道草---その4--- | 【実録】ネコ裁判  「ネコが訴えられました。」

道草---その4---

女の人    「ごめんねぇ~~~裏手にいると全然聞こえなくって……。」


と奥から初老の女性が出てきた。

ウチの母よりもう少し年上……60を回った頃だろう。


女の人    「はいはい……どうかしましたか?」

ユミコ     「ええ……。」


と言ったまま、ユミコが目線でワタシにふる。

「反則じゃんっ!!」……と思いつつも……


タロウ     「ええ……ああ……あの……。」


とイチロウの頭を鷲掴みして……。


タロウ     「コイツが……ウチの息子がお宅の花壇の花を勝手に摘んで持って帰って来てしまって……

         ……すんませんっ!!!!」

ユミコ     「すんませんっ!!!!!!」


と無理矢理イチロウの頭を押し込んで3人で謝る。


キョトンとして……


御婦人    「あら……まぁ……ひょっとして……黄色のパンジー?」

ユミコ     「そうっ!そうですっ!!黄色のパンジーですっ!!玄関先のっ!!すんませんっ!!!」


フフフッ……と御婦人の口元が緩むと……


御婦人    「男の子なのに花が好きだなんて珍しい子ね……。」


としゃがんでうなだれたイチロウの顔を覗き込む。


御婦人    「でも黙って持って行くのは良くないわねぇ……。」


と更に覗き込みながらワタシ達に笑いかける。


御婦人    「ボク……これからは一声かけてから持ってお行きなさいな。」


え?


御婦人    「おばさん、だいたい昼間はお家にいるから……一声かけてから持ってお行きなさいな。」

ユミコ     「え?いいんですか???」


驚いたユミコが聞き返す。


御婦人    「ええ。構いませんとも。」


と言いながら門の奥の庭へとワタシ達をいざなう。


入ったそこは、見事なバラの庭園。


御婦人    「これなんか、綺麗でしょ。」


と……庭の隅の道具箱からハサミを取り出してチョキン……チョキン……。

ユミコに手渡しする。


御婦人    「ほらほら折角だから……こっちも見て下さいな。」


と通された家の裏側となる北側にはキウイとブトウの棚。


御婦人    「秋になるとこんな街中でもちゃんと実るんですよ。」


と……。

いやね……市内でバラ園にキウイとブドウの棚なんて……想像してませんよ……普通。


御婦人    「実った頃には是非貰いに来てね。ボク。」


と……。

小さく頷くイチロウ。


御婦人    「主人が趣味で野菜も作ってるんですけどね……食べてくれる人がいなくて困ってますの。」

タロウ     「はぁ……。」


庭の隅に青々としたホウレン草とトマトとナスの苗が植わっている。







どっちが何しに来たんだか……。






御婦人    「ウチも同じくらいの孫娘がいましてね……。」


と庭を散策しながら語りだす。


御婦人    「生まれてすぐにアトピー性皮膚炎だって言われまして……

         それで主人が庭で野菜を作るようになったんですの。」

ユミコ     「はぁ……。」

御婦人    「農薬やらなにやらがダメだって言われてね……。」


なるほど。

自家製野菜なら農薬の心配はない。


御婦人    「花も大好きな子だから……ワタシも頑張って庭を作ってみたんだけど……。」


小さく溜め息をつくと……。


御婦人    「息子の都合で……上海に転勤になっちゃって……。

         それでもいつ帰ってきてもいいようにって庭も野菜も作ってるんだけどねぇ……。」


親が子に注ぐ愛が無償のものならば……

祖父母が孫に注ぐ愛は……いったいなんと語れば良いのだろう。


御婦人    「ねっ!!!これからはボクが貰ってくださいな。」


とイチロウの前にしゃがみ込むと自分の孫でも見るかのような眼差しでイチロウを覗き込む。






小さく頷くイチロウ。


そして小さな声で

「おばちゃん……ごめんなさい。」















それからも毎日……イチロウは学校帰りに花を摘んで来た。

ある時は公園の野草。

ある時はあの家の綺麗な花。


そして時々スーパーの袋一杯にナスやキュウリやブドウやキウイを詰め込んで……。



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イチロウによると、この家の門には時々スーパーの袋がぶら下がっているそうです。

マジックで「イチロウ君へ」と書かれ、野菜や花の束が詰まっているのです。


インターホンを押して、お礼を言って帰って来るそうです。

いない時は、この家に着くまでに摘んだ野草をポストに差して帰って来るそうです。


去年の暮れに引越しをした我が家ですが、今でもこの御宅とはお付き合いがあります。

季節になると電話があります。


昨日も「ウチの山でタケノコ採ってきたから貰いに着て頂戴」と連絡がありまして……。





早く孫娘さんがそばに帰って来るといいですね。





次号新章。


※中京TV「聞いてみやぁ!」 更新。   焼きそば好きですか?