以前、私の住んでいるマンションで、

こういうことがありました。

 

分譲マンションなので、

住人の持ち回りで理事会というのが行われます。

年に数回行われて、その年の理事は出席しなければいけません。

 

まぁ、どこのマンションでも行われていることです。

 

理事は、毎年、くじ引きで決まって行きます。

全25世帯のうちの4世帯が理事になるので、

結構な頻度で回ってきます。

 

   ※

 

私が理事の一人になっていたある年、

住人の中の70代くらいの女性が、

やはり理事になったことがありました。

 

その人は、「私は年寄りなので理事はやりたくない」と

ずっと主張していたのですが、

やはりマンションは全世帯の共有財産ですし、

理事会をやるということはもとから決まっていること、

それに全世帯で平等に持ち回りをしていることなので、

引き受けてもらうようにお願いしました。

 

そして、最初の理事会のときのことです。

 

理事会は近くの区民館の会議室を借りて行うのですが、

その場には、委託しているマンション管理会社の人にも

立ち会ってもらっています。

 

まぁ、彼らはマンションのプロなので、

全体の進行のアドバイスなどももらっています。

 

が、これはあくまでも住人である我々が開催している理事会であり、

管理会社の人には、お願いして臨席してもらっている、

という立ち場です。

 

しかし、そのメンバーでの最初の理事会のとき、

こういうことがあったのです。

 

もとより、理事会に出席することが嫌だったその女性、

来るなり、私たちに「来てやった」という態度で接します。

そこへ来るのが自分にとっていかに嫌なことであったか、

という不満を、しばらく聞かされました。

 

私たちは、黙って聞いていました。

吐き出して気が収まるならば、と思ったのです。

 

しかし、今度は、彼女の怒りの矛先は、

管理会社の人に向きました。

そして、こう言ったのです。

 

「あなた方は休みの日に人を呼び出しておいて、

 お茶も出さないの?」

 

   ※

 

ちょっとあんまりだったので、私は言いました。

 

「○○さん、この理事会は

 ○○さんも含めた我々が開いているもので、

 そこに管理会社の方にも来て頂いているんです。

 お茶を出すとするなら、こっちが用意するんですよ。

 お茶が飲みたいなら私が買ってきますが、

 立ち場は理解しておいてください。」

 

すると彼女は少し黙った後で

「あぁ、そうなの?」と。

で、私はお茶を買うために席を立とうとしたら、

お茶はいらないです、と言いました。

やっと立ち場、というか、構図が理解できたのでしょう。

 

確かに、マンションの管理会社は

我々、住民で構成する理事会に雇われています。

だから我々にサービスをする立ち場です。

 

ですが、理事会や総会というものは、

あくまでも我々が主催するものであって、

管理会社の人はサポート役でしかないわけです。

 

それも含めてサービスだ、と言えばそうかも知れませんが、

やはり、誰のためのなんの会合なのか、という

根本を忘れてはいけません。

 

自分が主催者なのに、お客様だと勘違いしてしまうからです。

 

けれど、ひとつ救いだったのは、

この女性が、自分の主張は的外れである、ということに

すぐに気づいてくれたことです。

 

先ほども言いましたが、「構図」がイメージできたのです。

自分はこのマンションを買った人間である以上、

このマンションの主体であり、お客様ではない、ということ。

そして、自分が主催する打ち合せに、

管理会社に出席してもらってるということ。

 

「構図」がイメージできたこで、

彼女の中に「当事者意識」が芽生え、

理事会の「自分ごと化」が起こりました。

 

このエピソードを、どう思いますか?

 

   ※

 

さて、これと良く似たことが、実は皆さんの身近にあります。

 

それは、「選挙」です。

 

選挙なんて面倒くさい、と思っている人も

世の中にはたくさんいます。

 

ときには、「選挙に行くと、なんかもらえるの?」とか、

「自分を選挙に行かせたかったら、

 なにかインセンティブをよこせ」なんていう人までいます。

 

この人たち、先ほどの理事会の女性と同じなんですよね。

 

この国の有権者である限り、

我々は日本という国のお客様ではないのです。

 

我々こそが、日本の主体であり、日本そのものなんですよね。

だから、選挙に行かせるなら、なんかくれ、なんて、

まったく「構図」がわかっていない人なんですよ。

 

もしあなたの近くに、そういう人がいたならば、

正しい「構図」を教えてあげてください。

 

気づくことが出来ないと、その人自身が、

のちのち後悔することになってしまうからです。

 

投票率を上げるために、

投票行動を促すために、

投票したらどこかの割引券やサービス券がもらえるという

インセンティブをつけた人々がいましたが、

これこそ、ナンセンスなことなんです。

 

逆なんですよ、立ち場が。

投票行動を促すために別のサービスで釣るなんて、

絶対にしてはいけないのです。

民主主義が滅びることを助長してしまうからです。

 

マンションの理事会が、住人自身のためにあるのと同じで、

選挙は、我々国民自身のためにあるのであって、

その自覚を促す以外にないんですね。

 

あなたの近くに、「選挙なんて行かないよ」という人がいたら、

その態度は、とってもカッコ悪いことなのだ、と、

心で感じるような言葉をかけてあげてください。

 

そしてその人の心の中に「構図」が思い浮かべばいいのです。

自分はお客様じゃないんだ、ということ。

自分がこの国を運営しているメンバーなんだ、と知ること。

 

当事者意識。

自分ごと化。

 

「構図」が思い浮かんだら、主催者とお客をまちがえることは、二度とないはずです。