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2009-01-26 00:20:09

無題

テーマ:無題

私たちは、遺伝子に操られている。
それは全ての生物に絡む、不可思議な鎖。
しかし、そこに殺戮は組み込まれているのか。
あらかじめ?生まれ持って?
そうでなければ、どうして私たちは殺戮を繰り返す。


殺すこと、奪うこと。


私たちが行うそれは、生きる為にではない行いだ。
狂っている?
遺伝子の機能がか、脳の底がか。
それとも私たちそのものがか。


何より憎むべきは、私たち自身だ。

神になれると、思い上がっているのか。
至上のものになれると。
殺す権利など、生き物が持っているはずもないのに。


私たちの辿るべき道は見えている。


もう、すぐ目の前に。


そうまさに今、この瞬間にも。

2009-01-18 00:42:55

無題

テーマ:無題

背中を押す昨日は

ただただ、明日に向かって行けと笑っている。

今日は何処にいるのだ、と尋ねたら。

昨日はひどく楽しそうに


今日はおまえだよ、と僕を笑った。

2009-01-17 23:49:57

誰よりも強くあるその人に、届かない声で伝えたい言葉を

テーマ:無題

 ぎゅう、とこぶしを握った。


 目の前に広がる、小さくて圧倒的に大きな世界。

 決して立ち入ることのできない、これは一種の聖域なのだと思う。


 注ぐ苛烈な光線が、皮膚を灼いては砕け散る。

 その中にあっても、力の失われていない金網越しの横顔。

 顔の曲線を伝って滴れ落ちる雫も、上下する肩も、兄が憔悴していくという証拠にはならないと思った。


 そう、そんなもの何の証拠になる?


 だって、あんなにも瞳は鋭い光を宿している。

 一歩だって、譲ってもいないから。


 自分の横でイチイとミナミが、チハヤはこういうときでも飄々としてそうだと思ったけどなと優しく笑う声がした。

 違うんだよ。

 そう、言いたかった。

 だけど言葉が出てこなくて、ただ小さく首を振る。


 兄は、風に似た炎だ。


 試合中剥き出しにされたままの激しい闘志や、隠されることもない負けん気や強気さも、だからこそある眼を灼かれるような輝きも。胸を貫かれるような存在感も。

 それこそが、本来の兄なのだと思う。


 試合を見るのは、もう10年ぶりくらいになるのだろうか。

 明確に言葉に出すことは無かったけれど、いつからか知っていた。

 あまり、観に来て欲しくはないのだろうと。

 でも、何となく自分もそれを判っていたんだろう。

 だから、行かなかった。

 剥き出しの状態を、自分に見られることを厭っていたのだと、今ならわかる。


 だから、だからこそ、今日は特別な日だ。

 

 誰も立ち入ることのできない聖域を、僅かばかり覗き込むことを許された。

 それは同時に、何が起ころうとも目を逸らすことさえ許されないことも意味していて。

 金網の向こう側で光る、激しく、強い世界を。


(負けるわけ、ない)


 そう、負けるわけが無い。

 事実自分は、彼の負けを知らない。

 精神的な敗北すら、彼の前では立ち止まれずに。


 黄色いボールが、ラケットの面に当たって高らかに音を鳴らす。

 歯を食いしばってラケットを振りぬく。こんな姿を、一番近くにいても見ては来なかった。


(ちぃちゃん、がんばれ)


 がんばっていることを知っているから。

 勝利だって、信じているけど。

 それでも。


 贈りたい。何か。言葉を、気持ちを。

 所在の無い願い。

 祈りが留まることを知らずに、頭の中で騒いでいる。

 胸を、埋め尽くす。


(がんばれ)


 苦しみも何も分かち合えない、そんな場所で。

 こんなにも近いのに、何も届かない。入り込めない。

 ボールが兄のコートの中に入って、過ぎていく。

 割れるような歓声、自分の周りでする熱のある応援。

 表情を余りださないのは悔しい時のクセだ。ユニフォームの肩口で流れ出る汗を拭う。

 静かに、激しく燃える瞳に、思う。


(がんばれ)


 勝利を、祈る。


 不意に、兄の顔がこちらを向いた。

 一瞬だけ眼を見張って、それからさっきまでの鋭い眼が嘘のように和らぐ。

 右手を持ち上げて自分自身の眉間を2回、人差し指で突付いて笑った。


((眉間、しわよってるよ))


 そう言われた気がして、思わず慌てて自身の手で触って確認する。

 指に当たる隆起は知らずに寄っていた眉間。

 苦笑いして、兄の顔を見返した。


(がんばって)


 胸の中でそう思えば、不敵な笑顔で兄は頷いた。

 こんなにも近い。けど声だって、手を伸ばしたって、届かない。

 それでも。


 こんなとき、判るような気がする。お互いが。


 双子のテレパシーとか、周囲は笑ってそういうけれど、そういうのじゃない。

 だけどゆったり、ゆっくり確実に。伝わるものが間にはあって。

 きっとそれは、お互いを知っているということなんだと思う。


 くるり。手の中にあるラケットを器用にまわす。

 それは、今とても彼が楽しんでいるという証。


(そうか)


 何も心配なんて、いらないんだ。


((勝つよ))


 活力に満ちた瞳が笑うから、彼に向かって強く頷き返す。

 ああ、やっぱりそれだけじゃ足りない。まだ、足りない。


「ちぃちゃん!!」


 届け。届け。

 いくつもの声の中で、張り上げる。

 たった一言。伝えたい言葉を。

 こんな大歓声の中、届かないのは判っている。


 でも。


 まぎれてしまってもいい。

 少しでもいいから。



 届け!




「がんばれ!!」




 兄が太陽に似た瞳で、自分を見返す。

 突き出されたこぶしに、何度も、何度も頷いた。







誰よりも強くあるその人に、

届かない声で

伝えたい言葉を

 

2009-01-16 23:08:50

無題

テーマ:無題

 では、また。


 そっと微笑んで、貴方はその身を翻す。

 此方も笑って、貴方と同じ言葉を紡ぐ。

 その度、胸に何かが当たって僅かな痛みが走っていく。

 いつ来るか判りはしない、再会。

 気まぐれに廻り、まるで偶然のように必然は訪れる。

 いずれ貴方の手の内の中。己には与り知れぬ必然。

 嘘つきな貴方の嘘は、優しすぎるくらい自然で真なのかどうなのか判別がつかない。

 最後のその言葉は、いつ訪れるか判らずに、愚鈍な己はそうなって初めて気付くのだろう。

 それでも、待ってしまうだろうか。

 言葉通りの再会と、あの面影を。


(どうか、ね)


 最後の時には「また」など言わないで。

 泡沫の夢だったと、目を開いて見てしまった僅かばかりの夢と嘘をついてくれないだろうか。

 逢瀬を待ちながら生き続けるなんて、どうやったって哀しいばかりだ。

 この心ばかり、暴れだしては過ぎ去っていく。

 その背中ばかり、きっと想い出してしまう。


 だから。


 最後になるなら、優しい嘘より儚い夢が好い。

 遠くなっていくだろう背中に向けて、密やかに密やかに、そう願う。

 

(身勝手な願いは、留まれずに流れていくのに)


 苦笑いを浮かべそうになったその時、いつもは消して振り返らない背がもう一度翻る。

 強い光を放つ眼に驚きながらも、願うことが止められない。

 己の事しか考えられない、そんな願いと判っているのに。

 見透かしたような強い眼が綻ぶ。

 笑ったのだと判った時、ゆっくりとその唇が開いた。


「まだ、ですよ」


 まだ。



 それなら――



 それならもう少し許されるのですか。

 翻した背中をあと僅かばかり追うことを。

 緩やかな時間に、あと少しだけ触れることを。


(そうやって)


 許すから。


(甘やかすから)


 目の奥が痛い。それでも笑う。

 貴方が屈託なく笑うから僅かな痛みが、また胸に走った。

 今はまだ、とても幸福だと心も笑う。


 とても、幸せだと思った。


(ね)



 だから



(―だから私がつけあがるのです)

2008-10-17 01:11:10

こわいのこわいの

テーマ:無題

 小さな、小さな2つの手をとった。

 子ども特有の、柔らかな弾力。

 不安そうに見上げる目が、瞬く。


「どうした?」


 かたっぽは目を伏せてもじもじしていたが、息子のほうはじっとこちらを見つめて。

 不安げながらも、はっきりと言葉を出した。


「おばけ、くるのかなぁ」


 ああなるほどね。と合点がいく。

 さっきの心霊番組のせいか。

 なんとなくつけっぱなしになっていたテレビから、流れ出る夏の終わりのショウ。

 もじもじしたほうの叔父――宗二郎は「ひでえつくりもの」と普段見せない苦笑を見せたくらい、陳腐な番組だった。

 それでも


(怖かったんだね)


 内心そっと笑う。


「…やっぱり、くるの?」

「ふたりでねたら、だいじょうぶかなぁ?」


 布団の中で、二人が硬くなったのがわかった。

 ここで「くるよ」と言おうものなら、緊張が大爆発して人間から変身した怪獣が2匹になるだろう。

 それなら。

 子どもたちの大好きな、おまじないの出番といたしましょうか。


「おふとんをね、しっかりかぶってればいいんだよ」

「おふとん?」

「そう。お布団しっかりかけてれば、おばけがきたってわるさできないんだから」

「ほんとう?」

「おとーさん、ほんと?」

「うん。怖いのなんてバリヤー!なんだから」

「バリヤ?」

「そう。ついでに呪文もつかってみる?」

「「じゅもん!?」」

「知りたい?」


 ぴかぴか。きらきら。まあるく光る四つの星。

 

「「しりたーいっ」」


 答えなんて、わかってたのに。

 いつもどおり、予想通りに元気のいい二人の声にもったいぶった顔をして見せたりなんてして。

 ゆっくりゆっくり、子どもたちが覚え易いように口からその呪文を紡いだ。


「『イバイバケバオ』」


 コワイの怖いの飛んでゆけ。

 お空の果てまで飛ばしてあげる。

 子どもたちが幸せなら、少しの嘘くらいホントにしてしまえるよ。


 呪文を繰り返す子どもたちの柔らかな頬を撫でて、ベッドの脇の椅子に腰掛けた。

 疲れて君たちが寝てしまうまで、呪文が効果を発揮するまで。

 今日は君たちの横で笑っていよう。

2008-09-18 08:00:52

無題

テーマ:無題

―― 遠いところだ。

 遥か遠くまで続く宝石のようなまばゆい煌めきを見つめて、そう思う。
 はしゃぐ潮の声が耳の中を走り抜けて行った。
 地平線が空と海の間に延々と横たわっているのをみて、もう一度遠い、と思う。意味のあるようなないような、簡単符にも似た無意識。

「どうかしたの?」

 透き通ったモスグリーンの瞳が、ヒカリの瞳を覗きこんだ。
 射抜くようなスモーキーブラウンの瞳と冴えたブルーグレーの瞳までが気遣わしいげにこちらを見ている。
 彼らといると、色素の薄い自分が違和感がない。

 あの頃はどうだったっけ、とふと考える。


「ヒカリ?」

「あ、あぁ。ごめんね。ボーっとしちゃってた」


 苦笑すれば、同じようにシーナが笑って「やだなぁもう。スースみたい」と吸血鬼の名を出して軽やかにからかってくる。モスグリーンの瞳が宝石のようにきらきら光る。


「あ、丸虹でたぞ」

「え、どこ!?」


 通りの良いセスナの声の方向に、モスグリーンの瞳が虹の入り江に向く。

 ブルーグレーをしたいつもは射す様なセスナの瞳が僅かに優しさを孕んで、猫のように軽やかに走り出すシーナを見た。

 シーナは気付かないままでも、とても穏やかにある一瞬の小さな煌めき。


―― いいな。


 ふと思う。あの頃は、どうだったっけ?

 潮騒は、しなかった。


―― 砂の、波だけ。


 そしてまた実感する。

 驚くような、遠さだけ。


 シーナが大きな声で、セスナとヒカリを呼んだ。

 はしゃぎすぎだろ、と溜息交じりの低い声でボソボソとセスナが呟いた。

 ヒカリはそれが照れ隠しだと知っているから、少しだけ笑った。


 虹も、空も、海も。驚くほどに色の溢れている世界は、いつだって眩しい。

 そして優しくて、手に戻らない過去を否応にも感じさせる。

 戻らないと知っているから、とても痛い。

 それでも優しさに溢れる今を、幸せだと思う。

 愛しさに溢れた過去を、幸せだと思う。

 両方に、もしかしたら手が届かなくても。


―― 遠いなぁ


 すり抜ける潮騒に混ざるシーナの声。

 土と笑うセスナの靴底。

 空にほどけていく虹の先。


 いとおしくて。何もかもが幸せに感じて。

 喪失感だけ少し、切ない。


 だけどそれすら、いとおしいんだ。

2007-09-16 10:53:15

いつでもあるゆるやかな

テーマ:無題

 小さな石くれの前に立った。

 僅か空に残った太陽は、また自分のことを忘れないでと光を放っている。

 淡い橙に染まる砂の世界に訪れる、夜の掌。

 それでも、忘れないで。と。


「オマエ、結構似てるかもな」


 直視するにはまだ辛い光。

 それでも目を細めて太陽に視線をやれば、ふと思い出す面影。

 覚えていて欲しくないと。

 自分の居た証を、全て消してしまいたいと。

 願っていたくせに。


 消えないでいるじゃないか。


 ここは空っぽだ。体は、ここには残せなかった。

 まだ、少女だったあの子が造った、小さな墓標。

 全部消したいだろうにね。と寂しそうに笑ったあの子の顔が、今だって蘇る。

 彼のリングと、彼の大事にしていたただ一人のリングがここにはあるだけ。

 安い迷信でもいい。

 死後の世界なんて、そんなのあるかないかわからないけど――それでも。

 それでも一緒に居て欲しいと、そのとき、思った。


――幸せだったな


 ゆっくり笑った、己が分身のことを考える。

 楽しかった、幸せだった。

 そう柔らかに笑って、ゆっくりと命の輝きは消えていった。

 行かないでくれ、と引き止めることすら許されなかった。

 とても幸せそうな寝顔のようだったから。


(あいしてるよ)


 今だってそう思う。


(あいしてた)


 2人共を、あのときの全てを愛している。

 幸せすぎたあの日々の中、失うのはあっけなさ過ぎるくらいで。

 呆然とした。

 あっけないと、立ち尽くした。

 それでも、そこにあったことだけは忘れたくなくて。

 愛しすぎる日々があるからこそ、赦せないことも多すぎた。


 だから、こうやって生きている。

 まだ、自分はここにいる。


 過去に縋り付くことはできないけど、今を生きる子どもたちを知っている。


 いつかの、君に似た、今を生きる子どもを。


 石くれに刻まれた文字を、緩やかになぞる。

 冷たいはずのそれに、暖かさすら感じられて。

 ゆっくりと、笑む。

 ただ、刻まれた名ですら、いとおしい。


(だいじょうぶ)


 死なせたりしないから。

 君たちの愛した、小さな――希望を。

 目を閉じる。

 浮かぶ面影。まだ、覚えている。

 忘れたりなんてしない。

 

 風が、吹く。


 それはまるで、やわらかく名を呼ぶ声みたいに。さやかに。


(うん、あいしてるよ)


 あいしてるの一言すら届かない世界で、それでも胸で言い続ける。

 そうする理由なんて、ただひとつ





 いつでもあるゆるやかな







 あいじょうにほかならない

2007-07-28 22:32:29

ネイル

テーマ:ブログ

 するん。するん。


 まるでそんな音がするかのように、小さなハケが爪の上を滑っていく。

 エナメル質にも見えるそれは、ソーダ水に光が透けるようなそんな透明感さえあった。

 こんなにツンとくる、ロクでもない匂いを発している割に、は。

 小さなハケが表面を撫でるごとに、多色に輝く爪をユトがじっと見つめていた。

 なんだか小さな子どもみたいで、ユトにわからないように少し笑う。

 自分のものより、ずっと小さい指の爪10本全てに輝きを施すと、双子の妹は「ほぅ」と溜息を漏らして、指先を部屋の白光にかざした。


「ちぃちゃん、上手」

「ま、ね」

「キレイ。ソーダみたい」


 緩やかに目を細めて、ユトは笑う。

 頬を膨らませて、ふぅふぅと指先を吹くしぐさが小さな女の子のようで、チハヤはまた少し笑う。


「でも凄いニオイだね」

「いえてる」


 窓を開けたら押し寄せる湿気を含んだ夏の熱気。

 どこかで歌う、風鈴の声。

 あぁ、夜にも夏が着色されている。


「明日試合だね」

「ね」

「夜でこれだから、明日も暑いね」

「考えるだけでイヤだなぁ」

「楽しみなのに?」

「暑いじゃんか」

「楽しみなのに?」


 同じ言葉をいたずらっぽく繰り返す妹に、おどけた顔で肩をすくめて見せた。

 バレるよな。心の片隅で笑いながら思う。それをとても嬉しく感じる。


「見に行くから」

「え?」

「だって試合、立野とでしょ?ちぃちゃんの燃える相手がいるし」

「…燃える?」

「ちぃちゃん、カイくんと、立野の伊南くんと試合するのスキでしょ。楽しそう」


 ふぅ。軽く爪に息を吹きかけて、目線だけをこちらに向けて。

 普段余り見せない、何でも見透かしてる顔。


(困るよねえ)


 内心嘆息した。大げさに、空くらいは仰ぎたい気分だ。

 叶わないなぁ、と苦笑する。

 お見通しなんだから。


「いい夏になるといいね」


 夏は、これからきっと幾度も来るのに。

 高校生として迎える夏はコレが最後で。

 大会という、大きな旗本で高校生のナンバーワンを決めるのも、これが。


(最後だ)


 負けたら、そこで終わる。

 追い求める、全てが。


「うん」


 きっとそれも全て見透かしていて。

 勝てるといいね。も、がんばってね。も一言だって言わないで。

 最高の送る言葉だと想った。

 お互いを知っているからこそ、わかる言葉もある。


 そうだ。負けたりなんて、するもんか。


「明日も楽しくなるといいね」

「うん」

「私、楽しいよ」

「ん?」

「つめ」


 ひらひらと指を動かして、笑う。


「明日の試合、こんなキレイなつめで行けるんだもん」


 太陽の下でみたら、もっとキレイだよ。きっと。

 笑う妹に、目を細める。


(―――――ん?)


 少し、思考を止めた。


「…明日の試合?」

「うん」

「来るの?」

「行くよ?」

「え?」

「ヤなの?」


 行くなって言われても行くから大丈夫だよ。


 ここまで言い切られると、もうどうしようもない。

 宥めても賺しても、聞かないことくらいわかっている。

 今度こそ、チハヤは上を仰いだ。

 天井しかないけど、なんかもう、いいやと思った。


「降参?」

「うん、降参」


 顔を戻して、両手を挙げた。

 それを見て裏ピースをする妹の爪が、笑うみたいにつるりと光った。

2007-06-03 23:13:05

無題

テーマ:無題

 苦しいとか、辛いとか。

 そんな言葉で言い表せるのは、それが過去になってからのほうが思うものなのかな。


 彼女はそうぽつりと言った。


 いつもくるくると良く変わる顔には、色がなく、目は何も捕らえていなくて。

 別人を目の前にしているのか、という不安。

 人間は、こんな虚無を抱え込めるのかという恐ろしさ。

 両方を一度に感じて、背筋に冷たいものが這った。


 大丈夫なんていえない。何も知らないのだから。

 それでも、やっぱり君に笑っていて欲しいなんて思うのは、俺のエゴでしかないのだろう。

 全ての枷から、君が放たれるのはいつになる?

 時間が経てばどんな辛いことでも薄れていくと君は知っていて、そう言うけれど。

 それまでどれだけ君が苦しむのか、俺には想像もつかない。

 

 もうイヤだ、と君が漏らしたことがあるのを、知っている。

 泣きそうで、辛そうで、それでも何も言わなかった。

 どうしようもないことを、知りすぎるくらい知っていたから。


 ずたぼろでも、しなやかに立って。

 いつだって君は、そこにいる。


 帰ろうか、とこちらを見た君の目は、いつものようにきらきらしていて。

 さっきの眼差しが嘘のように、俺を鮮やかに貫く。

 手を差し伸べれば、少しはにかんだように考えてから、ゆっくりと手を伸ばす。

 どんなに苦しくても、君はやっぱり笑うんだな。



 壊れそうな辛さの中でもまっすぐに立っていける強さを、君にあって初めて知る。

2007-05-28 22:29:18

微妙で奇妙な偶然と言いたくもない時々

テーマ:ブログ

 泣きたくなったのは、多分久しぶりだ。


 掴まれた腕から、伝わる感触。

 ああ、感触さえなかったら、夢だとでも思えただろうに。

 あたしの腕を掴んだまま、君はびっくりした顔であたしの顔を見ている。

 こっちがしたいよ、びっくりした顔。


 もう3年も遇ってなかったのに、どうして今更なんだろうね。

 連絡だって、1年とってなかったのに、どうしてだろう。


 彼は何か言いたげに口をぱくぱくさせて、結局何も言わずに口を閉じた。

 まだ僅かに大きく開いた目が、ほとんど瞬きもなしにじっと見ている。

 居た堪れない。

 腕から手も離してもらえない。

 ぐらぐらしそうだ。

 どうしたらいいのかわかんないのは、あたしも同じなんだけど。

 お願いだから、手を離して欲しい。

 そんで、フツーに。フツーに喋ってよ。


 じっと見返しても、目を逸らすことなくこちらを見続けるから、どうしようもなくて。

 結局こちらが先に目を逸らす。

 何がしたいの。何が言いたいの。何を思ってるの。

 言ってくれなくちゃ判らない。


 もうそろそろ君のことちゃんと忘れないと、あたしは次にも進めないのに。


 どうして?

 どうしていつも忘れかけた頃に、君はあたしを見つけんの。

 あたしは君を見つけちゃうんだろう。

 いいがかりかもしんないけど、あんまりだ。


 泣きたくなって、唇をぎゅうと噛む。

 もう、どうしたらいいの。

 どうしてどうしてどうしてどうして。

 疑問ばかりが頭を占領する。


 涙が出てきそうだったから顔を伏せたら、心持、腕を掴む力が少し強くなった。


 余計泣きたくなるよ。ばか。





微妙で奇妙な偶然と言いたくもない時々


とりあえずなんかしゃべってよ

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