『虐殺器官』 (2017) 村瀬修功監督

Sat, March 11, 2017 23:03:02 Theme: 邦画 か行

 

ゼロ年代日本SFのベストの作品という呼び声も高い『虐殺器官』のアニメ化。やはりあまりにも原作が素晴らしすぎたとしか言いようがない。

 

原作の素晴らしさは、まずその文体にある。非常に硬質でかつ格調高い文体の存在感は、地の文に存分に発揮されている。故に会話が、語られる言葉の全てであるアニメでは相当ハンディキャップがある。また、原作のSF的ガジェットの造り込みは、アニメでは解説されることなくさらりと描かれているので、そのすごさが伝わってこない。「侵入鞘(イントルード・ポッド)」しかり、「環境追従迷彩」しかり。

 

そうした原作のいい点が出てこないだけではなく、原作の欠点が露呈しているのがこのアニメの最大のネック。

 

あるパターンの言葉(「言霊」と言ってもいい)が、民衆をマインドコントロールし、虐殺を引き起こすというストーリー。原作が小松左京賞の最終選考に残りながら、小松左京が選外とした理由は、「肝心の『虐殺の言語』とは何なのかについてもっと触れて欲しかったし、虐殺行為を引き起こしている男の動機や主人公のラストの行動などにおいて説得力、テーマ性に欠けていた」だったが、原作はそうした欠点を凌駕するだけの魅力に溢れていた。それが先に述べたいわゆる「神は細部に宿る」的な、圧倒的な知識に裏打ちされたディテールの造り込みだったが、アニメではそれがフルには伝わってこなかった。

 

例えば、「虐殺の王」ジョン・ポールの愛人ルツィアと主人公クラヴィス・シェパードが最初に出会うシーンでは、この作品のテーマと言える会話がされているが、その重要部分は地の文に書かれている。それを原作から引用する。

 

「ぼくが「他人」と話すためにことばを用いることそれは進化の過程で必然的にもたらされた器官にすぎない。ぼくの肉体の一部である、自我という器官、言葉という器官に。」

 

「ことばも、ぼくという存在も、生存と適応から生まれた『器官』にすぎない。鳥の羽と同じような。

 

しかし、とぼくは思う。言語が人間の思考を規定しない、というのはわかる。とはいえ、言語が進化の適応によって発生した『器官』にすぎないとしても、自分自身の『器官』によって滅びた生物もいるじゃないか。

 

長い牙によって滅びた、サーベルタイガーのように。」

 

こうした「解説」が省かれることで、テーマがはるかに伝わりにくくなっている。

 

また、ディテール的ではあるが、原作で唸ったものの中には、ジョン・ポールに協力する団体「計数されざる者」のリーダー、ルーシャスとクラヴィス・シェパードの会話。映画では、彼らは「自由は通貨だ」という話をしているが、原作のその場面では「戦争は啓蒙だ」という話もしている。アニメでカットされた会話を引用する。

 

「ハイテク機器と規模の拡大、あとは単純に人件費の増大によって、近代の戦争のコストは極端に膨れ上がった。戦争をやっても単純に言えば儲からないのです。それでどんなに石油の利権が確保できても、ね。では、それでもアメリカが戦争をしているのはなぜか。世界各地で、民間業者の手まで借りて火消しに走り回っているのはなぜか。正義の押しつけ、という人もいますが、コストを払っている以上、わたしはそれを、戦争をコミュニケーションとした啓蒙であると思っています。

 

「アメリカ人がそう意識しているかどうかにかかわらず、現代アメリカの軍事行動は啓蒙的な戦争なのです。それは、人道と利他行為を行動原理に置いた、ある意味献身的とも言える戦争です。もっとも、これはアメリカに限ったことではなく、現代の先進国が行う軍事介入は、多かれ少なかれ啓蒙的であらざるを得ませんがね。」

 

こうした随所に現れた哲学的慧眼が、アニメでは表現されておらず残念だった。

 

ということで、原作が余りにも素晴らしいがゆえに、限られた時間に収めることが必須の劇場版アニメではその世界観を描くことはやはり不可能だったと言わざるを得ない。是非、原作に当たることを強くお勧めする。

 

★★★★ (4/10)

 

『虐殺器官』予告編

 

 

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