グアム戦 日本守備軍潰滅へ 3
悲劇的な儀式である玉砕突撃の準備が行われている夜、青葉山では迫撃砲小隊の塚野少尉が行岡少佐の懇願していた
「もはや迫撃砲は撃ち尽くし一発もありませんが、砲は健在です」
「三河山にはまだ砲の砲弾が集積されています」
「あれを取りに行かせてください」
この要望には米軍がすぐそこまで迫った情況では少佐は許可をすることはできません
「迫撃砲小隊は明日、われわれとともに突撃せよ」
しかし塚野少尉も引き下がりません
「突撃することはやぶさかではありませんが、迫撃の攻撃は効果甚大です」
「運搬が不可能なら、私の小隊が三河山に行きます」
「砲はかついで集積所に突入し、そこから全弾発射して総攻撃を支援します」
「ぜひ、行かせてください!必ず成功させます」
塚野少尉の計画は魅力的に思えた行岡少佐は、三河山から迫撃砲の攻撃があれば米軍は予測できぬこと、後方の敵陣を撹乱する絶妙な戦法と考えた
「よろしい!許可する!」
「塚野小隊はただちに三河山に向け出発せよ」
塚野少尉は15名の部下とともに青葉山の南方約2キロの三河山に向って出発した
このとき、もう1隊が闇に消えていった
第3作業隊から編成された1個分隊の艇進攻撃班である
彼らは手榴弾と爆弾だけを持って、敵陣深く潜入し、海岸重火器陣地を破壊する任務であった
明日の総攻撃にさいして、前もって重火器を排除しておこうとの作戦であった
この兵たちは、人間爆雷となって敵陣に突入し、自らも砕け散る肉弾特攻に指名された決死隊であったのです
「かならず戦果をあげてくれ、頼むぞ」
死にに行く兵の後ろ姿を見送りながら、山下少尉は心のなかで手を合わせた
できることなら彼らに最後の酒を飲ませてやりたかったが、糧食に乏しい青葉山には酒などなかった
彼が兵にできたことは1袋の乾麺だけであった
連隊本部とは電話戦が破壊されて命令を聞きにいくしかない
山下少尉は敵弾の嵐の中を突っ走った
無事、連隊本部につくと
「連隊は米軍の右翼を重点、21時に攻撃前進開始、前面の敵を撃破して、一挙に浅間岬の南側に進出、敵を水中に圧倒、殲滅せんとす」
「第2大隊は右第1線、第3大隊は左第1線とす」
続けて
「17時に第18連隊の軍旗を奉焼する」
「これをもって第18連隊は消滅する、あとは全軍一丸となって、皇国のために玉砕するのみである」
沈んだ声だった
命令を下す側も受ける側も誰も死を望んでなかった
ただ必然的な流れに身をゆだねるだけであった
だれも流れを変えようともせず、変えることを考えようともしなかった
一人の指揮官が自ら決定し、命令し、そして全軍を死へと導いていく
山下少尉はこの総攻撃が、あたかも繁殖しすぎた鼠の大群が、一匹のリーダーに率いられて海中に突進し、集団自殺してゆくさまを見る思いだった