誤字・脱字は愛嬌
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January 10, 2017

ニキビ

テーマ:

 夜中に借りたDVDを見て泣いた。ヒトミが絶賛しているヤツなんて、絶対つまらないと思っていたのに、フツーに感動してしまった。というか、ベタっぽい展開をすこし捻ってつくられたストーリーが、思いのほかセンスよくて、それは使い古されたベタな物語にたいしてのあたらしい提示を見せてくれているように思えたし、古びたモチーフも、すこしのあたらしい光を与えれば、また幾重にもわかれて芽ぐむ若枝なのだということを気づかせてくれた。それに単純な筋書きで満足してしまう易い観客の私たちにたいする作り手の挑戦にも思えた。ありふれて、埃にまみれた純愛に涙しているだけの鑑賞をして思考を停止してはいけないのだ。よろこびは、つねに新鮮で創造的なものでなければ、つねに進化し続けるものでなければいけないと気づかせてくれた。それに、そのストーリーは、あたたかくしあわせな結びで、あからさまに感動を匂わすベタな物語とおなじくらい、私を泣かせてくれた。
 泣いたのが悔しい。再生15分くらいしたところで、なかなかよさそうだと思って、お土産で貰ったみかんのお酒をあけた。たぶん、あの甘ずっぱさにほだされて涙腺が緩んだ可能性は十分に考えられる。フツーに素敵な物語を見せられて、フツーに感動してしまった自分を許しがたい。昔はこんなにもろくなかった。だれも見ていないからといって、おいおい泣いたりする易い女ではなかった。それが、ミーハーであることに疑いの余地すら持っていなかったヒトミが、なかば強引に押しつけてきたDVDで泣いてしまうとは……でも、12時を回って、通りの車も静かになった時間に、胸にじんじんしているこの淡い感触を気の迷いと棄ててしまうほど、私は不感症ではない。いまいましい。素直に感動したとか、ほっこりしたとか、陳腐なことばを口にしてしまいそうな自分が恥ずかしい。すごく恥ずかしくて……でも、なんだかいい気分。いままで心の片隅でバカにしてたヒトミのセンスにも、テレパシーで謝っておいた。
 家に帰ってすぐにシャワーを浴びていたし、部屋着兼寝間着の姿。だけど、取りだしたディスクをケースにしまいながら、この気分で寝つけるかな?なんて思った。ケータイに手を伸ばして、遅い時間でも話したくなるような相手、いや、むしろベッドに潜り込んだ時間帯からでも甘えられるような相手……は、2か月前にお別れしてしまったことを思いだして、ちょっとがっくりした。
 そうだ、どんな素敵な気分でも、いずれはしぼんで、忘れていってしまうのだ。こんな気持ちがずっと続けばいいのにな。そうしたら、きっと、私はだれにでもやさしくしていられるはずなのにな。人間の不完全さの歯がゆさをしみじみ感じながら、さて、寝る前に歯を磨こうか。
 鏡の前の歯磨き粉に手を伸ばして驚いた、なんだこれは。腫らした目と、ちらちら鼻から出ている水。つやのない前髪と、ひくい鼻。寝る前だからあたりまえだけど、すっぴんの、なにも隠せていない肌と、指紋でくもったメガネをかけた冴えないオンナの顔。いい歳して、またひたいにニキビが浮いていた。
 ヒトミのDVDはマイナーな映画だった。単館上映だろうか、テレビでよく聞くような俳優の名前はほとんどいなかった。だけど、鏡の前にいるこのオンナは、そんな若手の俳優よりも格段に見劣りするイマイチなオンナだった。カワイイお酒を吞んで、泣ける映画を見て、胸を熱く、オトメごごろをふたたびあたためているオンナが、こんなザンネンな顔をしているとは驚きだ。そうなのだ。向き不向きがあるのだ。ぐずぐずになって、愛らしさが滲み出るのはそれなりの顔をしたヤツで、そうでなければ、ただぐずぐずになるだけ。すくなくとも、私みたいなオンナは、夜中に泣けるDVDみてキュンキュンしているのは似合わない。こういうのはもっと透明感のある原宿でスカウトとかされる女子がやることなのだ。そういえば、2か月前のアイツもよく云っていた。猫かわいい「そういうキャラじゃないじゃん」。スイーツ食べたい「太るからやめろよ」。手を繫ぎたい「急に気味悪いよ」。
 涙は女の武器であっても、それを使いこなす技量……というか器量が必要なのだ。ナントカとハサミは、ナントカですらない。ピュアが許されるのは美人だけなのだ。それに気づいてしまった。歯磨き粉の味はひどく苦かった。とりあえず、あしたヒトミをふるぼっこだ。

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January 03, 2017

テーマ:

そこにあったのは、“物”といえば物で、“人”といえば、なるほど、人だった。だけど、私はその不安定な塊を、“物”と呼ぶには有機的すぎる気がしたし、“人”と呼ぶには、なにかが欠落しているように思えた。私は、そのふたつの中間くらいにある――物のような無表情さと、人のようなやわらかさを併せ持った――そうだ、餅、餅のようなものなのではないかと思った。手に取れば、なるほど、まさに餅。肌のようにきめ細かくて、ぬくもりがあって、餅。しかし、これが自我を持っているとは思いがたい……餅。餅と形容するのが正しい物体、餅なのだ。内に秘めたる夢見ごごちなやさしさと甘美なにおい。餅。ああ餅。さあ、揉めよ揉め。

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December 24, 2016

残量

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「あ、もう無いや」
「携帯? 充電してこなかったの?」

「したけど……よく知らない間に減ってるでしょ。

ああ、もう……赤くなってる。腹立つわ……」

「イライラするなよ……」

「バッテリーって概念だよね」
「え」
「見えないのに無くなるとか云われるの腹立つよね」
「いや、あるでしょ、多分」
「え」
「いや、あるでしょ、バッテリーは」
「は? ほら、存在してないのに、パーセンテージで残量示されるのって、なんだよ、いいところなのにふざけんなよって思うでしょって話を、ね、してるワケね」
「いやいや、減ってるってことは存在はしてるでしょ。バッテリーが無くなるの反対はバッテリーがいっぱいなんだし」
「なんが? どこに?」
「は? 電気が。いや、電池の中(?)に、だろ?」
「いまどき電池なんて、そんなに使ってないでしょ」
「そりゃ缶の形はしてないけど、とりあえず似たような構造の機械が入ってるんじゃないの?」
「違うよ。それは。外見の話だよ」
「は?」
「だって、まさか電池自体は擦り減ったりしないでしょ。中にあるニッケルとか亜鉛とかも擦り減らないでしょ。概念的に減ってるんでしょ。ぜんぶ概念」
「概念じゃないよ。電気は存在してるでしょ。電気はあるよ。ビリっとするでしょ。」
「したことない。濡れ手でさわらないし」
「あれ、カミナリだって電気でしょ。見えるじゃない。」
「光ってるだけでしょ」
「いや、光だって物質(?)じゃないのかな? よくわからないけど」

「えー? 私的には結びつかないわ……」
「うーん」
「私のバッテリーってバーチャルなイメージなのね。この、端っこにあるアイコンみたいな、記号化して示されるべきもの」
「リアルだってば。車の中に箱みたいなの入ってるじゃん。固体で」
「え? カミナリが?」
「いや、電気。ほら、車開けるとバッテリーって部品入ってるだろ」
「アレって同じもの?」
「え? 違うの?」
「名前が同じでも、違うものってあるでしょ。カバとコビトカバみたいに。」
「いやいや……」
「乾電池は個体のイメージなのね。ま、硬いしね。云ってみればバッテリーは気体のイメージ。見えないからね」
「だから無くなるって云われてもイメージ湧かないって、そういうこと云いたいの?」
「そう」
「でも、バッテリーは切れるとも云うよね。断裂するってことは、固体なんじゃない?」
「あ」
「バッテリーがあがるとか」
「それは概念でしょう。実際に上に行くワケじゃないでしょ」
「ときどきもれるでしょ」
「まあ」
「あ、でも、それって電池かな。ってか電池とバッテリーはなにが違うのかしら……」

「組むこともあるよね……」
「そうね」
「それに……」
「あのさ」
「え」
「いま、バッテリーと掛けたでしょ。バッテ↑リーと。なに、それ、面白いって思った?」
「え、なに? キレてるの?」
「それも、バッテリーが切れると掛けた? え? 面白い?」
「……」
「……『昔はこんなじゃなかった』とか考えてたでしょ? 『昔はなにを云ってもやさしかった』とか思ってたでしょ? オレたちの恋ももう切れたなとか。」
「してないよ」
「……こいつも、もう30だし、オンナとしての賞味期限が切れたなとか」
「なにも云ってないだろ。そんなにアレコレ掛けないよ。」
「……顔から心の声がもれてるわよ」
「はぁ? なに、お前が掛けてるんだよ」
「いいじゃない、掛けても。じゃあ残りのあげる。バッテリーがあがるで、さ、私をあげてみなさいよ。ああ、私がもう先にアナタにワードをあげちゃったかしら?」
「なに云ってるんだよ」
「さ」
「……」

「うまくできたら、ご褒美あげるから」
「……」

「何あがってるのよ、さ」
「やめろよ……」
「ほら」
「……もう、いっぱいいっぱいだよ」

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