十字架 | とあるワナビーのライトノベル作家になるための追憶

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十字架 (講談社文庫)/講談社
¥680
Amazon.co.jp

最高評価S~最低評価F
【文章力】A
【構成力】A
【キャラクター】S
【設定】A
【総合】A

【あらすじ】

いじめを苦に自殺したあいつの遺書には、僕の名前が書かれていた。あいつは僕のことを「親友」と呼んでくれた。でも僕は、クラスのいじめをただ黙って見ていただけだったのだ。あいつはどんな思いで命を絶ったのだろう。そして、のこされた家族は、僕のことをゆるしてくれるだろうか。吉川英治文学賞受賞作。

【感想】

相変わらず心に迫ってくる物語を書く作者だ。虐めを中心とした様々な人間を描いているが、一番描きたかったのは作者が後書きで書いているように自殺した少年の父親なのだろう。
登場人物ひとりひとりが生きていて、あたかもすぐ側にいるかのように感じられる。虐めに対して何もしないでいたことで、周りから見殺しだなと罵られ、どうしてこんなことになってしまったんだと重荷を背負った少年が主人公になっている。主人公の感情はよく理解できるし、けれど主人公に暴言を浴びせる人間の気持ちも分かる。どちらともが生きた人間であり、弱い人間であり、不完全な人間だった。似たような境遇になった少女サユと惹かれ合って距離を縮めていくのもよかった。これから主人公たちはどのように成長して、どのように乗り越えていくのだろうと不安や期待が入り交じったような複雑な気持ちになりながらページを捲った。ページを捲る手を止められなかった。
終わり方がこれで良かったのか分からない。けど、やっぱりどこかすっきりしない。何がひっかかってんだろうと思ったけど、ハッピーエンドともバッドエンドとも言えない終わり方に寂しさを覚えたのかもしれない。けど、人がひとり死ぬということは、その瞬間に周りの人間にとってハッピーエンドにはなれないってことなんだ。どんなに前向きに生きようとしても、それはバッドエンドでないだけで、ハッピーエンドではない。何とも言えないが、とにかく悲しくて切なかった。
いい小説だ。色々な人に読んでもらいたい。