ほっと、break ~ 小説にトライ!編 -sowa8
クローバーしかしこの男、先ほどからヒマにまかせてずっとその様子をうかがっているが、どこかおかしい。

いや、どこがって訊かれてもよくわからないが、妙な違和感を感じるのだ。

どこかで見たような気もする。


誰だっけ? いやいや、こんな男は知らない―――


少しうつむき加減に座っている男を上から見下ろしている僕には真正面からその男の顔をとらえる事はできないが、どこにでもある、あまり特徴のない顔。そんなふうに思える。


時おり不安そうに後ろを振り返っては窓の外を眺め、どこか悲しげな表情を浮かべてうつむく。

そわそわと、この動作を幾度となく繰り返すこの男に、まわりの人たちは何も感じないのだろうか。

それほどオーバーなアクションをしているわけではないにしても、誰もこの男のことを気にも留めていない。

どちらかといえば、僕の方がさっきからチラチラと見られているような気がするのは気のせいだろうか。


と、突然、目の前の男と視線がぶつかりギョッとした。

さっきまでうつむき加減だった男が急に顔をあげたのだ。

僕はハッとして我に返った。

どうやら自分の考えに少し気を取られすぎて、その間ずっとこの男を凝視してしまっていたようだ。


き、気まずいぞ。早く目をそらさなければ―――


だが、そんな動揺した僕の態度にはお構いなく、男はじっと僕を見上げたまま動かない。

そして僕の目をじっと見つめている。

僕の目をじっと、じっと・・・ん?

じっと見て――いないのか?


その男のうつろな眼差しは、僕の目を頭ごと通り抜け、そのまだずっと先の空間を見つめているようだった。

その目に生気は感じられない。

そうとう疲れているのか、それとも何か深刻な悩みでも抱え込んでいるのか、じっと空を見つめたまま動かなくなってしまった。


電車はあと数十秒もすれば芦屋駅に到着する。

さすがに各駅停車だからか、乗った時よりも若干乗客が少なくなったような気がする。

おしゃべりする者もなく、ガタゴトと電車の揺れる音だけが車内に小さくこだまする。


嵐の前の静けさか―――


決戦の時は近い。


僕は男から目をそらし、窓の外を流れる景色の遥か遠くを眺めながら小さくひとつ、深呼吸をした。


そして再び男の方に視線を戻し、祈るような思いでそっと目を閉じた。


芦屋だ。


                                          ――――――つづく

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ほっと、break ~ 小説にトライ!編 -9



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ほっと、break ~ 小説にトライ!編 -sowa7

クローバーさくら夙川駅はここ数年前にできた比較的新しい駅で、なんでも西宮-芦屋間の距離がちょっと長いから・・・っていうだけの理由で作られたらしい。

実際、駅をおりたところで周りにはなにもない。

現在この駅を利用している人達のほとんどはもともと快速の停まる西宮か芦屋駅を利用していた人達で、各駅停車しか停まらないこの駅を利用する人がはたしてどれだけいるのか。


もしかしたら目の前の男が降りやしないかとさっきまでは少し期待していたのだが、当の本人は窓の外を気にする様子もなくさっきからじっとうつむいたまま動かなくなってしまった。


ホームで電車を待つ人もまばらだ。

この駅から三宮か大阪方面に向かう人は確かにいるだろう。が、こんな朝早くからこの駅に向かう人は限りなく少ないはずだ。


プシューッ


電車のドアが開いた。

ホームで電車を待っていた数名の客が乗り込んでくる。

しかし、案の定誰も降りる気配はない。

目の前の男もうつむいたままだ。


ほら、やっぱり。桜の花咲く季節ならばともかく、何もないこんな時期にここで降りる奴なんている訳が―――


っとその時、僕の斜め後ろの方が少しざわついた。

何気に振り返ってみると、吊り革を持って立っている人の間から突然、狐につままれたような表情をした男が1人ひょっこり飛び出してきた。


この男は―――


そうだ。この男はさっきまでそこで爆睡していたサラリーマンおやじじゃないか!

なぜ突然起きたのだ?

あれだけ爆睡していて急に起きれるはずがない。

それがまるで何かに条件反射したかのように飛び起きて・・・


条件反射――


そうか、わかったぞ。

このおやじ、奴はここで毎日降りてるんだ。

どんな理由か、何が目的かはわからないが、奴は毎朝同じ時間の同じ電車に乗り、同じこの駅で降りているんだ。

だからたとえどれだけ眠り込んでいたとしても、車内アナウンスや電車の揺れ具合で、どのタイミングで起きればいいのか身体で覚えているんだ。


くそぅ―――


そのことを事前に知っていれば、そしてあの顔を覚えていれば、間違いなく僕は奴の座っている席の前に立っていたものを。

しかし、いくら悔しがっても始まらない。知らなかったのだから。

でもこの顔は覚えておこう。次からは使えそうだ。


勢いよく飛び起きたこのサラリーマンおやじは、車両の真ん中で一瞬ハタと立ち止まり2、3度キョロキョロとあたりを見回したかと思うと、今にも閉まりかけのドアからスルリとすり抜けて電車を降りて行ってしまった。


その流れるような身のこなしは今までそこで眠っていた者とは思えないほど華麗で、それはまるでジャッキーチェンの酔拳のようであり、それはまるで北斗神拳次兄トキのようであり、それはまるで水中に潜む鮭を腕の一振りで川岸に打ち上げる熊のようであった。


もともとさくら夙川駅にはあまり期待していない。勝負はこれからだ!―――


電車が動き出すと同時に目の前の男がゆっくりと振り返り、窓の外へ目をやった。


みていろ、次の芦屋駅で必ず決着をつけてやる!―――


目の前でそわそわと少しせわしなく辺りをうかがうこの男に、僕はいまだかつてない程にふつふつと胸の奥底から止めどなく湧き上がる激しく熱い闘志をぶつけずにはいられなかった。


                                          ――――――つづく

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ほっと、break ~ 小説にトライ!編 -8


※第8話UPしました!!ニコニコ

遅れてどうもすみませんしょぼん





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ほっと、break ~ 小説にトライ!編 -sowa6
クローバー―荷物を荷台に置いていない。

 ―寝ていない。

 ―ゲームをしていない。

 ―そして、主婦じゃない。


目の前の男は見事にこれらの条件をクリア―している。

いや、それどころかさっきからしきりに振り返っては窓の外を気にしたり、どこかそわそわと落ち着かない。

おそらくこの路線に乗り慣れていないのだろう。

自分の降りる駅を気にしているのだ。

まさにうってつけのターゲットじゃないか。

この男なら芦屋といわず、次のさくら夙川駅で降りてもおかしくはない。


いいぞ、ツイてる。今日の蟹座は星4つだ。

5つじゃないのは、さっき西宮で座れなかったから―――


僕はこの男1人にターゲットを絞り、彼が降りるのを待つ事にした。


どうやらサラリーマンではなさそうだ。

白いシャツに茶系のジャケットを羽織っている。が、ネクタイは締めていない。

だいいち、ビジネスカバンらしきものすら持っていない。30代後半ぐらいだろうか、ヒゲもきちんと剃り残しがなく髪も短くラフにまとめている。

身なりからしても無職という事はなさそうだ。


いったい何の仕事をしている人だろう―――


男性の職業というと、とっさにサラリーマンとしか出てこない自分のボキャブラリーの無さが悲しくなる。

じゃあ将来自分がなりたい職業は?と訊かれても、少しでもいい大学を出て少しでもいい企業に就職する。

つまりサラリーマンか。

そうだサラリーマンだ。

でも人にサラリーマンになりたいのかと訊かれると、絶対『ウン』とは言いたくない。

だからといってなりたい職業がまったく思い浮かばない。


俳優、ミュージシャン、スポーツ選手・・・

どれも現実離れしていて口にするのも恥ずかしくなる。


パン屋、魚屋、八百屋、花屋・・・

どうすればなれるのか、まったく思いつかない。

パンが好きならなれるのか?魚が好きなら、野菜が好きなら、花を愛する心があればなれるものなのだろうか。

そのお店を開く為の資金はいったいどこから出せばいいんだ。

頑張ってバイトして稼げばいいのだろうか。僕の場合、フリーターで終わってしまいそうだ。


コンビニの店長、ファミレスの店長、ファーストフード店の店長・・・

フランチャイズの雇われ店長なら、普段ネクタイを締めていないって言うだけでサラリーマンとなにが違うというのか。


それにしても、もう高三の夏だというのにまだ自分の将来のビジョンすら見えぬまま進路も決めかねている僕はなんて情けないんだ。


―――って、朝っぱらからなにナーバスになってるんだか。

将来なんて、なるようになるし、なるようにしかならないもんだ。

今はテニスの試合と期末試験に集中しよう。

それと、・・・目の前の男だ。


電車は間もなくさくら夙川駅に着く。

この男がどんな仕事をしているのか知る由もないが、とっとと次の駅で降りて欲しい。

今はただそう願うだけだ。

だって僕はもうヘトヘトなんだ。


―――さくら夙川ぁ、さくら夙川ぁ―――


アナウンスとともに、電車はゆっくりと駅のプラットホームに到着した。クローバー


                                          ――――――つづく

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ほっと、break ~ 小説にトライ!編 -7

※第7話のUpが遅れてごめんねにひひ汗



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