シチサン | 【実録】ネコ裁判  「ネコが訴えられました。」

シチサン

イチロウに続いて奥へと向かう。


ワタシの店は物凄い縦長だ。

俗に言う「ウナギの寝床」


間口は5m程なのに奥行きは30m程ある。その約半分が店で、半分が家の部分だ。


店の一番奥(15mほど)まで行くとドアがあり短い廊下。

左手にトイレがあり、その奥に家部分へと続くドアがある。


慌てながらクツを脱ぐイチロウ。

家部分に上がると、後ろを振り向きワタシに


イチロウ    「シーッ。……静かにね。」


とやる。


テレビが相変わらず冷蔵庫と口喧嘩でもしているように大音量を発している。

「この状況で『シーッ』もないだろう……。」とも思ったが……相手はネコである。

人の気配で逃げるかもしれないのでイチロウに従う。


イチロウ    「ほれあそこ」

タロウ     「どれ……。」


と覗くと……網戸の向こう……の更に向こう……

緑のネットフェンスの向こうに……問題の駐車場に……ちょこんとネコが一匹座っている。


「あ。こいつ……。前に川畑の車に乗ってたヤツだ……。」


「車の傷がネコのものかどうか…」と言う議論は置いておいて……

川畑の知らない「共犯者」である。



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さて、今現在は網戸やサッシはどうしているのかと言うと……。


そのままである。


ニャン太はとうに引越したのであるが……。

部屋の空調や換気を考えると、網戸の方が何かと便利だ。


誰もいない部屋で、全て締め切ってエアコンを駆け……放熱量のハンパじゃない冷蔵庫達と戦う程……

ワタシは地球に厳しくない。


まあ……網戸のままだと川畑に「やっぱりネコの侵入を享受している!!」と言われかねないが……。


逆にサッシを閉めた場合でも……あの川畑の事だ……


「やっぱりサッシを閉めようと思えば閉めれたんだ!それをわざとやらなかったのは……

シロクロのネコを飼っていて……ネコが自由に出入りでき……エサを食べれなくなると困るからだ!!

やっぱりあのシロクロのネコは被告のネコだ!!」


……とやってくるに違いない。



どっちにしても文句を言ってくるなら……「今までどおり」と言う事に家族会議で決定した。

こちらにやましい事は何も無いのであるから……。


昔から付いているブラインドカーテンを時々降ろす……。

これなら風の通りは、さほど邪魔されない。

「人から見られている」「写真を撮られている」というプレッシャーは……決して気持ちの良いものではない。



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今日はブラインドが降りていなかった……。


ネコはジッとこっちを見ている。

シロクロのように全く警戒心を持っていないタイプでは無さそうだ……。


離れた位置からカメラを用意し……構えたままゆっくりと近づく……。

そばまで寄ってからカメラを取り出すと……そのアクションでビックリして逃げかねない。



ネコはいつでも逃げられる体勢を取っている。

こちらが一歩近づく度に……体重をピクピクと移動しているのがわかる。


「警戒心が強いな……野良か?」と思って観察してみると………。

首輪をしている。

「ほー。飼いネコにしては……警戒心が強いな。」


ネコにもイロイロな性格がある。

人間と一緒である。


人懐っこいヤツもいれば警戒心剥き出しなヤツもいる。

喧嘩っ早いヤツもいればノホホンなヤツもいる。

なにせネコの癖に運動神経ゼロでドジなヤツもいるのである。


「もうここが限界か」って位置で写真を数枚撮った。

まだ逃げない……。


よく見るとイチロウが「シチサン」と言った意味がわかってくる。


このネコ……白8割の虎2割のネコだ。

どこででも見かけるタイプである。


この「虎」の部分が見事に髪型のように7:3になっている。

一見とてもマジメそうなネコだ……。



ネコに限らず動物の「模様」と言うのはある意味不便である。


人間なら髪型や服装を……その日の気分や嗜好によっていくらでも変える事が出来る。

なのに動物は生まれた瞬間からその柄を義務付けられてしまう。



「こいつは生まれた時からシチサンなのか……子猫の時からシチサンかぁ……。」

などと思わず考えてしまった……。


そんなワタシの心を読んでか……


イチロウ    「ね。シチサンでしょ。」


と聞いてきた。


タロウ     「シチサンだな。」


そう言うと、このシチサンに向かってズケズケと歩を進める。

サッと逃げるシチサン。


もう写真は撮ったので「お役御免」である。

寄るだけで追っ払う事ができた。


タロウ     「よく気付いたな。」


イチロウに少々褒めるように聞く。


イチロウ    「テレビ見てたらさー。外でガサゴソいうからさー。」

タロウ     「お前すごいな……。よくこの大音量の中で……聞き分けられるな……。」

イチロウ    「いやぁ。テレビに集中してたから。」


「集中してたら逆に聞こえないのでは?」と思ったのだが……。

集中してるからこそ雑音が気になったのかもしれない。


イチロウ    「じゃ。100円頂戴。」

タロウ     「あぁ……そうだったな。」


ポケットをまさぐる。


……………。


こういう「間」に親という生き物は小言を言いたくなる習性である。


タロウ     「お前さぁ……。いつまでもテレビ見てないで、どっか行って来いよ。」

イチロウ    「……うん。」


既にテレビに戻っている。


タロウ     「読書感想文はやったのか?」

イチロウ    「………まだ……だけど……。」

タロウ     「『だけど』はいらん。ほれ……100円やるから図書館行って来い。」

イチロウ    「………わかった。これ終わったら……。」


歯切れが悪い。


イチロウにしてみれば、せっかく役に立ったと思ったのにブツブツ言われて少々ブルーなのであろう。


こちらもバツが悪いので話をそらす……。


タロウ     「さっきのネコだけどさ。」

イチロウ    「うん。」

タロウ     「本当にシチサンだったな。」

イチロウ    「うん。」

タロウ     「あいつのあだ名は『シチサン』だな」

イチロウ    「うん。」


……………。


テレビに集中して話を聞いていないのか……それともまだブルーなのか……。


試しに

タロウ     「コナンカットだったら『コナン』だな」


と振ってみたら


イチロウ    「……うん……でもその場合は『坊ちゃん』だよ」


と突っ込まれた。


人の話は聞いている様子だ。


タロウ     「波平柄とかバーコード柄とかのネコもいるのかな?」

イチロウ    「いたら悲惨だね。」

タロウ     「子猫から波平だぞ……」

イチロウ    「……ぷっ……そうだね……悲惨だ。」


ちょっとは戻ってきた様子だ。



そんなこんなのやり取りの後


タロウ     「じゃ。店行くわ。」

イチロウ    「うん。」


と話は終わった。




この日、イチロウ……11時半に早めの昼飯を食べて図書館に出発。

カメラを持って出かけて行った……。


いるかいないかもわからないが……万が一見かけたら「波平」と「バーコード」を撮ってやるらしい……。

                                        シチサン イラスト:
以下次号。