昨日は東京に出て一人で遊んだ。家を出るとき仕事に行く妻と一緒になった。

私は気付かず鼻歌を歌っていたので、「あら、いい調子ね」と言われてしまった。

途中まで車で行って、電車に乗り換えた。

東京ではまず、「燈台守の恋 」。映画マニアの友人が二人の逢引の場面で「恥ずかしながら久しぶりに欲情してしまった」と言ってきたので、濡れ場を楽しみにしていったが、そんな濡れ場はなかった。

一度だけ二人が愛をかわす場面があるが、特別叙情的でも扇情的でもなく、むしろはるか昔の日本映画のように抑制した描写に終始していた。あるいは、だから彼は欲情したのだろうか。そうだとすれば彼と私は性癖が違う。

しかしさすがに彼の映画を見る目は確かで、映像の美しさや迫力と端正で丁寧な人間の描き方には心を打たれた。

その後、上野の国立博物館で北斎展を見た。天才の所業とはこのようなものを指すのだと痛感した。80歳を超えて描かれた彼の絵は、高齢で絵を描き続けたピカソを思わせて、かつピカソを超えているような気がした。

さらにその後、下北沢で小劇団の芝居を見た。

新宿の花園神社の境内あたりで公演している小さな劇団の公演で、80人くらいが入るといっぱいになる劇場で熱演していた。

これがまたとてもおもしろかった。役者の力量にばらつきがあり、素人芝居みたいな部分もあったが、全体として素直にまっすぐ人生を見つめた芝居作りだったし、喜劇仕立てのオムニバスだったが、笑いも心地よい笑いでよかった。

夜は麻布で一人でビールを飲みながらジンギスカンを食べた。

鈎型になったカウンターに座ったら斜め向かいに、若い二人連れが座っていい感じで飲んで食べて話していた。

話しの内容はよく聞こえないし聞こうともしなかったが、女性は大きな目の比較的整った顔立ちで、しかも表情豊かに話すので、風景を見るように眺めていると退屈しなかった。

あまりじろじろ見ると失礼なので、肉を焼くのと飲むのに集中しているふりをしながら時々眺めた。目を上げると自然に彼女の顔が目に入る角度だったし、彼女は隣にいる相手の男性に顔を向けているので私の視線は全く気にしていなかった。

いい気持ちで酔ってホテルに入り、風呂から出た後携帯からブログに書き込もうとして、何度も失敗した。必死に打っているうちについまどろんでしまい、気がつくと書いた記事を消したり誤操作をしていた。

東京に出てきた目的の半分はこの一日で十分に果たせたので、大変満足した。残りは翌日(つまり今日)の買い物である。

ところがこれは、二つとも果たせなかった。品物をもう少し粘って探せばどこかで見つかっただろうが、一日目の奮闘で疲れてしまって、根気がなくさっさと帰路についてしまった。


予定の半分の成果だったが、でも十分に満足した東京行きだった。


上野の秋

上野国立博物館前の紅葉と人出