何事もなく過ぎた1週間。
時間が繰り返される事もない、シャダムの復活もないことから、ダイレンジャーは解散することになった。
枯れ葉が舞う、銀杏通りの中を、亮達はかけていく。
本当ならば、ずっと走っていたい。
できれば、みんなでずっと一緒に…………。
そう思いながらも、5人は通りの真ん中で止まった。
前に進むために、終わらせなきゃいけないのだ。
座り込む面々。
「今度こそ、本当に解散だな…………みんな」
無理矢理ではない。
ダイレンジャーの存在理由は、もうないのだ。
平和の代償に、戦いを棄てる。
そう、ダイレンジャーとしての名も、力も、絆も。
懐かしく、そして新しい明日のために。
「ああ。これで全員元の生活に戻れるってわけだ」
将児が切り出した。
「亮は餃子、大五がペットショップ。知が美容師、リンは大学。そして俺は…………」
拳を振るう将児。
「世界チャンピオンだろ?」
まだなってもないが、それを目指すといった生活に戻る。
こうして、夢を語る事もなくなる。
「何だか、寂しいアルね」
リンは落ちてる銀杏を弄りながら、そして握る。
この時が、惜しい。
今までじゃなくなることが、寂しい。
「大丈夫ですよ。みんな、近くにいるんですから。また会えますよ」
知が将児の肩を寄せる。
そう、別に時空の彼方やら別世界にいこうというわけじゃない。
この空の下に、みんないるのだから。
「色々あったな……」
出会い、宿命、悲恋、友情、決闘、別れ…………。
亮達は語りあった。
恐らく数分しか話してないのに、何時間も話しているみたいだ。
「…………もうやめよっか、思い出話は」
大五が途切れさせた。
いつまでも、語っていたい。
でも、それはダラダラと続くだけでしかない。
亮が、全員が呼応するように立ち上がる。
明日のための、決別。
亮を一番下に、全員の手が重ねあう。




「大五」




亮が、大五の顔を見る。





「将児」



将児の顔を見る。




「知」





知の顔を見る。





「リン」






リンの顔を見る。







何度も見たはずの顔が、こんなにも初々しく感じる。
「みんな……お別れだ………」
亮がそう言うと、知が離れていく。
無言で。
もはや、そこに言葉はいらない。
大五が、リンが、将児が離れていく。
それぞれの方向へ、それぞれの脚で。
銀杏の中に残った亮も、やがてそこを後にする。
しばらく歩き、ふと脇を見る。
すると、そこには嘉挧がいた。
「道士嘉挧……」
思わず駆け出した。
しかし、いるわけもない。
そうか、来てくれたんだ。
亮はそう思いながら、一人歩いていく。
明日は、朝から仕込みが早い。
夢のため、亮は歩いた。
冷たい空気と、穏やかな陽射し。
平和が戻っていたーーーーー










ーーーーー











瞬く間に、ダイレンジャーの解散から1週間が経った。
リンに叩き起こされたコウは、慌てて学校に向かっていく。
「やべ…………遅刻しちまう」
「久々にやらかしたなー」
「うるせぇ」
白虎真剣の小言を打ち消すように、キバーボーの出力を上げた。
校門が見えた。
コウはキバーボーごと飛び上がり、閉じていく校門を飛び越えた。
すぐに上履きに履き替え、教室へと飛び込んだのだった。
「セーフ…………」





″ポンッ!″





「アウトだ」
出席簿が頭に乗っている。
気まずそうな表情で、先生の方へ目を移すコウ。
「すみません…………」






昼休み、コウはぼんやりと空を眺めている。
それを由貴は気にしていた。
「ねえ、コウ君。どうして、空ばっかりみてるの?」
「…………いや、何かさ。ここ最近、ずっと考えてたんだ」
もしや、昨日はそれで寝るのが遅くなったというのか。
「大方、自分以外がダイレンジャーでなくなった事を考えていたのでしょ」
香澄がやってくる。
図星、というようにニヤッとする。
「まあ…………何だか、今までの事が本当だったのかなと思ってさ」
コウが思ったことは、誰よりも由貴が思っていた。
憧れていた力、人間離れしていく躰、戦いの中で培われた精神。
試してはみたが、やはり気力を扱うことも、転身もできない。
アギトの力は完全に失われた。
思えば、あの力を持っていたのは半年だけ。
この先の長い人生の、ほんの一瞬でしかない。
今は不思議でも、やがて馴れていくのだろう。
平和と、普通の人間であることに。
ただ、戻っただけなのだと。
「ダイレンジャーじゃなくなっても、あたしはコウ君のそばにいるよ」
思わず口にした。
コウは、神の力を手にした。
理解できるのも、自分達だけだった。
もはや、自分達と彼は違う。
それでも、由貴はコウのそばにいたいと思っている。
彼の支えになりたい。
「ありがとう、由貴ちゃん」
「俺達もな」
健一達もくる。
そうだ。
自分には、友達がいる。
戦いの中でだけじゃない。
本当の友達がいる。
一人じゃない。
だから、自分は人でいることができる。
「みんな、ありがとう」