『愚行録』 (2017) 石川慶監督

Mon, February 20, 2017 23:15:27 Theme: 邦画 か行

 

物語は、世田谷一家殺人事件を思わせる、一家惨殺事件で始まる。絵に描いたような幸せなエリート・サラリーマン一家を襲った悲劇から一年が経過しようとし、事件は迷宮入りしそうな様相を呈している。この事件を執拗に追う週刊誌記者田中武志(妻夫木聡)。彼の周辺では、一家惨殺とは全く無関係に見える事件が起こっていた。彼の実の妹光子(満島ひかり)が、ネグレクトによる幼児虐待で逮捕されていた。そして子供は、栄養失調による衰弱から病院で息を引き取る。一見、無関係に見えた二つの事件が結び付くとき、新たな殺人事件が起こる。

 

映画の前半は、殺されたサラリーマン一家の夫(小出恵介)と妻(松本若菜)の大学時代~就職後の話を中心に展開していく。彼らを知る知人を記者の田中が取材して語らせる形なのだが、その話に描かれた二人のみだけではなく、彼らのことを語る周辺の者全てが人間の醜い部分をさらけ出している。つまりみんな、いやな奴として観客の目に映る。

 

映画の冒頭は、田中武志がバスの中で老人に席を譲れと人に諌められるシーンで始まる。彼はしぶしぶ席を譲るのだが、その直後に足に障害を持つふりをして車中で転倒してみせる。それがふりだと分かるのは、彼がバスを降りて、バスが去ると普通に歩きだすからなのだが(『ユージュアル・サスペクツ』のクライマックス・シーンさながら)、彼を諌めた人に後味の悪さを味わせるためであることを知って、観客は彼に対していやな印象を持つ。この冒頭のシーンが、取材中は紳士的で穏健な彼の言動が仮面をかぶっていることを意識させ、実に効いている。そしてラストでは、彼が妊婦に自分から席を譲るシーンで終わるのだが、この円環構造がなかなかうまくできている(その理由も鍵)。

 

とにかくいやな奴ばかりで、しかも彼らの周辺で起こることも実に気分が悪いことだらけで、常に暗澹とさせられる作品だった。物語の語り方としては、説明過多ではなく、余韻を残して実にうまく作られているのだが。

 

プロットの穴としては、二つの殺人事件の容疑者が見つからないとは考えにくいほど、事件の様態が杜撰なこと。日本の警察をなめてんのかというレベル(とは言え、2000年に起こった実在の世田谷一家殺害事件でも、物証はふんだんにありながら、迷宮入りしているが)。

 

満島ひかりの演技が光る。ネグレクトする母親の心の闇を知りたくて『ルポ虐待 大阪二児置き去り死事件』(杉山春著、ちくま新書)を読んだりもしたが、父親に性虐待され壊れてしまった女性を、怖いくらい淡々としかも説得力をもって演じていた。もう一人の主役、妻夫木の演技力は常に評価しているので、この作品では並程度。小出恵介は、『ROOKIES』の御子柴役が好きなので、悪い奴の役は似合わないように感じた。

 

細かな部分では粗もあるが、それでも物語をうまくまとめている。粗は原作(未読だが)ないし脚本自体の問題であり、映画的にはよく出来ているとは思う。ただとにかく観ていて気分が悪くなる作品で評価は難しいところ。

 

★★★★★ (5/10)

 

『愚行録』予告編

 

 

 

 

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