薮下哲司の宝塚歌劇支局プラス

映画・演劇評論家の薮下哲司(元スポーツニッポン特別委員)が宝塚歌劇はもとより映画、演劇など幅広い分野のエンターテイメント情報をお伝えしていきます。


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  ©宝塚歌劇団


明日海りお、クラシックなコメディに本領発揮!
花組「アーネスト・イン・ラブ」大阪公演開幕

明日海りお率いる花組によるミュージカル「アーネスト・イン・ラブ」(木村信司脚本、演出)が、3日、梅田芸術劇場メインホールで開幕した。昨年1月の東京公演以来1年ぶりの再演となったこの公演の模様を報告しよう。

「アーネスト・イン・ラブ」は、「ドリアン・グレイの肖像」などで有名なオスカー・ワイルドの「まじめが肝心」をもとに、アン・クロズウェルが脚本、作詞、リー・ボクスリーが作曲したミュージカルコメディ。1960年にオフ・ブロードウェーで上演され、400回程度のロングランを記録、2002年には「英国王のスピーチ」のコリン・ファース主演で映画化され日本未公開だが「アーネスト式プロポーズ」のタイトルでDVDが発売されている。
宝塚では2005年に瀬奈じゅん、彩乃かなみのトップコンビの披露公演として上演され、その後、花組でも樹里咲穂、遠野あすかコンビで再演された。

19世紀末のロンドン。田舎に住む貴族の青年ジャック(明日海)はロンドンに住む貴族令嬢グウェンドリン(花乃まりあ)に夢中。彼女は親友アルジャノン(芹香斗亜)の従姉妹で、きょうもアルジャノンの家に彼女が母親のブラックネル夫人(悠真倫)とお茶に来ると知り、きょうこそプロポーズしようとやってくる。彼女もそれを待っているのだが、ジャックがもう一つの名前アーネストとしてプロポーズしたためとんだ騒動に発展。ジャックとグウェンドリンの恋の顛末はいかにというお話。本来は無為なるイギリスの貴族社会を痛烈に風刺したコメディなのだが、宝塚版からはそれがかなり薄まっていて、どこが面白いのか理解に苦しむような他愛ないお話にしか見えないのがつらいが、耳に優しい音楽と、宝塚ならではの豪華なセット、明日海はじめ出演者の芝居の世界に入り込んだなり切り演技が潔く、心地よく大人のファンタジーに浸れるのが救い。ひょんなことから貴族として育てられ、何不自由なく過ごしたジャックに扮した明日海の青年紳士ぶりもぴったりで彼女独特のなめらかだが芯のある歌声も健在、明日海にはこういうクラシックなコメディがなんともよく似合う。

 舞台面は初演とほぼ変わらないが、セット(太田創担当)が洒落ている。緞帳が上がると舞台上手後方のオーケストラが序曲を演奏し始める。50年代の匂いあふれる流麗なオーケストレーションに聞き惚れていると、オーケストラの上から巨大なケージが天井から降りてきてすっぽり覆ってしまう。このセットは度肝を抜くに十分の迫力。こじんまりした室内劇に壮大なスケール感を与え、これから始まる舞台への期待感を盛り上げた。同時に降りてきたお屋敷のセットが収まると執事役の鳳月杏が登場。時代背景と人物設定をしていく。鳳月の台詞の口跡と動きがシャープで目が離せない。

 明日海は、二階建てのセットの上手から登場して「どうしたらプロポーズできる」を歌い上げる冒頭のシーンから、このコメディに合わせたややオーバー気味の仕草がなんともキュート。昨年、一度演じているとはいうもののかなり練りこんだ様子がありあり。「新源氏物語」の光源氏とは打って変わった、明るくさわやかな青年像を、鮮やかに体現した。「ミー&マイガール」のビルにも通じる役なので、ビルの前哨戦としても、彼女にとってこの再演は肩慣らしとしても非常によかったと思う。ただ、ちょっと真面目すぎる感じもあり、もう少しくだけた方が見る側はさらに楽しめるだろう。これはビルを演じるときにもいえることなので、これだけが課題だ。

 グェンドリンの花乃も、彼女の個性にぴったりうえ、一年ぶりの再演ということもあって、余裕すらうかがえて、歌唱もよく伸び、これまでで最高の出来栄えではないかと思う。わがままで勝ち気な貴族の娘を、品を崩さずに演じ切った。

 親友アルジャノンの芹香も一度演じているという安心感のようなものが身体から滲んで、一回り大きくなった感ありあり。明日海との絡みもひるまず堂々と受けて立ち、なかなか素敵なコンビだった。

 そして今回の注目は執事レイン役の鳳月。冒頭から小気味いいくらいの切れのいいセリフと動きでひきつけたが、途中も緩急自在で存在感たっぷり。フィナーレの燕尾服のダンスもシャープで思わずひきつけられた。今回は役替わりでアルジャノンを演じるが、芹香とは一味違ったアルジャノンを見せてくれそうだ。

ジャックが後見人を務める少女セシリイは城妃美伶。背伸びしたおませな少女という雰囲気をよくつかんだ好演。花乃とのからみも息があって楽しかった。

そして舞台をぐっと締めたのはブラックネル夫人役を演じた専科の悠真倫。もともと男役だけに迫力のある台詞は彼女ならでは。初演の出雲綾とはまた違った存在感が見事だった。

ほかはアンサンブルであまり役はないのだが、「ハンドバッグは母親ではない」のナンバーで男役も全員が女役で登場したりする珍しい場面や、客席おりもあり、それなりに見せ場はあった。役替わりでセシリイを演じる音くり寿も村娘や召使いなどで初々しいところを見せていた。フィナーレの明日海×花乃、芹香×城妃のダブルデュエットで乙羽映見が関西では久々に美声を聴かせくれたのもうれしかった。

余談だが、これにそっくりの作品が、高嶺ふぶき時代の雪組で「アリスの招待状」というタイトルで上演されたことがある。太田哲則氏の脚本、演出で、不思議の国のアリスの世界にまぎれこんだアーネストという青年が恋のさやあてをするストーリーで、こちらはこちら楽しかった覚えがある。ビデオが出ていないのでいまとなっては見比べるすべがないのが残念だ。

©宝塚歌劇支局プラス2月4日記 薮下哲司

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