高機能自閉症の子育てと療育・教育 ~発達と障害の視点から~ | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

高城 寛志・星河 美雪:編著 クリエイツかもがわ 定価:2200円+税  (2005年2月)


      私のお薦め度:★★★☆☆


本書は、高機能自閉症と診断された星河雅輝くん(仮名)の成長を、お母さんと専門家、そして療育に関わった人の記録で綴られたものです。

この中で、専門家としての高城氏の立場は全障研に代表される発達保障の考えを基本としておられるようです。そのため、教育においては個別の障害特性に応じた技法にとらわれることなく、学級という集団の中で発達保障を行っていこうという姿勢です。


このようにして、障害の理解は一方で深まり、それに比例するかのようにさまざまな対応は量的には増えているものの、それらは障害特徴に焦点をあてる(別の言葉で言えば、とらわれる)技法に偏る傾向が強いように思われます。

個別の指導計画の作成が求められるようになって以降、対応すべき子どもたちの増大とあいまって、従来の障害児教育で重視されてきた学級活動や集団保障が軽視され、個別指導に頼りがちになっていることもその傾向に拍車をかけているように見受けられます。(「はじめに」より)


したがって、自閉症に対しても同じ立場から問題をとらえようとしていらしゃいます。


自閉症児にはさまざまな行動上の特異性があるため、ともすれば、障害特徴に重点を置きがちになりますが、発達全体の特徴を踏まえることは、人間的発達を保障する立場からは欠かせません。
助言の際、自閉症だとか、知的障害であるとか、障害児であるとかの表現は禁物です。


それも確かに障害児と関わるときの一つの考え方だとは・・・思います。

しかし一方で、母である星河美雪さん(仮名)が一石を投じている障害特性に重点をおくことも大切だとする考えもあります。


それは「まず、自閉症から考えよう」という視点です。自閉症児が起こしている行動は、問題行動としてとらえられることも多いのですが、それが本人の個性からなのか、あるいは自閉症としての特性からおこっているのかという見極めをしっかり見ていこうという考えです。


もしそれが、自閉症としての興味の限定(こだわり)や感覚異常(過敏や鈍さ)、社会性弱さやシングルフォーカス、見通しを持つことの苦手さ、など・・・からきているのであれば、個別にわかりやすく環境を整えて、個々に合った支援をしていこうという立場です。私も、星河さんと同じく、この立場の方に、より共感を覚えます。


学校の中でこそ、ともに遊び、ともに生活の役割を分担し、互いに学び-教えあう関係を重視した集団が大切で、保障することができます。導かれるだけでなく、相手を導く力が、自分を導く力を育みます。

そのためには、質の異なった複数の集団保障が欠かせないと思います。


本書はその発達保障の観点からの、学校での関わりを中心に信頼関係や友情などをメインとして取り組まれている実践記録となっています。
もちろんお母さんの記録には、家庭での兄弟の触れ合いなどもでてきます。でもそれは雅輝くんの個人的な成長記録であり、メインとなっているのはやはり学校での集団としての関わりのような気がします。


先の文にあるような「学校の中でこそ」という言葉がそれを表しているのでしょう。その学校での取り組みは、一言でいうと「ていねいな療育」という印象です。高機能自閉症でありながら、普通学級ではなく集中校の養護学級を選んだり、またその中でも見通しをもって安定して過ごせるよう重度の障害をもつ方のグループでの活動を選択したりと、まさに丁寧な関わりです。
その中での成長の記録は温かく微笑ましいものですが、いかんせん自閉症児は一人ひとり大きく違っているため、その記録は雅輝くんとそれに関わられたお母さんや関係者のものであり、そのまま般化できるものではないと思います。
その考え方や関わり方の精神を大事にして、我が子に適用させていくしかないのではと思います。


また、それを実現するためには本書で述べられている 「共感的な指導者と気の置けない仲間の存在」 が不可欠なものでしょう。
そして、発達保障以前に、その教育環境が保障されていないのも日本の現実であり、雅輝君の実践記録がめぐまれた事例のように思えてしまいます。


その意味では、本書では後半の第4章からの編者の考察は多くの方の参考になると思います。発達過程をいくつかの類型(本書では7段階)に分類し、指導上の留意点を述べるなど、実際の教育現場で役立つヒントも多い章です。


最後に・・・、本書を父親として読み終えて、お父さんの登場シーンが少ないのがちょっと残念でした。せっかくお父さん、高校教師として教育に携わっておられるのに・・・もっと登場されてもいいのではと、自閉症にはまってしまったオヤジとしては、ちょっともったいない思いです。
もっとも家庭にはそれぞれの家での教育方針があり、お母さんの精神的な後方支援に徹していられるお父さん方もいて、それはそれでいいのでしょうね。また、もしかすると、本書が仮名で書かれているように、公務員だとすると、立場もあってあえて登場できなかったのかもしれませんね。


ただ我が子だけでなく、いじらしい自閉症児の魅力に引き込まれてしまった親爺のつぶやきとして聞き流してください (^_^;)


           (2006.3)


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高機能自閉症の子育てと療育・教育―発達と障害の視点から/高城 寛志
¥2,310
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目次


  はじめに


第1章 高機能自閉症 未知の子育て・・・星河 美雪


    乳幼児期
    学童期
    中学校
    親の思い


第2章 高機能自閉症の療育と教育


  1 幼児期の発達の経過
       解説(幼児期の発達の経過)


  2 小学校6年間の育ち
       解説(学童期の発達の経過)


第3章 高機能自閉症の障害と対応


  1  高機能自閉症はどのような障害か
      (1) 自閉性障害と広汎性発達障害
      (2) 自閉性障害、自閉症とはどういう障害・症状か?
      (3) 高機能自閉症の高機能とはどのようなことを、どの程度のことをさすのでしょうか
      (4) 自閉性障害児の感覚と認知の特徴
      (5) 自閉性障害、ADHD(注意欠如多動障害)、LD(学習障害)、コミュニケーション障害との関係


  2 広汎性発達障害のことばやコミュニケーションにおける問題
      (1) コミュニケーションと話しことばの特質
      (2) 特異なことばの発達
      (3) 非言語的コミュニケションにおける困難さ
      (4) 自閉性障害児の相互交渉の障害からくるコミュニケーションの基盤の脆弱さや語用論的な特徴
      (5) 相手との距離のとり方がわかりにくい
      (6) 行動が汎化(般化)しにくい
      (7) 理解しにくいことば


  3 コミュニケーションする上で、どのように対応するか
      (1) 留意したいこと
      (2) コミュニケーションがうまくいかない時、会話でうまくいかない時
      (3) コミュニケーションを補強する文字や記号などの視覚的手段


第4章 人間発達のすじ道からとらえた自閉性障害児の療育・教育
        寝屋川市の療育現場での発達類型的なとらえ方


      (1) 外界に向かうことに課題がある ― 発達類型Ⅰ
      (2) 物を媒介にして共感する ― 発達類型Ⅱ
      (3) 人の内面に働きかける力の獲得に課題がある ― 発達類型Ⅲ
      (4) 自我の誕生を迎える時期 ― 発達類型Ⅳ
      (5) 誕生した自我が広がっていく ― 発達類型Ⅴ
      (6) 自我が充実し・主張していく時期 ― 発達類型Ⅵ
      (7) 自制心の獲得と立場の置き換え ― 発達類型Ⅶ


第5章 寝屋川市の障害児保育・療育および教育のネットワーク


  1 障害の早期発見と寝屋川市の母子保健事業
      (1) 乳幼児健診
      (2) 経過観察クリニック
      (3) 母子健康教室と早期療育事業


  2 親子ともども通う療育教室や療育施設
      市立児童デイサービス事業


  3 専門療育施設、療育自立センター療育課
      (1) 母子通園クラス
      (2) 単独通園で、毎日通園するクラスの編成と療育の特徴
      (3) 通園日と通園方法
      (4) 療育相談室


  4 保育所や幼稚園における障害児保育
      (1) 市立保育所での障害児保育と支える体制
      (2) 市立幼稚園での障害児保育


  5 ネットワークの形成


  6 学校教育のおおまかな状況


  7 学齢児の発達保障を支える体制


  8 留守家庭児童会(学童保育)


第6章 広汎性発達障害児の早期発見と早期療育


  1 自閉性障害児の障害特徴をどのようにとらえるか
  2 乳児期前半で留意すべきこと
  3 乳児期後半で留意すべきこと
  4 大阪府下の乳児期後期検診とその問題
  5 1歳半検診で留意すべきこと
  6 2歳ごろの留意点
  7 検診と連動した育児教室
  8 一般的な子育て支援との関連と違い
  9 療育指導の場へ
  10 3歳6か月検診と自閉性障害
  11 早期発見・早期療育をすすめる上で
  12 母子通園療育の積極的意義