グアム戦 日本守備軍潰滅へ 6 | 太平洋戦争の傷痕 次世代への橋渡し

グアム戦 日本守備軍潰滅へ 6

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あたりは急速に明るくなっていく

日向台を撤退していた山下少尉の14名の隊は、じっと動かずに夜を待っていた

あれほど激しかった銃声はすっかりやんでいた

戦場そのものが死んだように静かだ

総攻撃は失敗に終わったな、と少尉は判断した

「おい、斉藤、死ぬはずだったのが生き残ってしまったなあ」

少尉と仲のいい斉藤衛生伍長は

「生き残りを集めて、もう一度やるんだろ?山下のことだ、そう考えているんじゃないのか?」

目をつぶったまま低く言った

少尉は、こいつは何でも見通してやがる妙な男だなと思った

そんな会話をしながらも神経はピリピリしていた


日が暮れたころ、ひそかに逆戻りして青葉山へ撤退することにした

夜の9時ころに青葉山に到着すると、ここに残置していた少数の海軍作業隊と負傷兵たちが、少尉の帰還にホッとした様子だった

負け戦に長居は禁物であった

負傷兵たちは、一人、また一人と消えて行ってしまい、全員が姿を消してしまった

戦闘力もなく、武器も持たない負傷兵を引き止めても死を強制するようなものである

戦力のない兵の突入は無駄な死であり、それは玉砕の名にふさわしくない


夜半になってポツポツと戻ってきた兵に加え、まとまった一隊がぞろぞろ山へ登ってきた

たった1門も迫撃砲を持って三河山へ出撃した塚野少尉の一隊だった

砲身が焼き切れるまで撃ち尽くして帰還してきたのだ

士気なお衰えぬ元気な姿に山下少尉は深い感動を覚えたが、砲もなくなり小銃すらない一隊である

一緒に戦いますと元気であるが山下少尉は伝令を頼んだ

「師団司令部に行って報告してくれないか」

「第18連隊は、総員敵橋頭堡に突入して玉砕」

「生存者は現在、青葉山に集結してこれを死守している」とな

明日には米軍は青葉山に攻めてくる

塚野少尉をみすみす殺すのにしのびなかった


翌27日、朝から米軍の活発な動きが山上から望見できた

1個連隊が三方から迫り、青葉山を包囲しているのが見える

「20人対1個連隊か!こいつは戦いがいがあるというものだ」

斉藤伍長が悲鳴のような声で怒鳴った

もうどうにでもなれ!と言った開き直った響きがあった

まもなく迫撃砲と機銃の嵐が始まった


昼過ぎになってやっと砲撃がやんだ

すると突然、恐怖の地響きが聞こえてきた

戦車だ!兵の顔からさっと血の気が引いた

5台の戦車がゆるやかな勾配をゆっくり登ってきていた

これで最後だと覚悟を決めて「撃て!」と号令一発

一斉に戦車の覗き穴に向けて小銃の火蓋が切られた

シャーマンには何発命中しても無駄である


だが、奇跡が起こった

先頭の戦車がガクンと音をたてて止まったのである

そして後退し始めたのだ

先頭戦車の後退につられて後続の4台はくるりと向きを変えて、スピードを上げて斜面を降りていった

最後の肉薄攻撃が恐怖を与えたのだろうか

兵たちの顔に笑みが浮かんだ


後退した米軍は、幸いにもすぐには攻めて来なかった

しかし、今度は茶屋山が攻撃を受けていた

茶屋山は青葉山とつながる一連の山で100メートルほど高い山です

山下少尉は価値ある死を求めようとしているからか、それとも幸運なのか、今まで生きのびてきたことが不思議であった

しかしいずれは死なねばならぬ

茶屋山を眺めながら決断した

「夜になったら、この青葉山を放棄する、いったん山を降り、あの茶屋山を攻撃する」

「茶屋山が俺たちの墓標になるのだ!どうせ死ぬならできるだけ高い山の上で死のう」

兵達の顔に不適な笑みが浮かんできた

もはや彼らは、これ以上望み得ないほどの最高の戦士になっていた







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