黒猫物語 新緑 幕間1信じる

テーマ:
この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。




たけちゃんは
病院にお泊まりする。


車を下りたら
伊東さんが
教えてくれた。


四角いお顔が
にっこりした。

「仲良しですね。
 西原の病室に小さなベッドを
 入れていただいたそうです。」

トムさんは
ぼくのYOSAKOIを
見てくれてた。
見えてた。

お口が
ヤンチャレ
ヤンチャレって
動いてた。


笑ってた。

たけちゃんの肩を叩いて
マサさんに
なんか叱られて
たけちゃんが
トムさんを抱っこして………


それでも
ヤンチャレ
ヤンチャレって
歌ってた………。


伊東さんは
ニコニコしてる。

「トムさんは
 ………入院したんですか?」

ぼくは、
訊いた。




「薬が抜けるまで
 無理はさせられません。

 取っ捕まえて
 寝かしてもらってます。

 明日には
 もう
 高遠さんと一緒に
 戻りますよ。」

伊東さんは
すごく
優しかった。

優しくて
優しくて
だから
分かった。


トムさん、
ほんとは
すごく具合が悪かったんだ。
それなのに来てくれた。




ぼく、
そっと胸の勾玉を押さえた。
その下に
海斗のキスをもらってた。

ぼく、
よくないことをした。

ぼく、
しょぼんとした。




「瑞月さん」

伊東さんが
ぼくの前に膝をついて、
ぼくの名前を呼んだ。

「い、伊東さん……」

ぼく、
驚いて、
おろおろしちゃって
伊東さんを起こそうと手を引っ張った。

でも、
伊東さんは大きくて
重くて
全然動かなかった。




細かな砂利の上に
黒いズボンの膝をついて
黒いドラム缶みたいに
どーん
伊東さんはしゃがみ込む。


ぼくの倍くらいある肩に
四角いお顔が
乗ってて、
ぼくを静かに見上げてた。






伊東さんが
ぼくの手を握った。


「わたしの仕える巫に
 申し上げます。」


伊東さんの声も
とても
とても
静かだった。




「あなたは
 この鷲羽の魂です。

 天の声を聞き
 地の命のために祈る方です。

 そのあなたを守ることは、
     私たち自身を
     守ること。

     魂を失って
     何のための命でしょう。
     だから、
     私たちは命をかける。

     西原は
     たとえ命を落としたとしても
     悔いはなかったでしょう。

     警護の者は
     みな
     その覚悟です。

     あなたを守らせていただきたい。
     お許し下さいますか?」


優しい優しい顔で
伊東さんは
怖いことを言った。



ぼく、
悲しくなった。
よく分からないけど
悲しくて悲しくて
悲しかった。



「ぼく…………トムさんが死んじゃったら、
    悲しいよ。

    伊東さんが死んじゃうのもやだよ。

    ぼく、
    誰かが死んじゃうなら……。」


悲しくて
ぼくは
悲しいって
言いたかった。

声が
大きくなっていった。


そんなの
やだった。


そして、


ぼくが死んじゃう方が…………って
言おうとしたら、
ぎゅっ
肩を掴まれた。


海斗が
ぼくを抱き締めてた。



ぼくの背中から
トクン
トクン

トクン
トクン

海斗の心臓の音が
伝わってくる。




ぼくの胸に
灯が点る。



ぼくは
海斗を悲しませたりしない。
ぼくは
海斗を一人にしたりしない。
 
そしてね、
二人で生きていくんだ。
えっと、
シャカイ?に出て
生きていくんだ。





ぼくは
海斗と
みんなと
生きていきたい。



ぼくは
死にたくない。

誰にも
死んでほしくない。



トクン
トクン

トクン
トクン


抱き締められた背中が
教えてくれた。

ちゃんと
生きていくって
決めたこと。


ぼくの大切な人が
たくさんいること。



ぼくが
ぼくが
ぼくが死んだりしたら
ぼくは海斗を守れなくなっちゃう。






「伊東さん、
    ぼく、
    誰にも死んでほしくない。

    どうしたらいいですか?」


ぼくは、
ちゃんと顔を上げて
伊東さんを見た。



伊東さんは、
ぼくを
真っ直ぐ見てくれていた。


「瑞月さんは
    強く
    おなりください。

 
    本当に戦うのは、
    あなた
    お一人なのです。」



じっと
見詰められる。

〝…………一人〟

でも……って思った。




「ぼく、
    一人じゃないです。

   トムさんが
   来てくれました。
   たけちゃんが
   来てくれました。
   マサさんも
   みんなも…………。

   YOSAKOIのみんなも
   すごく優しくて……。」


ぼくは
つっかえながら
一生懸命しゃべった。



それに
それに…………海斗がいるもの。


抱き締めてくれる腕を
ぼくは
探った。


ぼくのお日様だよ。
勾玉が光る。
海斗がいる。
海斗がいるよ。


伊東さんは
少し
悲しそうな顔になった。


「はい。
    瑞月さんは
    一人じゃありません。

    ただ
    闇と戦う力は
    あなたお一人のものです。」



ドキン
した。





〝月〟
あの人、
ぼくを〝月〟って呼んだ。



ぼく、
お腹の中が
冷たくなった。


へびが……へびがいた。
ぼくを見てた。

冷たく光るへびの目が
ぼくを
真っ正面から見詰めた。


ガクガクする。
膝から力が抜けて
すーっ
体が冷たくなっていく。



あれ?
ぼく、
倒れてない。


海斗の腕……。
ああ、
海斗だ。

海斗が
ぼくを支えていた。




へびが
くにゃっ
歪んだ。

消えていく。

消えていく。
 
消えちゃった。
  



冷たくて
冷たくて
冷たかった……。


冷たさだけが
じんじん
残った。




「だから、
    信じてください。」

伊東さんの声がした。


え?
温かい?


お腹の中に
ストーブがついたみたいだった。




ぼくは
そっと顔を上げた。
伊東さんは
いつもの伊東さんで、
優しい優しい目をしてた。




「私たちには
    闇と戦う手段はありません。

    巫
    ただ一人が
    光を示すことができる
    と
    伺っています。

    私たちにできるのは
    ただ
    あなたに真心を捧げることだけです。

    瑞月さんは
    ただ信じてください。
    受け取ってくださればいいんです。

    私たちが
    いつも
    あなたを大切に思っていることを。

   信じてくださいますか?」  


ストーブはね、
どんどん
あったかくなる。


あったかくなって
涙になった。





ぼく、
訊いた。

「ぼく、
    一人じゃないよね?」

涙が
ほっぺたを
伝い落ちた。


ぼくの涙は温かかった。



伊東さんは
答える。

「一人じゃありません。」




〝一人じゃないよね?〟

〝一人じゃありません。〟


何回繰り返したか
よく
覚えてない。


伊東さんは
最後に
ぼくの手を強く握った。   



「あなたを大好きな人が
    たくさん
    います。

    あなたは、
    それを信じていればいい。

    巫は
    そうして
    強くなると
    伺っています。」


ぼくは頷いた。
海斗は
最後まで抱っこしていてくれた。




伊東さんは立ち上がり、
ぼくたちは
玄関に向かった。



さくらさんには
薄緑の葉っぱが
たくさん
ついてて、
玄関に続く道はお日様と緑で
キラキラしてた。


ぼくは信じる。



伊東さんを信じる。

トムさんを信じる。

たけちゃんを信じる。

咲お母さんを信じる。

おじいちゃんを信じる。

マサさんを信じる。

みんなを信じる。



そして、
そしてね、



誰よりも
誰よりも
海斗を信じる。


海斗を信じるぼくを信じる。



ぼくは
ぼくを信じるよ。


イメージ画はwithニャンコさんに
描いていただきました。



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