2011-04-04 22:49:33

第173回_災害後に発展する企業とは(大災害から立ち上がった男達④)

テーマ:ホテル

ソフトバンクは43日、孫正義社長が東日本大震災の被災者に向けて義援・支援金100億円を寄付すると発表した。それだけではなく孫社長は2011年度から引退するまでの役員報酬の全額を寄付し、震災遺児らの支援に充てるとしている。なんとも爽快な話である。




他にも経営者ではユニクロの柳井会長が個人で10億円の寄付をいち早く表明したのに続き、楽天グループの三木谷会長も個人で10億円の寄付を発表している。




政治低迷、官僚腐敗と言われている昨今、日本という国は民間人でもっているのではないかとつくづく感じさせられるニュースである。経営者に限らず、震災が起きてから年齢を問わず自分が被災地の人達に何が出来るかを必死に考え行動している多くの人がおり、この人達の姿をみると日本ほど民度の高い国民は世界中を見てもないのではないかと思わせる。



しかしその一方で、あまり報道はされないが、被災地で倒壊した店や家から現金を盗んだり、義援金と称して詐欺をする、どうしようもない人達がいるのも事実である。




また、違法ではないが災害にかこつけて便乗商売をする会社も出てくるだろう。阪神大震災の時に大阪市内のある大手不動産会社が震災後、どの賃貸マンションにも人々が殺到したので、これに便乗して震災2日後には賃貸料も保証金も値上げしたという話がある。今後も残念ながら災害に便乗して儲けようという会社が出てくるかもしれないが、こういう会社に明日はないといえよう。私はこのような緊急時にどういう行動をとるかでその会社、経営者の本質、人格、人間性が現れ、将来の行く末が見えてくると思う。何故なら過去の歴史がそのことを証明しているからだ





1910年(明治43年)東京高等商(現一橋大学)を卒業した男は成績が悪く希望の外交官は諦めるより仕方なく、就職先も見つからず途方にくれていた。大学の教授の斡旋でようやくありつけた職が満鉄経営のヤマトホテルでのボーイであった。仕事にありつけたものの、当時のホテルは貴賤な仕事とされていたため、自尊心が傷づけられた気持ちで劣等感に襲われる毎日であった。この男はこのホテルを3年勤めた後、上海、ロンドンのホテルへと転々とする。



そしてロンドンで初めての冬を迎えた。クリスマス当日、休暇を与えられたが商店は全て閉じ、映画館や芝居小屋も休業していてどこにも行くところがない。人々はこの日教会で祈祷をささげた後、親類知人が集まって楽しい団らんの時を過ごすが、親類、知人のいないこの男はやむをえず終日、きたない宿の一室でパンをかじりながら天井を凝視するよりなかった。




しかしこの時の蒼然たる孤独感がこの男を悟らせた「自分はこれまでただ自分のためにのみ働いてきた。そのためにロンドンに一人の知己もなく、わびしいクリスマスを味わわねばならなかったのだ。今後は可能な範囲で人のために働こう」この決意がこの男のその後の人生を大きく変えた。より懸命に働き仕事も認められ次にアメリカに渡りさらに実務を身につける。




間もなくこの男の働きぶりは太平洋を越えて帝国ホテル会長の大倉喜八郎(おおくらきはちろう)の目にとまり帰国をして帝国ホテルで働くことになった。その間アメリカの高名な建築家ロイド・ライトが設計した新館が完成し、開業披露宴当日の91日を迎えた。




しかしこの日にとんでもない災難が降りかかる。突如大地震が襲った。関東大震災である。幸いホテルは倒壊もせず、火災も免れたと同時にこの建築の優秀さを実証する結果となったが、驚くのはまだ30半ばのこの男の、この後の行動である。まず料理場を確認するとボヤが出ているので直ぐに中央電源を切り惨事を防いだ。外に出ると日比谷一帯は火事であった。日比谷公園は避難する人で溢れる。この惨状を目の当たりにし、この男は独自の判断で宿泊客の全てに対して宿泊料を無料とし、外部から寝るところを求めてくる人にも同様に扱った。食事はシチユーのごとき簡単なものを提供し付近の建物から避難してきた人にも出した。




次に被災から免れたホテルの建物を最も有意義に使用するにはどうすればいいか考え、社屋が焼失し取材活動も思うにまかせぬ朝日、電通、通信者にロビーや空室を提供した。続いて、英、米、仏、伊などの各国の大使館にも部屋を提供した。同時に食糧の確保が緊急であると考え、早速自動車を八王子方面に派遣して野菜を集めさせた。これも無料で客や避難者に提供し皆に感謝される。この機転のきいた迅速な行動はまさにサービス業に携わる人達の鏡であり皆から賞賛、感謝されたのはいうまでもない。




この男は大震災に際し在外公館と在日外国人に便宜をはかったことが感謝され、英国、フランス、イタリアの3国から勲章を授与される。この男の名はホテル王と言われた犬丸徹三(いぬまるてつぞう)である。




大震災での犬丸の行動が外国人から感謝と評価を得ることになり、その後、犬丸は帝国ホテルだけでなく日本のホテル業界を一流に引き上げる最大の功労者となった。私は犬丸がこれだけのことが出来たのもロンドンで悟った「人のために働こう」という決意が本物だったからだと思う。





文責 田宮 卓 





参考文献


田中康夫 「神戸震災日記」 新潮文庫

日本経済新聞社 「私の履歴書 12」日本経済新聞社

日本経済新聞社 「20世紀 日本の経済人Ⅱ」 日経ビジネス文庫

日本経済新聞社 「経済人の名言・上下」 堺屋太一 監修









































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