親 ~障害の子のいる幸せ・かなしみ~ | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

野沢 和弘:対談 岡田 稔久・中根 やすひろ・大塚 晃・辻川 圭乃
Sプランニング 定価: 1000円+税 (2007年4月)


    私のお薦め度:★★★☆☆


以前、会報でも紹介した「条例のある街」の著者で、自閉症児を持つ親の一人である毎日新聞社会部の野沢和弘氏の対談集です。

対談のお相手は、やはり障害児の親で、しかもそれぞれご自身の専門分野でユニークな活動を続けられている4人の方です。野沢氏の言葉を借りると「第3世代の親」の方々です。
その分類によると、第1世代は障害児がいることに背を向けて、協力しようとしない父親。第2世代はバザーなどにはエプロンして焼きソバ焼いたりして一所懸命、養護学校や作業所の活動に参加しようとする父親。そして第3世代は社会でそれぞれ専門性をもって活躍する親が、その仕事に障害のことを持ち込んで、それで社会を変えていこうとする親のことだそうです。


本書では、小児科医でありながら日本自閉症協会熊本県支部の支部長やAFD(自閉症児者を家族に持つ医師・歯科医師の会)副会長をされている岡田稔久氏、自ら「障害族議員」と称して衆議院議員に当選された(現在は充電中とのこと)中根やすひろ氏、厚生労働省で障害福祉専門官として活躍されている大塚晃氏、それに大阪で知的障害者の権利擁護のための啓蒙活動や弁護活動を行なっている辻川圭乃氏の4氏が登場します。


最後の辻川氏(母親)を除いては、親といっても父親ですから、主にオヤジ達が自分の子どもや家族に対する思いや、それが自らの仕事の中でどのような働きをしてきたか・・・というような話です。
そして、その思いの部分は私のような第2世代(?)の親にとっても、共通するところは多いものです。


野沢:生まれたときはその場にいらしてたんですか?


大塚:いました。


野沢:うちは最初の子のときは、会社の上司とスナックで飲んでいたんですね、今でも言われますね(笑い)


大塚:何をしていたのと。私が、障害の子を持つお母さんの苦悩の話をすると、身近な私の苦悩をどうにかしてよと言われます(冗談ですが)。まあ、障害児をもつことで、いろんなことに制限を受けるけれども、子どもをもたなければ体験できないこともいやというほど体験した。最近は、やっとこれでいいのかという気持ちに少しずつなってきたところがあります。


野沢:障害のある子が生まれてこなければ体験できなかった人生があって、それがなければ、つまらない無味乾燥な人生だったのかもしれないなって思うときがありますよね。


大塚:妻とは、いろいろな意味で闘う同志のような気持ちになっちゃうんですよね。いい意味でも悪い意味でも。社会とか世間とかと対峙して生きているという気持ちはないのですが、無意識にそういう構えがあるのかもしれません。ほんとに闘わざるをえないというような状況は少ないのですが、いつのまにかの連帯感ですかね。


このあたりのオヤジ同士の会話には、第2世代も第3世代もありませんね。
オヤジ同士が、酒でも飲んで本音で話しあっているとこんな話になっちゃいます。もともとこの本のコンセプトが「障害児がいるちょいワルおやじ」だそうなので、思わず納得してしまいました。


でも第4章でも以下のように触れられているように、現実にはそんな親ばかりでなく、まだまだ第1世代の考えの親の方も少なくないと思います。

それは、それぞれの人の価値観なわけですので、どちらが良くて、どちらが悪い・・・というようなものではないのですが、やはり寂しいというか、私のような専門分野をもたないサラリーマンから見るともったいないように思えてしまいます。


野沢:障害児をもつ法律家の会をつくろう、なんて話もあるろうですが。


辻川:あれは全然反応がないのですよ。


野沢:やっぱり弁護士というのは、一匹狼的な仕事なんですかね。


辻川:どうでしょうか。お子さんに障害がある方は大阪弁護士会にもいるのですよ。何人か知っているんですけど、でも、そういう活動をしようとしないですよね。女性の弁護士ではあまり知らないですけど、男性の弁護士は何人かいます。けど、全然動かないですね。


野沢:むしろ、仕事と、自分の障害児をもつ家庭というのは切り離して考える。


辻川:切り離していますね。うちのだんな(同じ弁護士)もまったくそういうことはしませんからね。


そう思うと、第1章の岡田さんたちの活動する「自閉症児者を家族にもつ医師・歯科医師の会(AFD)」のような親たちの方がまだ少ないのかもしれませんね。


ともあれ、本書は副題に「障害の子のいる幸せ・かなしみ」とはありますが、実際は「幸せ」の方が前面に出ている元気の出る本だと思います。毎日必死でお子さんの生活を支えられているお母さん方から見ると、まだまだ甘い、と言われるかもしれませんが、子どもに向き合うことで幸せを感じはじめたおやじのみなさんにお薦めできる本だと思います。


       (「育てる会会報 116号 」 2007.12)


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親 ~障害の子のいる幸せ・かなしみ~/野沢 和弘


親 ~障害のいる子の幸せ・かなしみ~

条例のある街―障害のある人もない人も暮らしやすい時代に/野沢 和弘
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発達障害とメディア/野沢 和弘
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目次


はじめに


第1章 病気を診るのではなくその子どもや家族を診る
         岡田 稔久(医者) ★ 野沢 和弘


第2章 信頼される人間になってメッセージを変換する
         中根 やすひろ(政治家) ★ 野沢 和弘


第3章 枠組みからいかに脱しながら新しいものをつくっていくか
         大塚 晃(官僚) ★ 野沢 和弘


第4章 個別の事件を通して社会にインパクトを与える
         辻川 圭乃(弁護士) ★ 野沢 和弘


おわりに