【講演会のご案内】


「トランプ新大統領と中東情勢」
日時:3月24日(金) 14:00~14:55(50分程度)
場所:東京文化財研究所 セミナー室
定員:110名
※2月24日(金)に申込開始予定
詳細未定


6月25日(日)
放送大学徳島学習センター 詳細未定

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2017-02-06 10:00:44

書評『シリア難民』パトリック・キングズレー著

テーマ:書評

難民になるというのは、どういうことだろうか。難民から多額の金銭を奪い取っている密航業者とは、どのような人々だろうか。密航の取り締まりの実態はどうなっているのだろうか。なぜ密航が止まらないのか。止められないのか。現場の実情は、どうなっているのだろうか。


イギリスの高級紙「ガーディアン」の難民問題の担当記者のパトリック・キングズレーが、欧州に密航しようとするシリア人に密着取材して、こういった疑問に答えている。同時に著者は欧州、中東、北アフリカの各地を取材して、この問題の鳥瞰図を描いている。タイトルは「シリア難民」だが、記述は現在の難民問題の全体像を射程に収めている。深く広い本である。


つまりこの本は、見かけはシリア難民を語る1冊の本のような振りをしているのだが、実は2冊の本である。1冊は、著者が旅程の大半を同行し取材したシリア人のスウェーデン到着までの苦難の記録である。そして、もう1冊が難民のおかれている全般的な状況の叙述である。


それぞれの本の章が交互に出てくるので、読者は一方で難民として旅をしているような気になりながら、他方では、その人物が置かれている状況を俯瞰できる。難民として国境をさまよいながら同時に神のように問題の全貌を見る仕掛けになっている。


それでは、なぜ難民が発生するのか。それは、シリアにしろエリトリアにしろアフガニスタンにしろイラクにしろ、難民の出身国の状況があまりに酷いからだ。


アフリカの砂漠を越える際に道に迷って死ぬ可能性があろうが、地中海で溺れる危険があろうが、人々は欧州を目指し続ける。既に故国で地獄にいるのだから、いかに欧州への道中が悲惨であろうが、壁を作ろうが、何をしようが、難民の流れは止まらない。


難民を押し出す地域の状況の改善が望めないとすると、それでは、どうすれば良いのか。唯一の「現実的」な対応は、一定数の難民を秩序だって受け入れる制度の確立である。


欧州は世界で一番豊かな大陸である。各国で応分に受け入れれば、百万人単位の難民でさえ総人口5億の欧州には、それほどの負担ではない。と著者は主張する。だが、こうした対応が政治的に「現実的」でない点に問題が凝縮されている。


難民問題は他人事ではない。朝鮮半島有事の際には北朝鮮がシリアになる。日本に覚悟と準備はあるのか。


※2017年2月5日に日本経済新聞に掲載された書評です。



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2017-02-02 10:00:00

アレッポ陥落の意味(2)

テーマ:シリア

良くメディアで語られる構図に従えば、シリアの問題は代理戦争であり、アメリカの支援する反体制派とロシアやイランが支援するアサド政権が対立してきた。しかし、じっさいはそうではない。ロシアやイランがアサド政権を本気で支えてきたのに対して、欧米やトルコの反体制派支援は本腰ではなかった。オバマ大統領の自己認識は、次のようなものであった。


自分はアフガニスタンとイラクの戦争から手を引くために国民に雇われた大統領である。シリアで新たな戦争を開始するのは自分の仕事ではない。


オバマは反体制派に対する限定的な援助は行ったが、アメリカのシリア空爆とはならなかった。とくに2013年にシリア政府が、すなわちアサド政権が化学兵器を使用した時の対応は議論を呼んだ。


それまでオバマは、もし大規模な化学兵器の使用があれば、それがアメリカにとってのレッド・ライン(赤い線)であると主張していた。つまり、越えてはいけない一線であり、それをアサド政権が越えればアメリカは大規模な軍事介入をするという意味だと受け止められていた。しかし、化学兵器の使用にもかかわらずアメリカは軍事力を行使しなかった。反体制派は、オバマがアサド政権を倒してくれるだろうと期待していた。少なくとも大きな打撃を加えてくれるだろうと見ていた。しかし、オバマは周辺の助言を退けて介入しなかった。


それに比べるとロシアのプーチン大統領はアサド政権が危ういと見ると介入し15年9月からの大規模な空爆で戦局を逆転させた。つまりアメリカは動かなかったのにロシアは介入した。反体制派が敗北したのは、シリア問題が代理戦争になっていなかったからである。


アサド政権がアレッポを奪回した現状では、もはや仮にアメリカの政策転換が起こったとしても介入の機会はないだろう。介入して支援すべき勢力が、もはや敗退してしまっているからである。


オバマからトランプへのアメリカでの権力の移譲は、反体制派の将来をさらに暗くするだろう。トランプがロシアのプーチン大統領との協力を明言しているからである。


シリアの将来を決めるべきプレーヤーは、アサド政権とクルド人とイスラム急進派の三つに絞り込まれた。これがアレッポの攻防戦がアサド政権側の勝利に終わった意味である。それは反体制派なる勢力の政治的な死であった。


-了-


※「まなぶ」2月号P.58に掲載されたものです。



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2017-02-01 14:22:13

アレッポ陥落の意味(1)

テーマ:シリア

昨年末シリアのアレッポの攻防戦が終わった。アサド政権軍と、それを支援するロシアやイランなどの諸勢力が勝利を収めた。敗れたのは反体制派と呼ばれる勢力である。その意味を理解するためには、現在のシリアの情勢の理解が必要だろうか。大まかに解説しよう。


シリアはアサド政権の支配地域と、その他に分かれる。その他はさらに二つに分かれる。アサド政権に反対する勢力の支配地域とクルド人の支配地域である。クルド人は、アサド政権寄りでもなければ、反アサド勢力寄りでもない。クルド人はクルド人寄りである。つまりクルド人の自治や独立を求めている。という事は、シリアがアサド政権と反アサド政権勢力とクルド人に三分されている。面倒なのは、反アサド勢力である。反アサド勢力は、大ざっぱには二分できる。一つは比較的穏健とされる勢力、通常は反体制派と呼ばれる勢力である。もう一つはイスラム急進派である。そのイスラム急進派は、さらに二つに分けられる。IS(「イスラム国」)とアルカーイダ系の組織である。


これで、やっとアレッポの戦いの終結の意味を語る準備ができた。アレッポを支配してきたのは、主として反体制派であった。穏健とされる勢力であった。この勢力がロシア軍の激しい空爆にさらされ、そしてイランの影響下にある勢力の陸上での攻撃を受けて敗退した。この敗北によって反体制派と呼ばれる勢力がアサド政権を倒してシリアの将来に関して大きな役割を果たすという線は消えた。残るのは勝ち誇るアサド政権、クルド人、そしてイスラム勢力である。


それでは、なにゆえに穏健とされ欧米やトルコの支援を受けていたはずの勢力が敗退したのだろうか。


>>次回につづく


※「まなぶ」2月号P.58に掲載されたものです。



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