2009年05月23日(土)

岡本太郎はとんでもない名文家だった

テーマ:読書・書評・書斎論

岡本太郎の幻の作品「明日の神話」が発見され、大掛かりに修復された後、渋谷駅に展示されたのが昨年の11月。重々しいテーマを扱った作品だが、そのスケールの大きさ、強烈な存在力には圧倒される。


岡本太郎が活躍していたのは、私が子供の頃だ。子供心に「芸術は爆発だ!」というコマーシャルの印象ばかりが強くて、彼がれっきとした芸術家だということはあまり知らなかった(有名な「太陽の塔」ができた時はまだ私は6歳で、それが岡本太郎の作品だと知ったのは高校生くらいだったと記憶している)。その懐かしのコマーシャルは日立マクセルの宣伝なのだが、岡本太郎がピアノの前に座り、高速アクションで鍵盤をバシバシ叩いた後、絶妙な一瞬の呼吸を置いて、頭上のカメラに向かって有名な文句を叫ぶ。


「明日の神話」の実物を見たのをきっかけに、『自分の中に毒を持て』という手ごろな文庫本のエッセイ集から読み始めたのだが、これが面白くて止まらなくなった。彼のような生き方が強烈な人間だと、アウトプットされる文章にもその個性が強烈に出る。気迫が1行1行すべてから滲み出ていてそのパワーがこちらにビシビシと伝わってくる。しかも文章がうまい。「これは全部読まねば」という私のいつものスタイルになった。心の琴線を揺さぶられた著作家の本は、すべて徹底的に集めて読むというのが私の主義である。とりあえず、アマゾンで現在簡単に入手できる約40冊の本を昨年の暮れにまとめて発注した。


圧巻だったのはみすず書房から出版されている5冊からなる岡本太郎の芸術論集である。意外だった。なぜならば、これまでに芸術論などを読んで感心したためしがほとんどなかったからだ。たいていは捉えどころがなく、何を言っているのかさっぱりわからないのである。要するに己の自己満足を難解かつ曖昧な表現をするところで腕を競い合っているのが芸術論だと私は考えていたからだ。岡本太郎の芸術作品はことごとく日常を超越していて、それを正しく理解する能力など私のような人間には全くないが、彼の芸術論集は群を抜いてすばらしい第一級品であることは自信をもって断言できる。どれもが的確な表現力を伴った名文で、どんな難しい対象を話題に取り上げても、平易に書かれているのですらすらと心に沁み込んでくる。しかも太郎流に直截迫ってくるのだ。次から次へと発見があり、この世の真実を教えてくれる。これは一流の書き手に共通する現象であり、今回もつくづくとそれを感じ入った。こうして、岡本太郎は私の所蔵ライブラリーの重要ポストにおさまった。


手元に集めた40冊の本を年代順に並べて眺めてみると、売れっ子はどんどんいびつな形でメディアのダシにされるのかが一目瞭然だった(彼はそれを楽しんでいたらしいが)。彼の死後に出た岡本太郎を特集した本『Be Taro!』は思わずしかめ面をしたくなるネーミングだ。「岡本太郎になれ」というのは間違いだろう。岡本太郎がもしこの本のタイトルを見れば不快感を催すに決まっている。「あなたはあなたになれ」「あなたはあなたにしかなれない」というのが彼の考え方だからだ。『日本人は爆発しなければならない』。これもおかしなタイトルだ。彼が言っている「爆発」という概念から大きく外れており、とにかく「爆発だ」というセリフを入れれば販売部数がアップするという安易な発想としか思えなかった。


それにしても子供心の「爆発オジサン」のイメージはことごとく崩壊した。こんなにも卓越した名文家だったとは。岡本太郎が私のほうを向いて「ニヤリ」とした姿がはっきり見えた。


【岡本太郎のおすすめ本】

岡本太郎からパワーがもらえる本

  『自分の中に毒を持て』(青春文庫)

  『壁を破る言葉』(イースト・プレス)

岡本太郎の名文を堪能できる本

  『岡本太郎の本 全五巻』(みすず書房)

    呪術誕生、日本の伝統、神秘日本、

    わが世界美術史、宇宙を翔ぶ眼

岡本太郎の写真家としての凄腕を知る本

  『岡本太郎の沖縄』(NHK出版)

「明日の神話」を詳しく知る本

  『明日の神話 岡本太郎の魂』(青春出版社)


太田忠の縦横無尽 2009.5.23

「岡本太郎はとんでもない名文家だった」

        **太田忠投資評価研究所のHPはこちら**



いいね!した人  |  リブログ(0)

Tadashi Ohtaさんの読者になろう

ブログの更新情報が受け取れて、アクセスが簡単になります