどころではありませんでした。
伝衛門は直ぐに、いつもやってきていた商人に、隣の部落の様子を、探ってくるように、頼みました。一方自分は、3,4人の若い衆を連れて、おみよの立ち寄りそうな場所を捜し歩きました。しかし何の手掛かりも得る事はできませんでした。
ただ隣部落の様子を探らせた商人からは、重要な情報が入ってきました。何でも、地頭の家に妾奉公に上がるはずだった娘が、昨晩から行方知れずになっているという噂でした。
そして同時に、夕べ遅く帰ってきた九朗太、それはかねて、おみよが、自分を付きまとう嫌な男として、愚痴を言っていた男の名前でしたが、「そいつの態度がどうもおかしい、なんか知っているのではないか。」と近所の人が噂しているという話も、持って帰ってきました。
その19 おみよ無残な姿でみつかる
おみよの部落では、娘の行方を捜すために、朝から大騒動していました。
何しろ、地頭の所に妾奉公に出ると決まっていた女がいなくなったのですから、大変です。
このままでは、地頭からどんな咎めを受けるか分かりません。
彼女が行きそうな場所は、全て探しました。彼女が逃げたのでないかと考えて、街道筋にあるあちらこちらの部落にも、彼女たちを見かけなかったかと、聞いて歩かせましたが、彼女の消息を知ることはできませんでした。
どこにも見つからなかったので、午後からは、村中総出で、川沿い一帯をずっと川下のほうまで探していきました。川の中は無論の事、川原の草の中、湿地帯の葦原、あちらこちらにある沼の中にいたるまで探し歩きました。
捜索も三日目、お昼過ぎの事でした。大人達はもう皆、草臥れしまって、思い思いの所に座って休息をとっていた時の事です。
子供たちは、初めての経験に興奮して、大人たちの休んでいる間もじっとしておることができず、大人たちの休んでいる間も、彼らが止めるのも聞かないで、あちらこちらに、潜り(もぐり)込んでは、その辺り一帯を探し回っておりました。
そうした、腕白盛りの子供達の一群が、大人たちが恐れて近寄らなかった、あの底なし沼の中に、何か変な物が浮かんでいるのを見つけてきました。
子供たちの呼ぶ声に駆けつけた大人たちは、そこに浮き上がってきている女の下半身を認めました。
足首の所で硬く結ばれた足は、既に魚や鳥に食いちぎられたのか、皮膚が一部剥ぎ取られ、骨や肉がはみ出しておりました。むき出しになった下半身は、ガスで腹が、異様に膨れ上がっております。
大人たちは慌てて子供たちを遠ざけると、がやがやと騒ぎながら、女の亡骸(なきがら)を引き上げました。
目玉が飛び出し、青膨れに膨れ上がった女の顔には、あの美しかったおみよの面影はどこにも残っていません。しかし、その身につけている物から、それがおみよであることは、間違いありませんでした。
次回に続く、次回投稿は9月1日を予定しております


