卒業式シーズン---その2---
※読んでいない人は---その1--- からどうぞ
井沢 「ココに記念に名前書いとこ。」
と油性ペンを備品の引き出しから取り出すと、おもむろに壁の隅っこに書き出しました。
---------------------
卒業記念
井沢カズユキ
19□△年3月2日
---------------------
茜 「ああ。そういうのって良いですよねぇ。」
井沢 「だろ?」
茜ちゃんに同意を貰って、少し嬉しそうです。
井沢 「じゃあ……ついでに……。」
と少し調子に乗った井沢が……。
---------------------
来年こそ茜ちゃんにカレが出来ますように。
---------------------
井沢 「……っと……。」
それを見て……。
茜 「何書くんですかぁ~~~っ!!!」
井沢 「あははははは……。」
と苦笑い。
井沢 「じゃあ更に……。」
---------------------
俺で良ければいつでもどうぞ!!
---------------------
と書き加えました。
井沢 「どうだっ!?」
茜 「…………。」
プゥッっと膨れて無理矢理井沢からペンを取り上げると……その下に
---------------------
無理!!!!!
By茜
---------------------
と一筆……。
井沢カズユキ……18の春……卒業3日前にして敢無く玉砕……。
茜 「そう言えば……井沢先輩って彼女作らないですよねぇ……。」
タロウ 「そうだねぇ……。」
もう既に何事も無かった事になっています。
再度意を決した井沢……。
井沢 「俺……茜ちゃんの事好きだったから……。」
茜 「だから『無理』ですってっ!!!!!」
井沢カズユキ……18の春……卒業3日前にして無謀にも二度目の玉砕……。
井沢 「はは……。」
卒業間近です。
心残りを作っておいても仕方ありません。
「井沢……お前の気持ちはよくわかる……。俺には手に取るようにわかるぞ……。」
……と……心の中で呟いてみました。
……と茜が……
茜 「タロウ先輩は……ずっと彼女いますよねぇ……?」
タロウ 「ああ……。」
茜 「ミサキさんでしたっけ?」
タロウ 「そうそう……。」
当時ボクには一年以上付き合ってた彼女がいました。
茜 「綺麗な人ですよね。」
タロウ 「ん……まぁね……。」
確かにまぁ綺麗な人でした。
同じ歳でしたが少しツンとした強さがある「姉御系」の人でした。
茜ちゃんとは対照的です。
茜 「仲良いですか?」
タロウ 「ん……まぁ……ボチボチ……。」
少々ダラダラ感で付き合っている状態でしたが……建前上、こう言いました。
茜 「ラブラブですか?」
タロウ 「まぁ……それもボチボチ……。」
茜 「いいですねぇ~~~。」
この後、半年も持たずにミサキとは別れるのですが……この当時は知る由もありません。
井沢 「お前もなんか書けよっ!!」
今し方、二度も玉砕した井沢がボクに振りました。
タロウ 「ああ……。」
少し考えた後……部室の本棚に目をつけました。
スチール製の本棚。
本来同好会で使う為の棚なのですが、ほとんど活用されていません。
一番下の段には、何年も使われていない分厚い辞典が鎮座しています。
タロウ 「じゃあココに……。」
と……その辞典を引っ張り出すと脇に退け……
その本棚の裏に……。
---------------------
卒業記念
山田タロウ
19□△年3月2日
---------------------
……と……。
井沢 「お前……っ!!なんでそんなトコロに書くんだよっ!!」
ツッコミます。
タロウ 「いや……オレ……控え目だから……。」
井沢・茜 「ないないっ!!」
正直、いつでも見えるトコロに書いては……少々味がありません。
それに井沢みたいに堂々と書いてしまっては、いつ消されるかもわかりません。
そんな遊び心もあって……敢えて本棚の一番下の……辞典の奥の……
覗き込まなければ見えないトコロに書いてみました。
茜 「まぁ……そういう少し変わったトコロに書くのも……タロウ先輩らしいわね……。」
井沢 「まあな……。」
それから、3人で帰りにドーナツ屋でお茶を飲んで帰りました。
ゆっくり日が落ちかけた後も……木漏れ日で温まった空気が風で流されない……
今日みたいな日の夕暮れの事でした。
以下次号 。