Happiness 2
テーマ:II-13 Happiness日曜のお昼近く、STEP INのロッカールームに入るとケニーが声をかけてきた。
「2週間ぶりくらいじゃないか?」
「そうだね。……何だか随分来なかった気がするよ」
ロッカーの扉を開けながらエドが答えた。
「よくウォーミングアップしろよ。あまり動いてないんだろ?」
「ああ。でも先週から、基礎クラスを何回かは受けたよ」
エドはそう言うと、少しためらいながらバッグの中の稽古着を引っ張りだした。
「そりゃ、賢い選択だ。……で、彼女は?」
「一緒だよ。ただ……」
そう言ってエドは、少しばかり困った顔をした。
「ただ、何だ?」
「彼女は、僕がクラシックをやっていたことを知らないんだよ。彼女は僕が踊るなんて夢にも思っちゃいない。今朝も、君に会うならクラスが終わる頃に行けばいいんじゃない?って言うし。だから、どうせSTEP INまで行くならクラスを受けたらって連れて来たんだ。彼女は僕がクラスが終わるまで見学してるか、ロビーでお茶でも飲んでると思ってる」
その言葉に、ケニーが目を丸くして
「えっ?どうして自分も踊るって言わないんだ?」と聞いた。
「……言い辛くてね。彼女と出会ったのはダンススタジオだったけど、……僕はそこを運営している会社のコンサルタントとして出会っていたから」
「だからって、どうして言えなかったんだ?」
「……彼女はプロだし。……僕は自分がそう上手いとは思っていなくて、だから」
分かってくれよ、という表情でエドが言うと、ケニーはゲラゲラと笑い出した。
「何だ、エド!お前、もしかして彼女に“カッコ悪い自分”を見せたくなかったからなのか?」
エドは、少しふて腐れるように
「……僕にだって見栄はあるよ」と言った。
「まあ、でも、ここまで来ちゃゴマかせないだろ。迷ってないで、さっさと着替えろよ」
ケニーがそう言って背中を叩くと、諦めたようにエドは上着を脱いだ。
「心配ないさ。俺だってお前を初めて見た時、現役のダンサーだって疑わなかったんだから」
ロッカールームを出て、スタジオの前へ行くと、既に着替えを終えたレイが廊下に取り付けられたバーで体を伸ばしていた。レイは、エドの方へ視線を向けたが、気付かなかったようにすぐに体を後ろに反らせた。そして、ぴたりと動きを止めたと思うと体を起こし、再び稽古着を着たエドの方へ視線を戻した。
「……えっ?……エド、あなたなの?」
目を真ん丸くしてレイが聞くと、エドはケニーの方を向いて
「ほら、言った通りだろ?」と苦笑いした。
「……もしかして、一緒にクラスを受ける、とか?」
レイが『冗談でしょ?』と言わんばかりに聞くと、エドは決まりが悪そうに笑った。
その様子を隣で見ていたケニーは、思わずぷっと吹き出した。
「ケニー、笑うところじゃないよ」
エドが咎めるように言うと、ケニーはくっくと笑いながら
「だって、エド、俺には面白くて……」
と言ったあと、レイの方を向き
「ローラ先生、心配しなくても大丈夫。彼はロイヤル・バレエスクール出身の王子様だよ」
と少しおどけながら言った。
「えっ?」
レイが、聞き間違えたのかと言う表情でケニーを見た。
ちょうどその時、前のクラスが終わり、スタジオからどやどやとダンサーたちが出てきた。
「さ、とりあえず中へ行こう」
ケニーはスタジオに入り、バーの場所を確保すると、床に座って体を伸ばした。
エドは、ため息をつきながらケニーの横に来ると、タオルをバーに掛けた。
「おい、エド腐るなよ。これからだぞ」
ケニーがからかうように言った。
「別に、腐っていないよ……」
そう言いながらエドは、まだぽかんとした表情でいるレイを見た。
レイは、ためらいながらエドのすぐ右隣にバーの場所を取ると
「RBSって本当なの?」と聞いた。
「……ああ、中等部までだけどね」
「全然、知らなかったわ……。そりゃ、私も隠し事ばかりだったけど……」
レイはそう言いながら、バーに脚を乗せると
「エド、無理しないでね……。出来なければ見ていたっていいんだから。あと、よくストレッチしておかないと怪我をするわよ」と言った。
すると、それを聞いていたケニーがまたおかしそうに笑った。
「エド、いいのか?お前、本当に初心者だと思われてるぞ」
エドは、ケニーの方を向くと、苦笑いしながら床に座った。そして、脚を左右に開くと上体をぴたりと床につけた。
しばらくすると、そのクラスを担当するランディがスタジオに入ってきた。
彼は、エドの姿を見つけると
「やあ、エド。久しぶりだな」と声をかけた。
レイは、彼がこのクラスをいつも受けていたのだと知ってまた驚いた顔をした。
「さあ、バーについて!プリエから」
ランディがパンパンと手を叩きながら言うと、ダンサーたちが一斉にバーについた。
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