こころの健康について考える

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 科学がいくら進歩し生活が豊かになっても、肝心な人間自身はそう急激に変化することはできません。環境や栄養により人間のハードである肉体は多少丈夫そうになっても、むしろこころの健康度は低下しているように思えてなりません。家族の伝統的な形態の変化(核家族化)や終身雇用制からの脱却という会社での雇用環境の劇的な変化に代表されるような古き良き人間関係の喪失なども、人間個人の精神的支柱を揺るがす一因となっているものと思われます。


 うつ病に代表されるように、精神状態の異常が体のいろいろな症状となることは周知の事実であります。また健全な精神は健全な肉体に宿るといったフレーズで代表されるように、肉体的な健康状態を維持することは基本的に重要なことと認知されています。


 とはいっても精神状態というものは、その個人のその時における状況と、その周囲の状況という刻々と変化するものに常に影響を受けることになるので、本当にとらえどころがなく、個人の意思で制御することは困難です。


 長い時間をかけ、これまでフロイト・小此木啓吾らが著した書物により精神分析論について学んできました。特に小此木圭吾著作の本からは、現代社会におけるこころのあり方についても多く知ることができました。あくまでも独学なので、当然浅い認識に終わっていることも多々あろうかと思われるのですが、自分自身の日々の暮らしにおいても、また臨床の場においても極めて有益であることは疑う余地のないところです。


 妻は大学で心理学を専攻していました。その妻の卒論指導担当教授が発達心理についての大家の先生であったこともあり、私も出生から大人になるまでのこころの発達について興味を持つようになりました。この心理学では実験的裏付けもとりながら、現代の子供達のこころの問題についても知ることができます。しかし精神分析との関連性という観点からみて興味深かったことは、子どもが家族のなかで成長する時どのような影響を受けるかを知ることが、その人のこころの健康の状態を診断する際にかなり大きな判断材料になるということでした。言い換えると家族学を知ることが、精神状態の分析・病的な状態からの回復の一助に成り得るということです。


 個人のこころの中に生じた矛盾・葛藤・抑圧という問題をどう解決するかは大変な困難・努力が必要であると思います。これらの問題を言語化(無意識から意識下の存在にする)をして解決可能な姿にする作業は大変なことですが、時間をかければ必ず可能なことです。身体的な健康状態の向上にもつながることです。この観点から、これら精神分析理論・発達心理・家族論といった学問がさらに発展することを願って止みません。

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新型インフルエンザ

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 あれほど日本中で大騒ぎをしていた新型インフルエンザも、最近はあまりテレビやマスコミも以前ほどには取り上げていないようですし、街でマスクをする人も見かけなくなりました。もちろんいつでも感染のリスクはあるのですけど。あまり毒性が強くないとの報道もなされているせいか、一般の人々の関心も弱まっているようにも見えます。


 しかしこれまでの報道でなされている、今回の新型インフルエンザに感染した国内の患者というのは、海外旅行者や高校生など、体力もあり、活動的であるがゆえにインフルエンザにかかってしまったというのが大多数です。世界屈指の高齢化社会である日本で本格的に流行したらと思うと本当に怖いものがあります。老人ホーム・老人保健施設・デイサービスなど流行したらそのほとんどが機能不全を起こしてしまうのではないでしょうか。


 さらに7月に入り、イギリスで現役の病院勤務の医師と6歳の女の子が新型インフルエンザで死亡するというニュースが飛び込んできました。医師がこの女の子の主治医であったかどうかなど、詳細なことは(いろいろ海外のメディアも調べましたが)不明です。感染者が増えれば当然こうした健常者での死亡例の報告も増えることと思います。我々医療従事者もより緊張感をもって対応する自覚が高まります。


 新型インフルエンザは、今年の秋冬には間違いなく流行するはずです。しかし、季節性と新型インフルエンザウイルスワクチンに対する供給体制もまだ明らかに決まっていないようです。また、今回の新型インフルエンザの国内発生で分かったことですが、流行時にはタミフルなどの薬の出荷制限がかかり、必要な医療機関に十分な薬の確保ができずに、十分な治療ができない事例もあったようです。流行時に十分な医療資源が対応できるかが、大変心配なことなのです。


 あれこれ考えても尽きることはありません。ただ今年は例年以上に準備しておくことが多いことだけは確かなようです。


 

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川崎病

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 先日再び順天堂大学小児科・思春期科が主催する勉強会に参加する機会がありました。今回のテーマは「小児炎症性疾患の治療戦略」というものです。「炎症性疾患」の内容として、「気管支喘息」や「川崎病」「CINCA症候群」が主に取り上げられました。


 これらの病気にはウイルス感染など、何らかの理由により、気管支や血管などに炎症が起きます。この炎症を抑えることが治療の基本スタンスです。最近は遺伝子やミクロレベルな知見が深まり、これらの病気の詳細なことが分かってきていて、治療法にも大きな進歩がみられます。


 川崎病は高熱や手足の皮膚が赤くなったり、皮膚がはがれたりする病気です。本態は全身の血管に炎症が起きるというものです。残念なことに、この病気の原因はまだ分かっていません。


 ところで、自分が自分の体を攻撃して病気を起こすものを自己免疫疾患といいますが、関節リウマチはその自己免疫疾患を代表する病気です。川崎病にはこの自己免疫疾患とよく似たところがあり、関節リウマチなどに使用する薬が効く事例もあることが分かってきています。川崎病では血管が攻撃されることにより、心臓の冠状動脈に動脈瘤ができることがあります。このため心筋梗塞となりやすい状態となるため、アスピリン製剤という血液が固まりにくくなる薬を飲まなければならないことがあるのです。

 

 こうした難病に対して、最近新薬が続々と誕生しています。気管支喘息でも簡単に肩に注射するだけで治るという薬もでました。ただ大きな問題は費用がとても高いということです。しかも複数回注射をする必要があるわけですから、負担はかなりなものになります。月に10万円以上かかることもあるのです。気管支喘息は大変苦しい病気なわけですから、もう少し費用負担が少ない価格設定にするべく企業努力があってもよいのではないかと思います。


 ともあれ10年前ならば有効な治療法もなかった難病も、症例によっては劇的に改善するようになっていて、医学の進歩を目の当たりにします。今は遺伝子治療なども行われる時代です。


それでも、喜ばしさよりというよりはむしろ何か怖さのような感覚がするのは私だけでしょうか。最近の脳死の問題が議論されるのも、臓器移植が日常的に行われるようになってからのことです。人間の倫理的な判断まで医療が介入することには少なからずの違和感を覚えるのです。法律だけではなく、何らかの秩序が必要となると思います。

 



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