6月にイスラエルが占領するヨルダン川西岸地区で、3人のイスラエル少年が行方不明となり、その後に遺体で発見されました。イスラエルのネタニヤフ首相はイスラム急進派組織ハマスの仕業と断定して報復を言明しました。


7月に入ると、今度はパレスチナ人の少年が誘拐され殺害されました。しかも、油を飲まされて火を着けられて焼き殺されたとの報道が伝わりました。ユダヤ教徒やイスラム教徒は、火葬を忌み嫌います。遺体を焼くのは最大の侮辱です。しかも、この少年は生きたまま火を着けられました。パレスチナ人の怒りに、まさに火を着けるような行為でした。


そしてハマスの支配するパレスチナ南部のガザ地区から二百発以上のミサイルがイスラエルに向けて発射されました。中にはイスラエル中部の都市であるテルアビブやエルサレムを狙った射程の長いミサイルもありました。さらには北部の都市ハイファに向けてもミサイルが発射されました。大半のミサイルは、「鉄のドーム」と呼ばれるイスラエルのミサイル迎撃ミサイル網によって撃墜されています。しかしイスラエル市民は、しばしば地下壕に避難したりの不自由な生活を迫られています。イスラエル国民の間に、ハマスのミサイルの脅威を除去するための軍事行動への期待も高まっています。


イスラエルは報復にガザ地区の百カ所を爆撃しました。パレスチナ側の発表では、この爆撃で、日本時間の10日までに40名のパレスチナ人が死亡し400名が負傷しました。さらにイスラエルは、軍の予備役を召集し、必要とあればガザ地区に陸上部隊を侵攻させる構えです。イスラエルが実際に陸上からガザ地区に侵攻するかどうかの判断の基準となるのは、同国の犠牲です。現在までのところイスラエル側に死者は出ていません。しかし、ハマスのミサイルが防衛網を突破してイスラエル市民に多数の死者が出れば、陸上部隊投入の可能性が高くなるでしょう。そうなればパレスチナ側の死傷者は、けた違いに増えるでしょう。またイスラエル軍にとっても、それなりの損害は覚悟する必要があるでしょう。


前回イスラエルがガザ地区に軍事侵攻したのは2008年12月でした。これは、2009年1月のオバマ政権の発足を前にした駆け込み攻勢でした。イスラエルに甘かったブッシュ大統領の任期が切れる前にハマスに壊滅的な打撃を与えようとした作戦でした。イスラエル軍は、千名以上のパレスチナ人を殺傷したものの、ハマスを壊滅させることはできませんでした。国際的な非難を浴びて、オバマ大統領の就任直前にイスラエルは攻撃を止めました。


前回はオバマ大統領の就任が、イスラエルにとっての停戦の締切となりました。しかし、そうした期限が今回は存在しません。停戦のメドが見えない状況です。またハマスとの戦闘をイスラエルは和平交渉を行わない理由とするでしょう。ハマスのミサイルとイスラエルの爆弾の一つ一つが中東和平に対する攻撃となっています。


2014年7月10日(木)THE PAGEに掲載された拙文です。


イスラエル・パレスチナ 平和への架け橋
高橋 真樹
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