「魔樹館/噂」
「カウンセリングルームですか?」
職員室が静まり返る。
今日の職員会議でエリカが提案したのだ。
「最近、高校生の事件や失踪などが話題ですよね。」
「自分の中で解決できない悩みなど抱えている子が増えているのでしょう。」
「このくらいの年頃は大人を避けますからね。」
「我が校でも、ありましたな事件が…。」
「あれは大変でしたな…」
サラの事件だ。
女子高生が放火や盗難で大騒ぎになった。
彼女は、今は母親の実家に身を寄せていた。
精神的に追い詰められ、療養中とのことだ。
毎日いろんな本を広げては、ブツブツと何かをつぶやいているらしい…
その理由をエリカは知っていた。
サラは、自分の空想の世界に逃げ込んでしまったのだ。
「今や、校内カウンセリングは当たり前の時代ですからねぇ。」
「我が校では、外部から定期的にカウンセラーに来てもらうだけですからね。」
「常勤のカウンセラーはどうしますか?」
エリカはハッとした。
「私も資格を持っていますので大丈夫ですが、留守の時には代理を依頼してあります。私の同期ですが…」
その後も様々な意見が出されたが、エリカの提案は通った。
またあんな事件が起こったら…
その恐怖がみんなの心をよぎったのだろう。
その日の昼休み、早くも話を聞きつけた女子高生が保健室にやってきた。
「センセー、カウンセリングルームができるの?」
「えー、なんでも相談していいの?」
「恋バナでも?」
「ええ、何でもいいわよ。自分の事でも、友達の事でも………」
もしかしたら、あの店のことを知っている子もいるのでは?そんな考えがエリカの心にはあった。
「ねぇ、坂の上にあるアンティークショップの噂って聞いたことある?」
エリカは思いっ切って聞いてみた。
「へ?そういえばあったねそんなお店」
「私は行ったことないけど、何かあるの?その店………」
「あ、いいえ、サラさんが行ったことがあるって聞いたから…。」
(突然こんなこと聞いても無理よね)
エリカは言葉を詰まらせた。
「あーあの子ねぇ。何であんなことしたんだろ?」
「ストレスでもあったんじゃない?」
途端に話題はサラのことになった。
すると、1人の生徒が何かを思い出したように急に話しはじめた。
「あ!そう言えばさっきの店のこと聞いたことある!おじいさんがやってるんだけど、若くて綺麗な男の人がいるとかいないとか………」
「!!」
エリカの表情がこわばる。
「何でも、その人にプレゼントをもらった子がいて、その後失踪したり、亡くなった子がいるって噂だよ。」
「何それ、都市伝説?」
「いかにもって感じだね。」
「私の中学の時の友達から聞いたんだもん。」
彼女たちの笑いの中エリカだけは笑えなかった…。
「そういえばさ、二組のカスミたちが行くとか言ってなかった?」
「あの派手なグループの?」
「今度の連休に行くって言ってた。その日だとお小遣いがもらった後だからとか、バイト代が入るとか…」
「ねえ、その話って………」
エリカはさらに聞き出そうとしていた。
その時予鈴がなった。
「あ、ヤバ!もう行かなくっちゃ」
「カウンセリングルームができたら相談に乗ってねーセンセ。」
彼女たちがいなくなった保健室でしばし、呆然としていたエリカは携帯を取り出すと電話をかけた。
呼び出し音が切れ、相手が電話に出る。
「…エリカ?どうした?こんな時間に…」
男の声だ。
「見つけた…手掛かりを…」
お互いしばしの沈黙があった。
「本当か!………」
「今日、仕事が終わったら家に行ってもいいか?もっと詳しく聞きたい!」
電話越しにも相手の焦る気持ちが伝わってくる。
「わかった…待ってる。タクト」
あの店で青年が言っていたのは本当だった。
カスミ…それが次の犠牲者になってしまうのか?
そうはさせない‼︎
止められれば彼の目的がわかる………
今度こそ………
エリカは保健室を後にした。
続く
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久しぶりになります。遅筆でごめんなさい。
前回からクライマックスに向け、続く話になっています。
焦れったくてごめんなさい。
これからもよろしくお願いします‼︎