ナカタさんは傘でつついてコツコツという音を聞きながら、歩き出した。
コツコツ。
コツコツ。
もう夜の9時になるが、ナカタさんはひんやりとする空気が気持ちよかったので、少し散歩してみることにした。
フジカワがどこにあるのかナカタさんは見当もつかないが、なんだかとても気分がよかった。
コツコツコツ。
コツ。
ナカタさんはふと立ち止まって、小学生が一度止まって右左をするように、あたりを見回した。
向こうに公園が見えた。公園で誰かが楽器を演奏しているようだ。ナカタさんは頭が良くないので楽器のことはよく分からなかったが、その演奏に誘われるように公園へ向かった。
公園では、男が一人で楽器を演奏していた。柵の向こうを向いて、大きな川と、月に照らし出されている富士山に向かって演奏していた。
ナカタさんはベンチに腰掛けて、しばらく眺めていた。
Where Or When男は演奏を終えると、楽器をカバンにしまって、立ち去ろうとした。
「こんばんは」
ナカタさんはすっと立ち上がって、挨拶した。
「こんばんは」
男は挨拶をしたが、足を止めなかった。
ナカタさんは男の後姿を見送った。男は米軍が乗るような自動車のところへ行き、カバンを後部席に投げると、助手席にいた女と二言三言言葉を交わし、車に乗り込み、走り去った。
ナカタさんは頭が良くないので、音楽も苦手だ。でもさっきの男の演奏は、鳥のさえずりや、風の音のように、どういうわけか、自然にナカタさんの中に入ってきた。
ナカタさんは、何という曲か聞こうと思ったのだが、そうするには男はあまりに無愛想だった。
- 突撃隊