BLUE MACCHIATO -3ページ目

5章 tall-mocha

2月も終わりにさしかかった頃、博美さんから電話がかかってきた。


「やっほー?」
「やほー!元気してた?」
「うん、やっと友達のごたごたが片付いた」
「そっか、お疲れ様」
「ごめんね、あんまり連絡できんくて」
「それはそれで仕方ないやん。それに、こうして連絡できるようになったんやから」
「ありがと」


久しぶりの博美さんの声は、変な義務から解放されたのか、非常に穏やかだった。
会話でも少し甘えたような感じなのがほほえましい。


「この前ね、久しぶりにスタバに行ったの」
「おぉ、今となってはバイト先ですわ。何飲んだん?」
「ちょっと普段と違うものを頼んでみたんよ」
「え?何やろ…キャラメルマッキャート?」
「いんや、カフェモカなんやけどね」
「あぁ、モカか。チョコレートシロップが入ったやつよね?まだ飲んだことないわ」
「てか、あれね、まるっきりココアだよ」
「え?そうなん?エスプレッソもちゃんと入ってるのに」
「でも、ココアと一緒なんだもん」
「そうなん?じゃあいつか試してみるわ」

スタバの話題になると少し嬉しい。
自分の方が優位に立てる気がする。

でも実際はスタバ暦は私のほうが短いので今回のような知らない情報が出てくることもある。


「てか、兄さんいつ暇ができる?」
「えっと、大学も試験が終わったから、来週は普通に空いてるよ」
「じゃあデートしよ?」
「うん、うん!しよう、しよう!ただ、友達の家に泊まる約束もあるからそれとの調整になるけど」
「じゃあ、いつになる?」
「そうやな、友達のところに泊まるのは4日の晩にして、5・6なら大丈夫」
「じゃあそれで空けておくね」
「うん。先月が無理やったから、めっちゃ久々になるなぁ」
「そうだね~。で、場所はどうする?」
「どこがいい?」
「じゃあ…神戸行きたい!」
「OK、じゃあ神戸で」

ようやく会う約束にまでたどり着けた。
前回、約束が流れてからもう会えないかもしれないと思っていた。
それがようやく叶う。



約束の前日、私は京都に住む友人の下宿に泊まりに行くために京橋で友人を待っていた。
もちろん、時間をつぶすためにスタバに入る。


狭い店舗で、やっと座れる席を見つけた。ガラス越しに外が見える。
注文を考えたが、ここは先日話題になったカフェモカでいってみようかと決意した。


「お願いします!」
「どーぞ!」
「トールモカ!」
「トールモカ!」

初めて飲んでみるカフェモカは、やっぱりココアの味だった。
これがコーヒーでいいのだろうか。
しかし、チョコレート好きの私にとってはたまらない。


ここでぼーっと友人の到着を待ちながら、博美さんから来たメールを読み返していた。
するとメールの受信アイコンが点灯し、メールの到着を告げる。


待っている友人だろうか、と思ったが、ディスプレイに出てきた名前は博美さんだった。


「今、ネックレスを衝動買いして、それからいつものスタバでまったり中~
久しぶりに会うので、珍しく女の子らしくしてみるのだ(爆)」

こういう偶然が起こるのを待っていた。
私がスタバに通い続けていた理由がそれ。


早速電話をしてみた。

「もしもーし?」
「やっほー!今何してるの?」
「京橋ってところのスタバで友達を待ってる」
「あ、兄さんもスタバおったんや」
「うん、偶然。嬉しい偶然」
「今日は何飲んでるのかな~?」
「前話に出てきたカフェモカ飲んでます」
「うそ!?私も今カフェモカ飲んでるよ」
「え?嘘!?サイズは?」
「トール」
「俺もトール。うわ~すげ~偶然~!」
「ほんとだね~。てか、味はどうだった?」
「うん…やっぱりココアやね」
「でしょ?」
「でもココア好きな俺にとってはぴったりかも」
「ふふ、そうだね~」

何とも嬉しい偶然が重なった。
離れた場所なのに、同じときに同じものを飲んでいるこの偶然。

この前の絵の時も然り、偶然の一致に、運命を感じずにはいられない。



「じゃあ、明日、三宮に14時待ち合わせで」
「うん、遅刻しないように頑張るね」



こうして、久しぶりのデートを前に、気持ちは更に盛り上がりを見せたのだった。