第五期羽生選手に思う

羽生選手に様々な思いをいただいています。
その生き様に
その演技にいただいて
自分の思いを綴っていきます。


テーマ:
この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。


総帥は
襖の前で
一呼吸置く。



気配が消えた。


その所作は
流れるように滑らかに
その呼吸は
そこに飾られた花のそれのように
空気に溶け入り
その姿は
ふっ
襖の向こうへと吸い込まれる。



襖を抜け
中を滑るように進み
瑞月の脇に踞るまで、
鷲羽海斗は
ひそとも空気を動かすことがなかった。



ふわり
気配は戻る。

その恋人の脇に
総帥は
そっと膝をついた。


仰向きに寝かされた瑞月は
今は
涙の跡も拭われ
ただ
静かな寝息を立てている。




つくづくと眺める。
その肌に
何か見逃したものはないか。
己が加えた何かが残されてはいないか。

総帥は
確かめても
確かめても
もどかしい。




抑えられぬ思いに
ついに
その名を呼んだ。

「瑞月」


フウウン……。

口を尖らせて
瑞月は眉を寄せる。




「瑞月」

名を呼べることが
総帥には
たいそうかけがえのないものに
なっていた。

同時に怖くもあった。

瑞月が目覚め、
自分が何をしたかを知ることが。


ぱちっ
目が開く。

ぱっ
眸が鷲羽海斗を捉える。

大きく〝あ〟の形に
その口が開く。



「瑞月」

臆病な恋人は
そっと
もう一度呼ぶ。
大切な大切な名を呼ぶ。



………………「海斗?!」


跳ね起きるや
瑞月は恋人の胸に飛び込んだ。



仄かな石鹸の匂いが
鼻をくすぐる。
一生懸命身を寄せようと
胸を擦る細い肢体がいじらしい。


総帥は
そっと
その背に手を回す。


触れるのが
まだ怖い。
だから、
総帥は
おずおずと抱く。



「瑞月……だいじょうぶか?」
「海斗!
 だいじょうぶ?」


二人の声が重なった。

どちらも真顔
どちらも声がマジ


フツーのカップルなら
笑い合って
やーんだいじょぶじゃん
なるところだろうが、
この二人はならない。


まず、
瑞月は
海斗が心配だ!!
から
テコでも動かないから
退かない。


問い掛けたまんま
総帥の胸に抱っこちゃんスタイルで
答えを待ち受ける。


で、
瑞月が一番の総帥は
自分のことは後回しとなるのが常だ。


「ああ
 もう
 だいじょうぶだ。
 すまなかった。

 瑞月…………俺は何をした?」


謝り、
そして…………一番聞きたいことを
尋ねた。


その質問の答えは、

「ほんと?」

「ほんとだ。」

「ほんとにだいじょうぶ?」

「ほんとにだいじょうぶだ。」

瑞月が満足するまで
押し問答してから
ようやく
聞けた。


「あのね、
 お母さんって言ってね

 それから
 ぼくを揺するの。」

人差し指を立て
瑞月は
一生懸命順番に話そうと
集中する。



「揺すった!?
 瑞月!
 本当にだいじょうぶか?!
 どこか痛くないか?!」


人差し指を立てたまま腕を掴まれ
思い切り顔を寄せられ
とんでもなく大袈裟に心配され
瑞月は
目をパチパチさせる。


「だいじょうぶだよ。
 変だったのは
 海斗じゃない。

 海斗、
 すっかり
 ぼくをお母さんだって
 思ってたんだよ。」


瑞月の
屈託のない喋りに
総帥は
力が抜けていくのを感じていた。


 よかった
 俺は……瑞月を
 傷つけなかった。
 ……よかった。
 


布団の柔らかさが
ようやく
感じられるようになった。



薄緑に篭花の描け布団が
真っ白な敷布の上に
くるんと薄緑の腹を見せている。
膝に乗せた瑞月は
真っ直ぐな眸で己を覗き込んでいる。

 ああ可愛い。
総帥は染み入るようにそう思った。


 
瑞月の手が
総帥の頬に優しく触れる。


「すごく
 優しく揺するんだ。

 海斗が
 ぼくが死んじゃって
 悲しくて揺すってるみたいだった。」



優しく揺する……?
俺は
そんなことを
…………しただろうか。

ようやく
総帥は
自分のしたという行為を
考え始めた。



〝自分が瑞月に手をかけたのではないか〟

その疑念は
ほとんど確信だった。


 俺は悲しかったんだ
 ……恨んでいたかもしれない


瑞月と出会い
ようやく
自分にも感情があったことと
向き合えるようになったばかりだった。


総帥は、
そのときの自分は
くっきりと覚えていた。


水の冷たさが蘇り
思わず首を振って振り払う。
だが、
覚えていた。




抱き上げた母から
水は
滝のように流れ落ちた。

水を含んだ着物はひどく重く
頬に
髪に
池に落ちた枯れ葉がまとわりついて
ああ
本当にこの人は死んだんだ
思った。


母は
微笑んでいた。
母は〝あなた〟のものだった。

〝あなた〟のいないこの世は
母にとって意味がなかった。


佐賀海斗はいなかった。
男が去ってから
ずっと俺は〝あなた〟だった。
そして、
紛い物の〝あなた〟では
母を引き留めることはできなかった。


12歳の俺は、
紛い物の〝あなた〟から解放され、
誰でもない自分に戸惑っていた。


そう
俺は誰でもない
感じながら淡々と母を運んだ。



悲しんでも
憎んでもいなかった。
ましてや
〝優しく揺する〟?

呼び戻そうなど
思いもしなかった。




総帥は
いつしか
深く深く自分の闇に踏み込んでいた。


「俺は
 揺すったりしなかった……。」


口をついて
言葉が溢れる。



「うん
 そうだったね。」


そうだ
瑞月
お前も見ただろう?


「俺は
 揺すったりしなかった……。」

呼び戻す?
何のために?
母は
〝あなた〟のものだった。




「本当は戻ってほしかったんだね、
 きっと。
 だから、
 さっき揺すって上げたんじゃない?」

優しい声が
耳をなでる。

火傷したように
それが傷口にしみた。


「まさか!
 何のために戻れって?!」


総帥は
自分の声に驚いた。
 ああ
 瑞月を驚かせた
 もう決してしないと決めたはずなのに

「……すまない。
 瑞…………。」




そっと
唇が重ねられた。


啄むように
唇は優しく己を求める。




ああ…………。



夢中で貪った。
抱き締めた腕に確かな温もりが
たがいを求め合う唇が
こんなにも欲しかった。



そっと唇が離れたとき、
総帥は
母を揺すって戻ってくれと乞う自分を
静かに受け入れていた。

 そうだ
 そうしたかった
 そうしたかったと
 今わかった。

 できなかったけれど…………そうしたかった



「海斗は
 優しかったよ……。
 ぼく
 ……あんまり悲しそうで
 助けてあげたかった。」


胸の中で
余韻にただよいながら
瑞月が囁く。




〝さびしがり屋の狼さん
 自分がさびしがり屋だって
 わかった?〟

耳に
道子の声がよみがえる。

〝ああ
 わかった

 俺はさびしがり屋だな。〟


「海斗が戻ってくれて
 ほんとによかったー。」


愛しくて
愛しくて
胸が痛くなる。

「どこにも
 行ったりしない。
 お前のいるところに
 俺はいる。」

総帥は
そっとその唇を
もう一度求める。

そして、
思い出した。

 あ、
 夕食だった。
 瑞月に食べさせなくては


二人は生きていく。
しっかりしなくては。



「海斗、
 お腹すいたね。」

キスを終えれば
恋人は、
雛鳥のように
口を開ける。

「お勝手に行ってみよう。」



もう保護者の役割に
総帥の頭は回転する。

 まあ
 咲さんのことだ。
 何か用意してくれてるだろう


二人は
手を繋いでお勝手に向かった。


イメージ画はwithニャンコさんに
描いていただきました。

☆ここに書くのもなんですが、
 本日ただ今より
 姉と24時間一緒に作業開始で
 〝それ終わったら絶対触るな!〟
 と言われとります。
 すみません!
 一日一投稿ってことで。
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