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『日本の亡国を防ぐために①』三橋貴明 AJER2015.9.15(5)

https://youtu.be/oN59AffMGQE

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 徳間書店から刊行した「 超・技術革命で世界最強となる日本 」では、企業の利益の「分配」について、四つに分けて整理しました。

配当金・自社株買い:株主への分配。ストックオプション制度がある場合は、経営者や一部の社員への分配にもなる
人件費:従業員への分配
税金:地域社会・国家への分配
投資:将来への分配


 企業がビジネスで稼いだ利益は、主に「従業員」「地域社会・国家」「将来」「株主」へと分配されるわけます(それでも残った利益は、企業の内部留保として預金されることになります)。利益あるいは「おカネ」という尺度が中心となるグローバリズムの世界では、利益が明らかに「株主」へと偏った形で分配されてしまい、その分、従業員、地域・国家、そして「将来」が損をする羽目になるわけです。


 具体的に書いておくと、まずは労働分配率が低下します。さらに、各種の法人税減税措置により、地域・国家に分配される所得(=利益)が減ることになります。そして、投資、特に「技術開発投資」が疎かになることで、将来の国民が迷惑を被ることになるのです。


 特に問題なのが「技術への投資」です。何しろ、技術開発投資は生産性向上をもたらす四投資(設備投資、人材投資、公共投資、技術開発投資)の中で、最もリスクが高く、生産性向上効果が出るまで長期化しやすい投資になります。グローバル株主中心主義が浸透すると、将来的に「果実」を得ることができない可能性がある技術開発に、経営者はおカネを投じにくくなっていきます。


 とはいえ、何らかの技術は必要ですが、株主と技術の必要性に挟まれた経営者は、
そんなもの(技術)は、よそから買ってくればいい
 に走りがちです。


 結果的に、その企業の競争力、つまりはモノやサービスを生産する力は没落していくことになります。理由は、真の意味における「技術」とは、蓄積だからです。


 ライセンスを買うことはできても、技術開発の蓄積を買うことはできません。とはいえ、短期利益を最大化することを求められた企業は、「将来への利益の分配」である技術開発投資を疎かにしがちになります。


 あるいは、この企業のように不正に手を染めることになるわけです。


罰金2兆円超、ブランド価値も失墜…排ガス規制逃れが発覚したVWが支払う高い代償
http://www.sankei.com/world/news/151003/wor1510030005-n1.html
 米環境保護局(EPA)は18日、独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)が排ガス規制逃れのために一部ディーゼルエンジン車に違法ソフトウエアを搭載していたと告発した。EPAはVWが意図的に規制当局を欺こうとしていたとみており、2兆円以上の罰金を科される可能性も。VWの最高経営責任者(CEO)、マルティン・ウィンターコルン氏(68)は経営責任を問われて辞任に追い込まれた。今回のEPAの告発は米国の非営利団体(NPO)がVWの環境性能の高さを証明しようとして始めた調査がきっかけだ。売り物にしてきた「クリーン」なブランドイメージを裏切ったVWは高い代償を支払う形になりそうだ。(後略)』


 グローバル株主資本主義は、「数値目標」が大好きです。経営者に数値目標を立てさせ、達成させることで株価を引き上げるわけです。


 すでに辞任したVWの元CEOマルティン・ヴィンターコーンは、就任した07年時点で「18年までに販売台数を1000万台にする」という数値目標を掲げました。その後のVWは高級ブランドを次々に買収し、中国への投資も拡大。VW車の販売台数の三分の一が中国という状況になっています。


 実際、わたくしが中国に赴いた際も、見かけるのはVW車(もしくはVW傘下のアウディ)が実に多かったです。中国市場の爆発的な拡大を受け、VWは2014年時点で目標の1000万台を達成しました。


 ところが、VWの営業利益率はトヨタの半分程度に過ぎません。そして、VWはハイブリッドの技術で、トヨタなどの日本勢に大きく立ち遅れていました


 結果的に、VWはアメリカ市場に食い込むことができなかったわけですが、起死回生の策として大々的に「クリーンディーゼル」で売り込みをかけます。とはいえ、技術的にディーゼル車でアメリカの排ガス規制をクリアするのは難しく(クリアすると走行性能が落ちる)、今回の不正に手を染めたわけです。短期的な目標を達成するあまり、技術開発投資に長期的な資金を投じるのではなく、不正ソフトウェアという最悪の選択をしたのでござます。


 一つ、個人的に気になるのは、中国の大気汚染とVW車の関係です。中国の大気汚染は、自動車の排ガス以外にも石炭火力発電所など、複数の要因が絡み合っています。とはいえ、9月3日に北京市での自動車の通行を大々的に規制した結果、いわゆる「パレード・ブルー」が実現したのは事実なのです。


 この辺りの話、つまりVW車と各国の大気汚染の関係は、今後、調査されていくでしょうから、断定はしませんが。


 VWは今回の不正を受け、兆円単位の制裁金・賠償金を支払わされることになります。ますます、技術開発におカネを投じることができなくなるわけです。


 さて、VWに投資していたグローバル株主たちはどうするのでしょうか。もちろん、「他の企業におカネを移す」だけの話です。別に、彼らはVWやドイツと心中する気など、サラサラないでしょう。


 別に、数値目標を否定する気はありません。が、今回のVWの問題は、「短期的な利益を追求するあまり、将来を壊してしまった」典型的な事例として、日本国民は学ぶべきだと思うのです。


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