今日は、本番まであと一月ちょっとになった音楽狂言《寿来爺(すくるうじ)》の原作について書いてみたいと思います。

《寿来爺》の原作、それはチャールズ・ディケンズという19世紀イギリスの作家が書いた『クリスマス・キャロル』という小説です。

ディケンズという人は、大変に貧しい家庭に生まれ育ちながら、文学をこころざし
新聞に世評を書くことでデビューしました。

10年くらい前にロマン・ポランスキー監督によって映画化された『オリヴァー・ツイスト』には、自分の少年時代の苦難が反映されています。

『クリスマス・キャロル』が書かれた19世紀前半は、産業の発達により煤煙と汚水による生活環境が悪化し、そして身分格差が大きくひらいていった時代です。



この作品にはそんな時代背景があり、
商売と蓄財に明け暮れる守銭奴スクルージと、その部下であるボブ・クラチットは、
まさしく雇用者と被雇用者の格差を表しています。

『クリスマス・キャロル』では、スクルージはマーリーの亡霊を皮切りに、過去、現在、未来のクリスマスの精霊が現れて、改心を迫ります。

その「クリスマスの精神」とは
産業と経済成長に邁進し、心の豊かさや他者への思いやりを失っていく時代にあって、
ふたたび人間的な心を取り戻すため、「神のもとに人は平等である」という最後の良心だといえるのです。

そう考えると、キリスト教徒ではないにせよ、私たち日本人にも耳に痛いところがあります。
ディケンズの作品が古びないのは、
19世紀に生まれた産業と生産による社会構造が、
ほとんど21世紀まで形をかえずに残っているためだと言えます。

先進国はつねに『クリスマス・キャロル』の「クリスマスの精神」が求められているのです。


さあ、それが狂言ではどのように表現されるのでしょうか。


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【曲目】
ヘンデル 二つの楽器のためのソナタ
パッヘルベル カノン
ヴィヴァルディ 二つのヴァイオリンのための協奏曲
(休憩)
W・ギーガー 音楽狂言《寿来爺》(《クリスマス・キャロル》)

【出演者】 
狂言:善竹十郎、善竹大二郎
演奏:河村典子(ヴァイオリン)、大田智美(アコーディオン)、白土文雄(コントラバス)

【日時・会場】
2015年12月23日(水・祝)17時開演
梅若能楽学院会館(東中野、中野坂上)

チケット:4500円(指定席 +1000円 要予約)
ご連絡は長屋晃一まで。
tarambouf28[at]yahoo.co.jp ([at]は@に直してください)