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2009-11-18 05:35:16 posted by tainyou

『プレシャス!』アメリカ貧困層の子供への精神的・肉体的・性的虐待等、多くの問題が浮き彫りになる

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映画『プレシャス!(原題:PRECIOUS: BASED ON THE NOVEL 'PUSH' BY SAPPHIRE)』の主人公クレアリース"プレシャス"ジョーンズ(ガボリー・シディベ)は16歳の女の子。彼女のミドルネームが映画のタイトルになっているが、それは日本語で”いとしい”や”貴い”という意味を持つ。親の子に対する愛情が名前から分かる様な特別な名前だ。しかし、彼女の生きる現実は素敵な名前とは裏腹に、彼女の事を虫けらの様に扱う残酷なものだった。

物語の舞台は1987年のニューヨーク・ハーレム地区。読み書きが出来ない肥満のプレシャスは失踪してしまった父親カールに2度も妊娠させられ、失業中の母メアリー(モニーク)には身体的にも精神的にも虐待を受けるという痛みと孤独の中にいた。彼女の通う学校の校長(ニーラ・ゴードン)はプレシャスの2度目の妊娠を知り、彼女をオルタナティヴスクール(フリースクール)に通わせる。気の進まないままプレシャスだが、彼女はそこでレイン先生(ポーラ・パットン)という若い女性教師に出会い、読み書きを学び、閉ざされた世界に少しずつ希望を見出してゆく…。

オプラ・ウィンフリーとタイラー・ペリーという大物2人を製作総指揮に迎えた本作の原作は1996年に出版された女流作家で詩人のサファイア著「プッシュ」。ハーレムで生まれ育った監督のリー・ダニエルズは自身の過去の体験が原作とあまりに酷似している事に衝撃を受け、映画化が難しいとされてきた”意識の流れ”という文体で書かれたその小説の映像化に、ジェフリー・フレッチャーが脚色した見事なまでの脚本を基に挑んだ。

リー・ダニエルズは、特に日本では名はあまり知られていないが、ハル・ベリー主演の『チョコレート』 、子供に性的いたずらをした罪で刑務所に入っていた男をケヴィン・ベーコンが演じた『THE WOODSMAN』と、問題作を世に送り出している意欲的なインディペンデント系映画のプロデューサーであり、彼はヘレン・ミレンとキューバ・グッティングJr.を主演に迎えた『サイレンサー』で2005年に映画監督デビューを果たした。前作同様、今回の監督作でも幻想的な映像を交えながら物語を語るスタイルが貫かれている。

監督が感動した程リアルな物語に幻想的な映像が登場するとはどういう事か。主人公プレシャスは大きな体を持っているため(おそらく130キロ以上)、実は虐待を続ける母にも抵抗するのは可能。しかし、常にされるがままなのは、彼女は人を傷つける事が嫌いな為。だから彼女は父親に犯されている時も逃げ出したい時も頭の中で想像し、八方塞がりの状況に出口を作り出そうとする。リー・ダニエルズはそんな彼女のファンタジーの世界を映像として見せる。「現実は現実じゃない、頭の中にほんとうのわたしがいる」。悲惨な現実だから彼女思い描く華々しい世界が逆に切なく見えてしまう。

ダニエルズ氏がプレシャス役をオファーしたガボリー・シディベは実は演技経験ゼロの全くの素人。ところが、彼女の自然な演技が”実際にいそう”という説得力あるキャラクターを作り上げている。またどんなシーンであっても、シディベの知性とユーモア溢れる性格が滲み出ているのが印象的だ。それから本作には2人のポップスターが思わぬ形で共演しており、レニー・クラヴィッツはトレードマークであるサングラスを外し看護士ジョンに扮し、マライア・キャリーはプレシャスを親身に気遣うソーシャルワーカー・ワイズ役にほぼノーメイクで挑んだ。特に『グリッター きらめきの向こうに』でラジー賞受賞経験のあるマライア・キャリーは、その汚名返上の「女優マライア・キャリー」と謳える程の素晴らしい演技を披露している。

主にミュージシャンの役者としての才能を引き出すリー・ダニエルズ監督だが、中でも『サイレンサー』でジョセフ・ゴードン=レヴィットの愛人役でも出演していたコメディアンのモニークが本作で圧倒的な存在感を見せつけ映画を支配する。彼女扮するメアリーは悲しい女。実の娘を犯し続け失踪した夫への行き場の無い怒りは我が子へと向けられる。この難役は長年の友人であるダニエルズ監督とモニークの間に確かな信頼関係があったからこそやり遂げられたもの。実際彼女はプレシャスの第一子を放り投げるシーンで躊躇したという。彼女が登場するシーンでは観る側に次に何かとんでもない事が起こるのではないかという気持ちの悪いヒヤヒヤ感を抱かせる。彼女のこの演技は本年度の賞レースでの助演女優賞ノミネートは確実だろう。モニークは本作で女優として大きな跳躍を遂げた。

意地悪であざとい性格、そしてプレシャスに思いのままに罵声を浴びせるメアリー像はショック以外何ものでもない。娘に不快感しか与えられない彼女はまるで悪魔の乗り移ったケダモノ。それでも彼女はプレシャスの血を分けた母であり、プレシャスがメアリーに対し反抗出来ないのも理解出来てしまうのが歯がゆい。プレシャスを例に見る黒人家庭での子供への虐待(性的虐待を含む)は年々減り続けてはいるが、今も多くの子供たちが虐待を受けているという。概して問題は、白黒はっきり解決されるものではなく、家庭の事情もその中にいるものにしか分からない事がたくさんあるだろう。しかし、家庭というものは守られるべき場所。生活力の無い子供にとってはそこが侵されれば、もうほとんど逃げ場はない。本作の意義、それは人々に虐待されている子供達の存在を認知させる事。彼らの辛い現状を分かち合う事で、彼らの中の闇に一寸の希望の光が差す事が出来たら…。

低所得者の家庭問題やそれに対する政府の政策は1987年当時に比べればある程度改善されたに違いない。しかしそれはまだ十分であるとは言い難い。本作は現在虐待を受けている子供達に対しても、社会全体に対しても多くのメッセージを含んでいる。題材が題材なだけに、悲しい雰囲気の映画かと思われるかもしれないが、監督は主人公に同情する様な映画にはしたくなかったという。そのため、本作は実は多くのユーモアに溢れており、作品を観終わった後は意外にも感情的になる事はないだろう。読み書きを覚え、自分を表現する事を学ぶプレシャスは1人の人間として成長し、彼女自身もきっと悲しみをユーモアに昇華して生きて行くのだろう。まるで彼女の心の歌声が聴こえてくる様なエンディングだ。
2009-11-16 11:07:29 posted by tainyou

『2012』マヤ暦の終わりにヒントを得たとんでもないディザスタームービー!

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ローランド・エメリッヒの新作が出ると聞いたら観ないわけにはいかない。エメリッヒは『インデペンデンス・デイ』『GODZILLA』『デイ・アフター・トゥモロー』等、金のかかったトンデモ映画を作り続けるドイツ人映画監督で、昨年の『紀元前1万年』も事実無根のエピソードを入れ人々を唖然とさせた。特に批評家ウケの良くない彼だけに、一体どれ程ヘンテコリンな内容になっているのかと興味津々で、彼の新作映画『2012』を観たが、これがまたエメリッヒらしさ溢れるというか、ある意味期待を裏切らない強烈なものだったのだ。

2009年にアメリカ人科学者エイドリアン・ヘルムスリー(キウェテル・イジョフォー)がインドの友人サトナム(ジミ・ミストリー)を訪ね、大きな太陽フレアのせいで地球核の熱が急激に高くなっている事を知ってしまうところから物語は始まる。その後ヘルムスリーはワシントンDCに赴き、大統領補佐カール・アンハウザー(オリヴァー・プラット)に事実を報告し、すぐさまアメリカ大統領トーマス・ウィルソン(ダニー・グローヴァー)に会う。2010年にはG8主要国首脳会談が開かれ、地球の終わりについての話合いが設けられ、そこで10億ユーロ払える者だけが避難船に乗る事が出来るという事業の取り決めがなされる。

そして2012年、ロサンゼルスに住む主人公・リムジン運転手として働く売れない作家ジャクソン・カーティス(ジョン・キューザック)は別れた妻ケイト(アマンダ・ピート)と暮らす、息子ノア(リアム・ジェームズ)と娘リリー(モーガン・リリー)を連れてイエローストーン国立公園にキャンプに来ていた。そこで、彼は怪しげな風貌をしたラジオのパーソナリティ・チャーリー(ウディ・ハレルソン)に出会い、地球が滅亡すること、そして政府は密かに限られた人間だけを乗せる巨大船を製造している事を知る。全くチャーリーの話を信じないジャクソンだが、彼がロサンゼルスに戻ると、そこで今まで見た事もない地震が街を襲う…。

マヤ暦が終わる2012年12月21日。それを世界が終わる日と解釈する人も多い。そしてそれをエメリッヒ監督はあらゆる天変地異が地球を襲うのかもと大胆予測をする。しかし、現在起こっている気候変動に関するエピソードを一切語らず、ただ「マヤ人は前からそう言っていた!」とだけ映画の中に含むのはいかがなものか。映画の中には古代マヤの研究者すら出て来ないのだ。それに加え、アメリカ人はやっぱりロシア人が嫌い、アフリカに住むのは最後の手段というアメリカ人の深層心理を入れ込むエメリッヒ氏。この映画はまるでたくさんのアイデアを無理矢理含んだ浅はかな映画という印象を受けずにはいられない。

大地震、大噴火、大津波、とジャクソンと彼の家族(+トム・マッカーシー扮するケイトの恋人ゴードン)は行く先々で、大災難に巻き込まれてしまうが、彼らはいつも命辛々逃げ切れる幸運の持ち主達。彼らが遭遇する災難のCG映像は嘘だと分かってしまうが、本作の見所の1つで、冷や汗もののシーンが満載。それでいて、こんな映画にちょっとしたお涙頂戴シーンを入れつつ観客の感動を煽ろうするエメリッヒ監督のセンスの悪さが光る。大統領の娘ローラに扮するタンディ・ニュートンが涙ながらに父と話すシーンがあるが、そこも涙するどころか苦笑してしまう。これが今流行の3Dだったら、脚本の醜さを特に気にする事無く、本作を思う存分ディザスタームービーとして楽しむ事が出来たが、それはきっと予算の関係で無理だったのだろう。本作もいつもの様に観客にとってのディザスタームービーになっているのがやっぱりエメリッヒ監督作らしい。
2009-11-13 11:07:59 posted by tainyou

『DISNEY'S クリスマス・キャロル』家族向け?いやいや、これは実はパニック・ホラー映画だ

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『DISNEY'Sクリスマス・キャロル(原題:DISNEY'S A CHRISTMAS CAROL)』は言わずと知れたイギリスの文豪チャールズ・ディケンズの名作を映画化したもの。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『フォレスト・ガンプ』で知られるロバート・ゼメキス監督が贈る本作は、『ポーラー・エクスプレス』以降ゼメキス監督が制作し続けているモーション・キャプチャーCGアニメーション映画第3弾だ。また『ベオウルフ/呪われし勇者』でも好評だった3Dプロジェクションで、クリスマス・シーズンに驚きと感動を届ける。

本作は、金に貪欲で町のみんなに嫌われている老人スクルージを主人公に、彼が3人の精霊に出会い自分を省みる特別な体験をし、新しい人生を出発させるという物語展開は原作と変わらない。誰でも知っている物語をわざわざ映画館で?と感じてしまうかもしれないが、本作は最新技術で見せる。登場人物や町の景色が芸術的レベルで美しく、モーション・キャプチャーによる登場人物の動きもリアル。またこれだけ効果的に3Dを使った作品は今年一番と言っても過言ではなく(視覚的には『カールじいさんの空飛ぶ家』を軽く上回っている)、映画そのものがアニメーションを超えた遊園地のアトラクションの様で、まさに映像と音の洪水だ。

声の出演者も魅力的で、ジム・キャリーが主人公スクルージ、過去のクリスマスの霊、現在のクリスマスの霊、未来のクリスマスの霊を含む1人7役をこなしており、『マスク』『バットマン・フォーエバー』『グリンチ』等、特異なキャラクターを作り上げる才能のある彼だけに、ほぼジム・キャリーのワンマンショーになっているのが面白い。その他にもゲイリー・オールドマンがジェイコブ・マーレイ、ボブ・クラチットとその息子ティムの3役に挑戦し、コリン・ファースがスクルージの甥フレッドに、ロビン・ライト・ペンがスクルージの初恋の相手ベルに、ボブ・ホプキンスが実業家のフェジウィッグに扮し、物語を豪華に彩る。

スクルージの事業パートナーだったマーレイの亡霊、スクルージが孤独の中で夢を抱いていた少年期と青年期へ連れて行く過去のクリスマスの霊、現在何が起こっているかをスクルージに見せる現在のクリスマスの霊、そして真っ黒な姿をした不気味な未来のクリスマスの霊は時に笑いを誘う事はあるものの、人間の深層心理をするどく抉るキャラクター達。そんな彼らにスクルージはいたぶられ、精神的に追いつめられてしまうため、本作は恐ろしい映像の連続。侮って観ると、こんなに暗くて怖い映画とは予想外という結果に。子供向けではないのは確実だ。予告編を観ると家族向けの映画の様だが、これは実はパニック・ホラー映画なのだ。

しかし、なぜ今『クリスマス・キャロル』なのだろうか。そもそもディケンズはこの物語を不況に苦しむロンドンで書き上げ、1843年に出版した。それから多くの人々に読まれ、今もなお人々に希望を与え続けている。そして150年以上経った現在、人々は世界恐慌に苦しんでいる。また、金銭欲で腐敗した者、自分本位にしか考えられない者、愛とは無縁の者が今も世の中には必ずおり、物語の普遍性と現在の社会状況が見事に重なり合い、結果的に非常にタイムリーな作品となった。暗い闇の中で生きる今のわたしたちに何が出来るだろうか。スクルージの様に自身を省み、今までの生き方を変える。そうする事と、信じる事で、きっとわたしたちはちょっとでも明るい未来を手にする事が出来るのかもしれない。本作にはそんなメッセージが込められている。
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