takam16の本の棚
です。バーチャルですが......



・伊坂幸太郎    「死神の精度」      (文藝春秋)  2回ぶり4度目の候補 

・荻原浩        「あの日にドライブ」   (光文社)   初候補 

・恩田陸        「蒲公英草紙」      (集英社)   2回連続2度目の候補 

・恒川光太郎    「夜 市」        (角川書店)  初候補 

・東野圭吾      「容疑者Xの献身」    (文藝春秋)  3回ぶり6度目の候補 

・姫野カオルコ  「ハルカ・エイティ」   (文藝春秋)  4回ぶり3度目の候補



● 早かった候補作の発表

例年、候補作の発表時期は最終選考会の約1週間前である。ところが今回は1月17日の
最終選考会より約2週間早い1月4日。正月気分が抜けきらぬままの候補作発表で
鼻息を荒くしたが、一方で選考会まで間が開き過ぎると盛り上がるタイミングを失って
しまう。takam16としてはすっかり頭がクールダウンしてしまった。

この狙いは出版界の事情もあろう。候補作にノミネートされることで、当該作品がどんな
顔ぶれかを我々読み手側が確認することができる。実際、書店でのこれらの問い合わせも
多く寄せられると聞いた。
時間を与えることで自分のように調子が狂う場合もあるが、結果的にはなにが受賞するか
という読み手側での会話のネタとして一役を担ったといえるだろう。

問題は、この時間の空白が果たして業界の売上にしっかりと反映されるかどうかである。
書店の問題は流通だ。本来であれば書店側は候補作情報を事前に入手してひそかに在庫を揃え、
発表日の1月4日に候補作品を陳列したいのだ。ところが候補作の名目上の発表は1月4日
(1月5日新聞紙上で掲載)にもかかわらず、
実際には12月の中旬までに候補者は決定している。
業界では売上促進のためにもそれらの情報が知れ渡っている必要があってもいいのだが、
そうすると情報漏えいのリスクも考慮せねばならない。
よって秘密裏に事は進められるのが現状だ。

候補作情報を事前に知るためにはなんらかの仕事上の人間関係を構築せねばならないだろう。
しかし、1月5日に書店をいくつか巡ったが、一部の大手書店を除くほとんどは6作品の在庫は
まったくないか、あるとしても微々たるものだった。
出版社と書店との連携はあいかわらずさっぱりであり、それに重ねて書籍の売上が毎年下降して
いるのだからまったくお話にならない。さらには年間1000店もの閉店・廃業.....

結局多くの書店側は候補作発表後に出版社に注文するという方法になるものの、
流通に非常に時間がかかる業界なために注文品が入荷した頃にはすでに直木賞発表という有様だ。
そんなムダは嫌だというわけで、書店は直木賞候補作の話題の蚊帳の外に置かれてしまう。
ならば直木賞など無視して別の本を売ればいいのだが、なかなかその手段を講ずることができない
というジレンマが見え隠れする。そのような書店がそこら中に存在する。
これも金太郎飴書店の悪例の1つだ。
売れるものを売るよりも、売りたいものを売れ。前者の書店はだいたいがつまらない。



● 読み手は買わずに借りにいく

たとえ2週間の期間を設けたとしても、読み手が「買い」に走るかといえばそうではない。
いまは読み手が「借り」に走る時代で、それは小説にやたらと集中する。
例えば東野圭吾氏の「容疑者Xの献身」について
発表前の昨年12月27日と発表後の1月12日での予約数の変化を調べたところ

横浜市立図書館   928冊  → 1027冊
さいたま市図書館  543冊  →  618冊

これほどの予約があるにもかかわらずさらに予約が入っている。
1027番目の予約者はいったい何年後に読むことができるのかに興味は及ぶが、
直木賞以前に小説は買うまでもないという読み手の姿勢がはっきりわかる。
姫野カオルコ氏の「ハルカ・エイティ」の場合は

横浜市立図書館   119冊  → 127冊
さいたま市図書館   46冊  →  58冊

東野氏の作品と比べて認知度は低いが、これもけっこうな予約数だ。
数字を見て予約をあきらめた方が多いと見るが、
ちまたでささやかれている文学や物語の衰退を庶民の眼でみたわかりやすい
数字のひとつが図書館の予約件数チェックである。
受賞作が実際に決まった時の予約数の変化に注目だ。


● 自分の予想と照らし合わせれば.....

文藝春秋の3作品のうち、
伊坂幸太郎「死神の精度」、姫野カオルコ「ハルカ・エイティ」は予想通りであった。
文藝春秋は3作品が入ると豪語していたが、その3つめは東野圭吾「容疑者Xの献身」。
事前の予想では選考委員の時代小説への憂えに応える形で、城野隆「一枚摺屋」を
3番手に加え、容疑者Xは補欠の1番手とした。彼が過去の作品において選考委員に
作品の欠点を指摘され、嫌われたからだ。強く押せなかったのはその点であった。

他出版社からでは
集英社より恩田陸「蒲公英草紙」は予想どおりだったが、荻原浩が光文社から選出される
というのはまったくの予想外であった。光文社からの候補作品など近年お目にかかって
いないからだ。
てっきり集英社より「さよならバースディ」で選ばれると決め付けていた。
さらになによりもまったく眼中になかったのが、恒川光太郎 「夜市」だ。
takam16、不覚にもノーマークだった。角川書店は近年連続して直木賞候補作を
出しており、いろいろ予想したのだが、一押しの作品が見当たらなかった。
特に日本ホラー小説大賞作の恒川光太郎 「夜市」、これは彼のデビュー作。
デビュー作が選ばれる例に前回の三崎亜記「となり町戦争」があったが、それを考慮に
入れても本書は消した。他のブログでは彼の選出予想の記事も見られたが、
高をくくっていた。完全にしくじってしまったとしかいいようがない。
初選出作品を予想・推理するにはまだまだ修行が足りないらしい。
また、新潮社からの受賞作品がてっきりあると考えていた。
文春のライバルとは言われながらも、ノミネートにはよく挙がる出版社だからだ。
残念である。



● 読みもしないのにとは言うけれど

「読みもしないのに直木賞....」などと強気に出ているが、実のところ、目を通している。
ちゃっかり読んでいることは告白しておこう。
あらかじめ選出作予想にあわせて、本を買い、あるいは借りていた。
先にも述べたが選ばれた6作品中読んでいないのは恒川光太郎 「夜市」だけだ。
なぜなら先に言ったようにノーマークだったからだ。


● では推理に入る

確かに他の5作品は読んだ。うち2作品は記事のUPをした。
しかし、この直木賞の推理に内容や構成や笑いや涙などの感情移入は不要である。
あくまでも確率や傾向と対策が優先され、中身の話は二の次としよう。


直木賞は文藝春秋社がバックにつく賞レースだ。
そして、自社の売上に直結させることが彼らにとってのノルマである。
6作品中3作品が文藝春秋社からの選出だ。
特にここ数年、文藝春秋社選出枠の多さは目立ち、現在4回連続3作品が選ばれている。
そして実際に受賞するのも文藝春秋社が現在3回連続受賞している。

過去10年で文芸春秋社が受賞した確率 50%
過去 5年で文芸春秋社が受賞した確率 80%

近年、自社の贔屓がヒドすぎる。かつてはもっと他社にも開放的だった。
文藝春秋社の売上貢献とはいえ、あまりにも顕著すぎる数字は逆にいろんな疑いを持って
しまう。例えば企業の業績の問題とか.....


恒川光太郎  「夜市」 (角川書店)

すこぶる評判のよい作品だと聞く。ただし、デビュー作でいきなりの直木賞候補だ。
123回の金城一紀「GO」も確かにデビュー同然だ。ただし、著者は別の名前で
商業出版していた経験を持つ。
また、角川書店で初選出かついきなりの直木賞ということになると、
97回の山田詠美「ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー」まで遡らねばならず、
著書は決してデビュー作ではない。
唯一気になるのは、「夜市」に賞を与えた日本ホラー小説大賞
の選考委員に直木賞選考委員の林真理子がいることだ。
ちなみに彼女はこの作品を絶賛している。
他の選考委員に吹き込む可能性もなきにしもあらずだが、林真理子に他の聞き分けのない
選考委員を説得する存在感はまだ示すことはできないだろう。
ただし、本書のレベルは相当高いと読んだ人の多くが言っていることは確かだ。
しかし今回は見送り。次回作に期待したい。


荻原浩    「あの日にドライブ」   (光文社)

著者は直前の山本周五郎賞を「明日への記憶」で受賞した。山本賞と直木賞はライバル
関係にある賞であり、両賞の候補者の多くはカブっている。
今回、山本賞というチャンピョンベルトを巻いて、別作品で直木賞候補となった著者だが、
この場合、あるパターンが存在する。

山本賞を受賞した作家が直木賞候補にはじめて選ばれた場合、1度目は見送るパターンだ。

直木賞側としては歴史・伝統の面において山本賞を格下扱いにしたい。
本来は同レベルの賞であるにもかかわらずだ。よって、一度は直木賞は著者に試練
を与えるだろう。
今回は見送りだ。


伊坂幸太郎    「死神の精度」    (文藝春秋)

文藝春秋の1番手、近年の流れから今回の直木賞に最も近い作家の1人である著者。
4度目にして初の文藝春秋社からのノミネートだ。獲るべくして選ばれたという予想屋もいる。
しかし、ここは少し慎重になろう。
文藝春秋社の理想は、あくまでも初選出が文藝春秋社であるならば、喜んで自社から
直木賞作家を出そうという姿勢である。
つまり、初選出の出版社がその後の直木賞受賞出版社を左右するのだ。
伊坂幸太郎の初選出出版社といえば、新潮社の「重力ピエロ」だ。
最近20年間で新潮社初選出作家の文藝春秋作品受賞例は111回の海老沢泰久氏のみである。
しかも彼の場合、直前の山本賞で当該作品が受賞を逃したことに対する怒りの受賞だ。


* 新潮社主催の山本賞にノミネートされた海老沢泰久の「帰郷」は文藝春秋社の作品だった。
 それはおかしいと文藝春秋主催の直木賞は自社作品の「帰郷」を直木賞にした.....
 と予想している


また、直木賞はなぜか作家の作家歴のようなものにこだわる傾向がある。
他の2人、東野圭吾、姫野カオルコと比べると彼の歴史はまだ浅い。
以上より、今回は見送り。



東野圭吾      「容疑者Xの献身」    (文藝春秋)

ならばこちらの文藝春秋作品はどうだろう。
正直小説分野においては久々に現在店頭でこれでもかとばかり山積みされ、
そして売れている。別の賞や雑誌の投票などでも1位に輝いている。
さらに著者の初選出は文藝春秋社だ。ここが伊坂幸太郎と比べて有利な点だ。
そして作家の実績を案外考慮に入れる直木賞の傾向を考えれば、
ここは無難に彼が受賞!! 
といきたいところだが、少し思案したい。

過去20年間に限定すると、22%、
過去10年間では     0%
過去5年間でも      0%

この数字は文藝春秋社から2度候補作になったにもかかわらず受賞できなかった
作家の直木賞受賞率だ。

古くは商業出版前の雑誌連載の段階で直木賞候補となることが多々あった。
それも含めての文藝春秋作品ということで何度も落ち続けてようやく受賞するという
例はしばしばあったが、時代はもう変わった。
雑誌連載作品が候補作になることは限りなくゼロに近い。
よって、近年に絞って数字をチェックすると、東野氏はここで受賞すると
いままで調査したデータにズレが生まれてしまう。
しかも以前よりこの件についてはさんざんブログでほざいてきた。
なのに東野氏は実績があって受賞にふさわしい....
などいえるわけがないじゃないか。
と少し感情が入ってしまったtakam16であるが、
ここはデータにより、今回は見送る。



姫野カオルコ  「ハルカ・エイティ」   (文藝春秋)

文藝春秋社からの選出で最も条件が揃っているのは本作品の著者である。

117回 文藝春秋 「受難」        落選
130回 角川書店 「ツ・イ・ラ・ク」   落選
134回 文藝春秋 「ハルカ・エイティ」  ?

だれでもいつかは2度目の文藝春秋作品候補作にノミネートされるチャンスが
訪れる。前出の東野圭吾も以下のとおりだ。

120回 文藝春秋 「秘密」  落選
122回 集英社  「白夜行」 落選
125回 文藝春秋 「片想い」 落選

125回の2度目の文春選出はチャンスだった。しかし、この時、同じパターンの
作家がもうひとりいた。

藤田宜永
114回 文藝春秋 「巴里からの遺言」 落選
117回 講談社  「樹下の想い」   落選
125回 文藝春秋 「愛の領分」    受賞


馳星周が122回に同じパターンで受賞を逃した時、受賞したのは

なかにし礼
119回 文藝春秋 「兄弟」      落選
122回 文藝春秋 「長崎ぶらぶら節」 受賞

黒川博行が121回に同じパターンで受賞を逃した時、受賞したのは
 佐藤賢一  「王妃の離婚」 集英社
 桐野夏生  「柔らかな頬」 講談社


これは推理だ。黒川氏のように姫野氏が受賞を逃す場合もあるかもしれない。
しかし、逃した場合には他の出版社からの受賞を考慮する必要がある。
しかしながら今回、他の出版社から選ばれる要素を見出すに適当なデータが見当たらない。




恩田陸        「蒲公英草紙」      (集英社)

連続入選に好感が持てそうだが、連続入選が受賞に直結する例はいずれかに
文藝春秋社作品が含まれている場合であり、また恩田氏の候補歴は

133回 角川書店 「ユージニア」
134回 集英社  「蒲公英草紙」

であるが、初選出が角川書店の場合、のちの受賞率はゼロである。
データはいつかは更新され、例外が生まれるものだが、
姫野カオルコの揃いすぎるデータの前では彼女の描く不思議な世界も無力といわざる
をえない。
ただし、実は今回の直木賞は2作受賞の予感がする。
あまりにも文藝春秋に賞を与えすぎており、少し歯止めをかける必要があろう。
よって、他出版社からという選択では
最も受賞に近いのをあえて探すならば消去法により、本作品ではないだろうか。
確かに角川書店からの初入選作家に直木賞は冷たい。しかし一方で
連続入選において、いずれも他出版社の場合でも30%は受賞の確率があるのだ。


このようなデータを調べてなければ、直木賞作家は東野圭吾で決まりと自分は
言っているだろう。また、感情に流されて彼に獲らせたいと思うだろう。
しかし、彼の作品はただいま売れ行き絶好調だ。今更直木賞をあげたところで
文藝春秋の本作品の売上の伸びしろはたかが知れている。
それにひきかえ、姫野カオルコの作品は決して売れ行きが順調というわけではない。
また、値段を見れば1995円もする。文藝春秋3作品の中でも他出版社を混ぜても
値段は一番高い。
また、姫野カオルコの次回作がどうやら文藝春秋社から出るとの話もある。
ならば、次作のオビには

「直木賞受賞後第1作!!」

と思考停止もはなはだしい文句を付けることができるのだ。
これを見逃す文藝春秋社でもなかろう。




● 結論

よって、134回直木賞受賞作品は

姫野カオルコ 「ハルカ・エイティ」 文藝春秋 → データによる裏づけ

と推理する。無冠の女王は直木賞を本書の主人公となった亡き伯母に捧げるであろう。


また、2作品が選出されるのであれば、

姫野カオルコ 「ハルカ・エイティ」 文藝春秋  → データによる裏づけ
恩田陸    「蒲公英草紙」    集英社   → 他出版社受賞への個人的切望で中でも
                           受賞に近いデータ

姫野 カオルコ
ハルカ・エイティ
恩田 陸
蒲公英草紙―常野物語
● 最後に 直木賞は大衆文学作品に与えられる賞である。よって話が飛躍しすぎたり、一部の固定層 にしか支持されない作品はあまり好ましくないと判断する傾向がある。 さらには ・上下巻モノ ・主人公が1人称 ・理由の説明がつかない殺人 は選考委員の嫌う傾向がある。 直木賞選考委員は生涯現役だ。 以前にも述べたが、選考委員は期間限定の入れ替え制にした方が好ましい。 いつまでも同じ選考委員では作品・作家の好き嫌いが出てしまい、 受賞にふさわしい作家がいつまでたっても選ばれないという理不尽を被る。 それが残念である。 最後まで長い文章にお付き合いくださった読者の皆様に感謝します。 現在多忙のため、記事は予約更新しております。 よって返事はあとになってしまいますことをご了承下さい。 また、予想が外れることがあったとしても、それはtakam16のぼやき 程度に解釈してください。 ありがとうございました。
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