「人見知り」はどう生きるか

「人見知り」はどう生きるか

2019年8月2日 タイトル「人見知りはどう生きるか」を発売しました。

目標は10万部。

ここでは基本的に作成中の小説を載せていきます。

Amebaでブログを始めよう!

人見知りはどう生きるか

 
学校の教室のドアの前に立つ。
ドアの奥からはそれだけで青春を感じさせる男女の話し声や笑い声が混ざった甲高い音が聞こえて来る。
僕はそれらの音を遠い存在に感じながら取手に手をかけ扉を開ける。
自分の席までの最短ルートを周りに話しかけられない距離を保ちながら進んでいく。
「今日放課後カラオケ行かね?」
「いいね~!じゃあ女の子も誘ってみない?」
「あ、それいい!誰にしよっか?そういえばお前○○ちゃんのこと可愛いって言ってたよね?」
学校生活の楽しみ方のマニュアルのような会話を聞きながら、無事に何事もなく席に着いて鞄を床に置く。
自分の体を傾け、鞄から教科書を取り出しながら思う。
「あぁ…俺、人見知りだなぁ…」
僕は会話をすることが極度に怖かった。
会話するときに訪れる沈黙が耐えられなかった。
沈黙という空白の時間の中で脳みそにネガティブな考えが充満していく。
「つまんないやつと思われてないかな…」
「気まずいと思われてないかな…」
「嫌われてないかな…」
そして僕は「あ、俺宿題やんないといけないの思い出した」と架空の用事を作って会話する空間から逃げていた。
学校というのは会話という作業が大半を占める。
その学校生活の中にある会話の量に僕は圧倒されて、ただただ逃げ回るばかりだった。
学校の授業と授業の10分休みはたわいもない会話をする自信が無いから机の上で寝たふりをする。
教室移動のときも会話することが怖いから尿意も無いのに「俺ちょっとトイレ行ってくる」とわざとトイレに行って時間をずらして教室移動をする。
「こんなこといつまでやってるんんだろう」
机の上で寝たふりをしている時間の中でずっとこの言葉が頭の中をぐるぐるぐるぐる回っていた。
たまに女の子に話しかけられても「あっ…はい。。あっ…そうなんですね。。うっす…」と言って徐々にコミュニケーションからフェードアウトしていく。
惨めだ。哀れだ。
青春という二文字から想像される世界とはかけ離れた高校生活を3年間送っていた。絶望という二文字の方が僕の学校生活には相応しいだろう。
そして、僕は大学受験期に入る。
1日13時間の猛勉強を1年間こなした。
勉強量に対する偏差値の上昇具合が見合わず焦りと不安に背中を押されながら必死に勉強した。
受験が終わり合格発表当日を迎える。
僕は緊張で震える手を何とかコントロールし、マウスのカーソルを「合否発表」のボタンに合わせて右クラックを押した。
パソコンの液晶画面が切り替わる。
そこには「合格」の二文字が書いてあった。
「よっしゃー!!!」
声にこそ出してないが、思わず右手がガッツポーズをしていた。
僕は大学に通う切符を手にいれた。
しかし、その時嬉しさと同時に恐怖が僕を背筋を襲った。
あの哀れで惨めな学生生活を後4年も続けるのか。
ビクビクしながら学校に行き、逃げるように学校から去る。
毎日自分のコミュニケーションの無さを突きつけられる。
思い出は一切残らず、トラウマだけが執拗に心に残る。
修学旅行も行ってない。文化祭、体育祭の思い出もない。過去を振り返る写真はない。
地獄だ。地獄すぎる。
地獄からの出口に辿りつく年月は4年。
長い。あまりにも長すぎる。
僕は決断した。
人見知りを克服しよう。
人見知りを克服して、大学生活を面白くしよう。
僕は大学の内定通知と同時に人見知りを治す覚悟を決めた。