先手矢倉対中飛車53銀型 | Thousand Days

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さうざん-でいず【千日手】
1. 同一局面の繰り返し4回。先後入れ換えてやり直し。
2. 今時珍しく将棋に凝っている大学生の将棋系ブログ。
主に居飛車党過激派向けの序盤作戦を網羅している他、
雑学医学数学物理自転車チェス等とりとめのない話題も…

※前回の記事『先手矢倉対左美濃63銀型』


矢倉党にとって最も重要な分岐は五手目。
66歩も77銀も角道を止める疑問手であり
それぞれ後手からの有力な急戦策がある。
前回の記事では五手目66歩対策を考えた。

五手目77銀はプロの書いた資料に乏しく、
20年前の本が今なお最高品質という有様。
その本即ち「変わりゆく現代将棋(上)」は…
某七冠王の狂気が直に籠められた名著だ。

今回は中央狙いで五手目77銀を潰すべく、
矢倉中飛車と五筋交換作戦を調べてみる。

「先手が79角と引けば普通の矢倉中飛車」
「先手が居角のままなら五筋交換~82角」
…と使い分けることで互いの欠点を補う。





76歩 84歩 68銀 34歩 77銀 62銀
56歩 54歩 48銀 42銀 58金右 32金
66歩 41玉 67金 74歩…(4)

(4A) 79角…
(4B) 78金…
(4C) 26歩…



右金を動かさないことが序盤のポイント。
矢倉に組み合うと、先番の利は保たれる。
(4)の時点では後手陣の方が美しいのに、
もう一手囲った瞬間その輝きは失われる。

33銀からの米長流急戦矢倉は有力ながら、
47銀型で待機されると持久戦は避け難い。
中原流急戦矢倉も優秀な戦法とは思うが、
生理的に受け付け難いため今回は省いた。

後手の目標は自然に54銀型を作ることで、
それには五筋を先に交換する必要がある。
最終手74歩のところ53銀右は後述するが…
結論から言えば、そちらの方が良さそう。

※54歩は保留して蟹囲い型右四間も見せ、
66歩を牽制する思想もある。優劣は不明。
(右四間でも33角の受けは必要ないようだ)





79角 64歩 26歩 63銀 25歩 52飛
78金 55歩 同歩 同飛 56歩 51飛
24歩 同歩 同角 23歩 46角 62金
36歩 44角 69王 73桂 37桂 54銀…(4A)



上図(4A)の後手陣が矢倉中飛車の基本形。
(44角は主に先手の三筋交換を妨害した手)
31玉や14歩も駒組みとしては有効手だが、
これくらい組み上がれば仕掛けていける。

64角には構わず55歩のパッキングでOK。
実際のところ形勢はよく判らないものの、
駒の働きとしては後手に利がありそうだ。





78金 64歩 26歩 63銀 25歩 52飛
69王 55歩 同歩 同角 57銀 51飛
24歩 同歩 同飛 23歩 28飛 54銀
68銀左…(4Bx)



五手目77銀を激減させた矢倉中飛車だが、
現時点で最有力の作戦かどうかは怪しい。
気分良く68銀左と二手損を強要できても、
五筋に歩を謝らず頑張られて大変なのだ。

ここで65歩と突っ掛けても79王と寄られ、
次に堂々と65歩~88王を用意されて困る。
62金と構えるのも46銀でバッチ来いされ、
65歩は 56金 66歩 55歩の受けがピッタリ。

44歩にも55歩と直で打たれて取れず手損。
(通常形では56歩を55歩と突き出していく)

従って以下は後手から55歩と打つのだが…
44歩~45歩を36歩~37桂で防がれると、
角頭や端を自然に狙える先手が良さそう。





78金 53銀 79角 64歩 26歩 55歩
同歩 同角 25歩 22角 24歩 同歩
同角 23歩 68角 54銀 57銀 52飛
69王 62金…(4B1)



矢倉中飛車一本での攻略が困難となれば、
(角の転換も含みに)五筋を角で換えにいく。
五手目66歩だと85歩を突く必要もあるが、
この形ならば84歩型のまま動いていける。

55角の瞬間46角で角交換に持ち込むため、
53銀を見たら先手は角を引きたいのだが…
それなら64歩から矢倉中飛車狙いに戻す。

上図では52飛型が通常形と異なるものの、
62金と右辺に備えておけば案外差はない。
(68角のところ46角なら、銀で角を苛める)
次は73桂~85桂の攻めが約束されている。

仮に 56歩 73桂 75歩 同歩 74歩 85桂 88銀 76歩 86歩 77歩成 同桂 同桂成 同銀 33角なら、
駒損だけは防げても後手のペースとなる。
恐らく、銀桂交換の駒得にはなるだろう。





78金 53銀 26歩 55歩 同歩 同角
25歩 54銀 24歩 同歩 同飛 23歩
28飛 52飛 69王 82角 68銀 33銀
57銀右 31玉 65歩 51金 66銀 42金上
79王 22玉…(4B2)



先手が素直に五筋交換を許してきたなら、
54銀~52飛~82角として角を右辺に移す。
…あとはただひたすら平矢倉に王様を囲う。

先手陣は厚いものの進展性に欠けるため、
どこかで中央大決戦を挑まざるを得ない。
そこで大捌きに出れば、大抵後手が勝つ。

以下 56歩 同歩 同金には普通に 55歩 同銀 同銀 同金 同角 同角 44銀で対応できるし、
57銀上なら73桂と跳び、77桂には85桂で桂を捌いて44歩と補強してしまえば良い。

ちなみに、68銀左をサボって57銀は危険。
35歩と先手飛車の小鬢を狙うのが急所で、
46歩にも 36歩 同歩 55銀 56歩 46銀 同銀 同角 37銀 82角 57金 45銀から潰れ形となる。





26歩 53銀右 25歩 55歩 同歩 同角
24歩 同歩 25歩…(4Cx)



基本図(4)で最も手強い急戦封じが、26歩。
飛先不突の矢倉を自ら諦める一手ながら…
64歩にはそこで78金と指せば問題ないし、
53銀なら25歩で五筋交換を簡単に防げる。

先手に一歩を渡して55角と出たその瞬間、
継ぎ歩(からの十字飛車)が綺麗に決まった。
後手は 44角 24歩 26歩と受けるよりなく、
その歩を36歩~37銀と拾いに来られ劣勢。

序盤の早い段階から飛車先を突かれると、
五筋交換自体どうしても実現させ難くなる。
やはり矢倉戦において26歩の価値は高い。

※36歩を急がずに57銀~46銀(~79角)とし、
24歩は取らせて三筋を攻めるのが本筋か。





26歩 55歩 同歩 同角 57銀 53銀右
56銀 22角 45銀…(4Cy)



従って25歩の前に五筋を換えねばならず、
結局62銀型のまま55歩と突くことになる。
(53銀型のまま持久戦になると実につらい)

先手としても銀の立ち遅れを咎めるべく、
57銀から角頭攻めを狙うのが自然だろう。
57銀に 85歩 56銀 73角と指せば無難だが、
これでは84歩型の利点を活かせていない。

以下 52飛 68王 44銀 34銀 33銀上などで、
後手も戦えないことは全然ないとはいえ…
歩損故ゆっくり過ごせなくなるのが問題。

※後手もやれると見ているプロが多そう。
57銀のところ、65歩なら 73桂 78金 85歩。
25歩と33銀の交換を入れてから65歩なら、
85歩で第21期竜王戦第七局に合流できる。


~~~~~~~~~~~~





76歩 84歩 68銀 34歩 77銀 62銀
56歩 54歩 48銀 42銀 58金右 32金
66歩 41玉 67金 53銀右 26歩 55歩
同歩 同角…(5)

(5p/5q) 25歩 54銀 24歩 同歩 同飛
23歩 28飛 74歩 68王 52飛 57銀…



ここまでの手順を冷静に見返してみると、
74歩を急ぐ必然性も乏しいことに気付く。
(無論75歩~76銀で安定されると困るけど)
そこで53銀右を優先した形を考えてみる。

これなら79角~46角に怯えることもなく、
78金には74歩と突けば元の局面に戻れる。
53銀右に57銀も、雁木に組んで不満ない。

駄菓子菓子…先手も78金を省いたことで、
通常より一手早く反撃を準備できるのだ。





25歩 54銀 24歩 同歩 同飛 23歩
28飛 74歩 68王 52飛 57銀 82角
65歩…(5p)



56歩と受けてもらえず居角のままなので、
後手としては82角と引きたくなるのだが…
飛車先を換えて一歩手持ちにした先手は、
歩損など気にせず65歩と厚みを解放する。

65同銀には66銀左とブツケるのが継続手。
銀交換は飛車先・角頭の傷や中央の厚み、
全てにおいて先手の側に有利をもたらす。
(36銀にも64歩~55銀打で何の不安もない)

35歩も 46銀 36歩 66銀と厚く構えておき、
小鬢を破られても26飛と軽く躱して充分。
66銀以下 37歩成 同銀 44歩 55歩 同銀 同銀 同角 同角 同飛 56歩 51飛 78王が進行の一例。

68銀左を省いての65歩が通ってしまえば、
後手は王様を囲う手数が得られなくなる。
…戦法として破綻しているのかもしれない。

※65歩より自然な78王ももちろん有力で、
以下 35歩 46銀 36歩に22歩~65歩がある。
(実戦例は1990/10の森下-谷川と米長-谷川)
こうなれば壁金を直し難く既に後手大変?





25歩 54銀 24歩 同歩 同飛 23歩
28飛 74歩 68王 52飛 57銀 22角
79王 64歩 68銀左 62金…(5q)



68王型自体不安定といえば不安定なので、
33角と通常の矢倉中飛車に戻す手もある。
79角~角交換の筋がなく33角と引けるが、
角頭攻めを誘発するリスクもあって微妙。

対矢倉中飛車の理想形(4Bx)と若干ズレた、
(5q)には後手から付け入る隙がないのか?
そして78金省略を咎める手段はあるのか?
…私自身まだ明るい未来を描けていない。

以下56歩と打って貰えれば31玉~73桂で、
後手もやれるとされる通常形に合流する。
46銀には73桂と跳び65歩の好機を窺うか、
63金とし 36歩 44歩 55歩に同銀を見るか。

73桂にはその瞬間75歩が手としては最強。
ただ桂損上等で 同歩 74歩 85桂 86歩 44歩 85歩 同歩 77角 63金と応じても案外悪くない。


~~~~~~~~~~~~

78金を急がず26歩を早く突きさえすれば、
先手もそれなり以上に戦えそうな感じか。
66歩を突かずに25歩まで決められた場合、
飛先を受けずに急戦ができるかは微妙だ。

(極々浅い検討しかできていないけれど)
矢倉戦法を丸ごと潰すのは、相当難しい。



開始日時:2008/12/17 棋戦:竜王戦
先手:羽生善治 後手:渡辺明


開始日時:1990/10/15 棋戦:順位戦
先手:米長邦雄 後手:谷川浩司