村上春樹がノーベル文学賞に選ばれなかった理由について | 作家・土居豊の批評 その他の文章

村上春樹がノーベル文学賞に選ばれなかった理由について

村上春樹がノーベル文学賞に選ばれなかった理由について

さる10月10日の夜、村上春樹氏の母校で、他の皆さんと発表の結果を待ちました。



文芸ソムリエ・土居豊の「世の中テイスティング日乗」

文芸ソムリエ・土居豊の「世の中テイスティング日乗」


校長室には、卒業生の方々が集まっており、マスコミ取材陣が部屋にひしめいていました。その隙間を、在校生の新聞委員の学生さんたちが、ビデオカメラ片手に取材してまわっており、在校当時は同校新聞委員会所属だった春樹氏の、若い後輩たちの頼もしい姿をみることができました。
受賞結果は、すでにマスコミ報道の通りです。


文芸ソムリエ・土居豊の「世の中テイスティング日乗」


さて、
11日発売の日刊ゲンダイ紙面で、村上春樹さんがノーベル文学賞に選ばれなかったことの理由を、私なりに考えたコメントが記事に引用されてます。

文芸ソムリエ・土居豊の「世の中テイスティング日乗」


ただ、お話したニュアンスがかなり変わっているので、私なりの考えをここに書きます。
(春樹さんがもし当該記事をご覧になったなら、私の言いたかった趣旨は違うので、どうか怒らないでください)

以下、
村上春樹さんが今年、ノーベル文学賞に選ばれなかった理由を、私なりに考えました。

1)ある意味、順等な結果である。
つまり、これは受賞の順番待ちであるということで、昨年は中国の作家だったため、続けてアジアから、というのはなさそうだ、という予想である。

2)『多崎つくる』の評価待ち
新作『多崎つくる』が出たばかりで、まだ世界の多くの読者は未読であること。その評価しだいで、今後判断するだろうという予想。『多崎つくる』が、いかにも春樹作品らしい手堅い小説なので、前作『1Q84』とは違って、従来の春樹作品の路線に戻った、ともいえる。だから、『多崎つくる』が世界の文学研究者に好評であれば、ますます春樹の評価が確実なものになるだろう、といえる。

3)『1Q84』の賛否両論。
当面、『1Q84』の完結待ちで、この大作がどういう形でまとめられるのか、その評価を待って判断しようということかもしれない。

4)年齢
なんといっても、春樹氏はまだ若い、といえる。今年の受賞者、マンローなど、もっと高齢で、受賞を待っている候補者が多い、ということだろう。

5)春樹作品は文学ではない?というのは日本だけの特殊な問題
まことしやかに語られる「春樹作品=通俗小説」というくくりは、おそらく、日本だけの問題であろう。
いわゆる、大衆小説と純文学、の区別は、日本独特の文壇的ヒエラルキーの表れで、諸外国での文学の区別は、日本の純文学と=ではない。
少なくとも、春樹作品は、海外では文学扱いである。ハリポタやキングとは明らかに別のジャンルだといえる。
だから、ノーベル文学賞に選ばれるかどうか、の判断は、春樹作品の文学世界が、諸外国、特に欧米の文学研究者に十分認められるかどうか、に、最終的にはかかっているといえよう。


以上

ちなみに、ノーベル文学賞騒動についての、私個人の見解ですが、
これはすでに、日本の出版界にとって、本が売れるための「祭り」となっています。
秋の読書週間とちょうどタイミングもあうので、この機会に、村上春樹の作品を読んでみようかな、という新たな読者、本の買い手を増やすイベントなのだと思います。
そのこと自体は、なんら悪いとは思いません。
ただ、もし来年も同じくこの「祭り」が盛り上がるとすれば、
ぜひ、過去の受賞者の作家たち、たとえば今年の受賞者のアリス・マンロー、一昨年の受賞者・莫言、あるいは、日本人の過去の受賞者や、候補だといわれた作家たちの作品などを、広く取り扱ってほしい。
そうして、「ノーベル文学賞祭り」で、出版業界全体がもっと活気づくようなイベントを、それぞれの版元はもちろん、書店や大学などが積極的に企画、開催してほしいと思います。
私なども、微力ながら、各自治体を中心に、文芸ソムリエとして「ノーベル文学賞」文学レクチャーを実施しています。
ノーベル文学賞は、もっとみんなで読書を楽しむ雰囲気を盛り上げていく、格好の機会だと思うのですが、いかがでしょう?


※以下、告知です



土居豊の新刊『沿線文学の聖地巡礼 川端康成から涼宮ハルヒまで』のお知らせ

http://ameblo.jp/takashihara/entry-11632618571.html

10月中旬、私の新刊『沿線文学の聖地巡礼 川端康成から涼宮ハルヒまで』(関西学院大学出版会 刊)
が、発売になります!


文芸ソムリエ・土居豊の「世の中テイスティング日乗」


この本は、文学散歩を通じて、読書の楽しみをさらに深めよう、という趣旨で書かせていただきました。
それも、ただの文学散歩ではなく、関西の私鉄路線を中心に、鉄道沿線と文学の深い関わりを考える試みとして、村上春樹をはじめ、東野圭吾、万城目学など人気作家の小説も取り上げました。
さらに、川端康成と村上春樹の意外な関係など、これまでにない視点から、小説を読む楽しみを追究しています。
発売予定は10月24日ごろ、となっています。
ぜひ、書店、あるいはネットでも、お求めくださいますよう、お願い申し上げます!

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2012年4月、評論『ハルキとハルヒ 村上春樹と涼宮ハルヒを解読する』(大学教育出版)刊行。作家・筒井康隆氏に絶賛される。
土居豊 著『ハルキとハルヒ 村上春樹と涼宮ハルヒを解読する』(大学教育出版ASシリーズ第5巻)
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内容紹介:
『涼宮ハルヒ』シリーズと村上春樹作品との意外な関連を読み解く。どちらも現代日本人が求めてやまない魅力的な物語を描き、世界的に大ヒットした、両者を並べて論じた初めての一冊。

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村上春樹の作品舞台をフィールドワークし、考察した評論集。『関西文学』選奨奨励賞を受賞した連載をもとに、書き下ろしを交えた。
http://www.amazon.co.jp/dp/4882026902/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=books&qid=1277827644&sr=1-1


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