村上春樹『騎士団長殺し』、ネタバレありの読後感(第1弾) | 作家・土居豊の批評 その他の文章

村上春樹『騎士団長殺し』、ネタバレありの読後感(第1弾)

村上春樹『騎士団長殺し』、ネタバレありの読後感(第1弾)

 

 

村上春樹『騎士団長殺し』を発売日に入手して、早速斜め読みした印象では、掛け値なしに春樹文学の総決算だといえる。特に『ねじまき鳥クロニクル』の世界観を継承しつつ、時系列では東日本大震災までをフォローしている。

村上春樹の待望の新作だということだから?早速けなしまくる人がいるが、真面目に読んだのだろうか?と問いたい。
本作は、少なくとも途中までは、普通に日本文学のまともな小説として読める。春樹作品にしてはまともすぎるぐらいだ。もちろん、途中から怪しいあれこれが出てくるが、今時の小説で、マジックリアリズム的な展開など珍しくない。

全体を通じて、大上段に構えない文体で、淡々と物語が時系列順に進行する。物語の中身はほぼ卑近な話題だが、その裏側に底知れない深みを感じる何か、がある。その何か、が何なのか? それをいずれまた再読しながら考えたい。

 

 

 

以下、内容ネタバレするので、未読の方はご注意を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


本作を読む上でまず押さえておきたいのは、村上春樹の短編「ファミリー・アフェア」(『パン屋再襲撃』所収)だ。

その理由は、本作とこの短編の主人公がともに兄妹の家族構成だからだ。そして、春樹作品の中でこの兄妹という設定は他にない。
さらに、本作と短編「ファミリー・アフェア」はどちらも、春樹作品として珍しい部類のリアリズム描写で書かれている。もっとも、本作の場合は、途中からマジック・リアリズムに移行していくのだが。
村上春樹の主人公の多くは、家族を持つことを好まず、基本的に一人っ子で、あるいは親族と疎遠なまま生活している。ところが、短編「ファミリー・アフェア」では、珍しく、家族の心の交流を実に巧みな文章で描き出している。
本作『騎士団長殺し』においても、テーマは家族関係だといえる。そういう観点から読むと、本作は村上春樹が家族を描こうとした小説であり、新たな重いテーマに真正面から挑んだ意欲作だといえるのだ。
突飛な例えに聞こえるかもしれないが、『騎士団長殺し』は、村上春樹における漱石『門』か『行人』に該当する印象だ。そこから遡ると、『ねじまき鳥クロニクル』は『それから』に該当するということになるのではないか?
ただ、遡っても、『三四郎』に該当する春樹作品はなさそうだが。

ところで、『騎士団長殺し』は、「第2部終わり」と最後に記されている。この終わり方は『ねじまき鳥クロニクル』や『1Q84』の場合と同じで、いかにも続きがあり得るような感じだ。
でも、筆者の読後感は、これで完結した方がいい、というものだ。本作は、非常にしっかりと堅固に構築されている。ちょうど四楽章構成の交響曲のように。これ以上の続きは不要に思えるのだ。


そういえば、「騎士団長殺し」を、タイトルが「アクロイド殺し」に似ているからミステリーかな?と予想した人もいた。
だからどうというわけではないが。


以下は余談だが、
村上春樹ネタとして、春樹文体でツィートしたりするのがあるが、笑い事ではない。素人が真似て書いたのに一目でその作家だとわかる文体、など、まさに稀有だ。村上春樹はあの独特の文体を確立しただけでも、偉大な作家だといえるのだ。
物書きなら、そんな強固な文体が、なにより欲しいはずだ。ほんとに冗談じゃない。

 

これも余談だが、テレビのニュース特集をみて、村上春樹の小説の主人公が「やれやれ」を連発するというのをきいて、筆者の息子は『ジョジョ』のパクリだ、と言う。
だが、承太郎のは「やれやれ、だぜ」だぜ、息子よ。

 


※ほんとは「文学理論」の本ではないのですが…1位をいただきました!

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『村上春樹で味わう世界の名著』(Kindle版)
土居豊 著
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【内容】
本書は、以前、配信していたメルマガをもとに、新たにwebエッセイとして毎週更新していた、土居豊『村上春樹で味わう世界の名著』の連載をまとめたものです。
本書では、村上春樹作品に引用された世界の名著を紹介しています。世界で愛読される村上春樹の小説を通じて、世界の有名文学のエッセンスをレクチャーする内容です。
村上春樹が折にふれて述べている「物語力」こそ、困難な時代を生き抜く力となるにちがいない、と筆者は考えています。
村上作品に数多く引用された古典や名著を読むことで、読者のみなさんの生きるヒントがみつかれば、と願っています。

【目次】
第1章「村上春樹『1Q84』より、『平家物語』」    
第2章「村上春樹とニーチェ」    
第3章「村上春樹『1973年のピンボール』とカント」    
第4章「村上春樹『羊をめぐる冒険』とシャーロック・ホームズ」    
第5章「村上春樹『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』とプルースト」    
第6章「『ノルウェイの森』より、村上春樹とフィッツジェラルド」    
第7章「『ダンス・ダンス・ダンス』より、村上春樹とフォークナー」    
第8章「村上春樹『国境の南、太陽の西』より、(タイトルなし)」    
第9章「村上春樹『ねじまき鳥クロニクル』より、ヘミングウェイ『武器よさらば』」    
第10章「村上春樹『スプートニクの恋人』より、夏目漱石『三四郎』」    
第11章「村上春樹『海辺のカフカ』より、カフカ「流刑地にて」」    
第12章「村上春樹『アフターダーク』より、村上春樹『1973年のピンボール』」    
第13章「村上春樹『1Q84』より、ジョージ・オーウェル『1984年』」    
第14章「村上春樹『1Q84』より、『平家物語』&映画『ノルウェイの森』」    
第15章「村上春樹『1Q84』より、ヤナーチェック作曲『シンフォニエッタ』」    
第16章「村上春樹『1Q84』より、プルースト『失われた時を求めて』」    
第17章「村上春樹『海辺のカフカ』より、夏目漱石『虞美人草』」    
第18章「村上春樹『海辺のカフカ』より、夏目漱石『坑夫』」    


 

 

※門戸厄神読書会、次回は村上春樹最新長編『騎士団長殺し』

 

 

https://www.facebook.com/events/631425923728961/


http://ameblo.jp/takashihara/entry-12248676219.html


待望の春樹最新作について、心ゆくまで語り合いましょう。

3月23日(木)19時〜村上春樹『騎士団長殺し』第1部 顕れるイデア編

 

 

※生駒ビル読書会、3月8日はいよいよ村上春樹の新作長編『騎士団長殺し』第1部&村上春樹について何でもフリートーク大会

 

https://www.facebook.com/events/609924619194246/

 

生駒ビル読書会、3月は村上春樹の新作長編『騎士団長殺し』第1部を扱います。
さらに、引き続き4月には、同第2部を読みましょう。

 

 

 

※2月24日(金)サンテレビ・ニュースポートで村上春樹の文学について土居豊が解説しました

 


http://ameblo.jp/takashihara/entry-12251110848.html


 

 

※土居豊『いま、村上春樹を読むこと』(関西学院大学出版会)
【内容】
『アフターダーク』以降の小説を、短編集を中心に熟読し考える試み。昨今の「読まずに批判する」風潮に一石を投じる。「村上春樹現象」ともいうべき、最近の村上春樹をめぐる言説について論じる。
http://www.kgup.jp/book/b183389.html

 


 

 

【土居豊の共著新刊予告!】
2017年春 共著『西宮文学案内』(河内厚郎監修 関西学院大学出版会)刊行予定
土居豊の担当章で、「涼宮ハルヒ」シリーズに描かれた西宮の風景を論じます! ハルヒ聖地巡礼の写真も掲載。


 

 

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