人呼んで筍医者 田杉白玄 千三つ屋、卯吉 | kanotomiuozarainenkokidesuのブログ 人呼んで筍医者 田杉白玄

 人呼んで筍医者 田杉白玄 千三つ屋、卯吉

 「講釈師見て来たような嘘をつき」という言葉がありますが、嘘つきは講釈師ばかりではありません。

卯吉は嘘つき卯吉とか千三つ屋とか呼ばれています。千三つとは本当の事は千に三つしか言わないという意味です。卯吉の嘘は人を傷つけるような嘘ではなく、分かりやすい他愛ない嘘なので誰にも憎まれない。田杉白玄先生も退屈しのぎに卯吉の嘘を楽しんでいる。「先生、都都逸を一つ、三千世界の烏を殺し、主と朝寝がしてみたい」「その都々逸、今、流行っているらしいな」「そうなんですか」「そうなんですかって流行ってるから、いい喉を聞かせてくれたんじゃねえのかい」「違うんですよ、産まれて初めて吉原ってところに行きましてね」「吉原で振られて帰る果報者って言うから、膝小僧、抱いて寝たのかい」「付いた女、花魁ていう女にはいい思いさせてやりましたよ」「そんなわけ、ねえだろう。吉原の花魁は初回が顔見せで二回目が裏。三回目でやっと床入れが出来るんじゃねえのかい」「それはね、そんじょそこらのお兄さん。あっしぐらいになりますと、花魁が初回でも帰えしゃしません。わちきは主を帰えしゃしませんとしがみついて離さない。仕方ねえんで、極楽浄土に送り込んでやりやした」「そりゃ、良い功徳をしてやったな」「でも先生、失神した花魁、見た時、死んじまったのかと」「息してなかったかい」「いや、あれしてる時、死ぬ死ぬ言ってましたから」「死ぬ死ぬと言ったから死んじまったと思ったのか、この女殺し」「心配になったので花魁の脈をとったら、脈があったんで、安心してちょいと寝たんですが、明け方、カアカアと烏が喧しく鳴きゃがる。すると花魁が三千世界の烏を殺し、主と朝寝がしてみたいと都都逸を聞かせてくれたんですよ」「粋な花魁だな、まるで芸者みたいだな」「花魁と芸者は違うんですか」「そうよ、花魁は男と寝るが、吉原の芸者は芸は売っても体は売らないが吉原芸者の意地で自慢だ」「その意地で自慢もなんですよ」「どういう事だい」「吉原芸者もあっしに会ったら帯を解きますよ」「そうかい、でも意地を通させてやんなよ」「先生に頼まれちゃ見逃してやりましょう」「そりゃ有難い。一杯飲ろう」と二人は酒を飲みだした。酒が入ると卯吉の嘘が止まらない。「烏と言えば先生、烏金って知ってますか」「あくどい金貸しの事だろう」「金を借りると翌朝、烏が鳴くまでに返さなきゃいけない高利貸です」「それがどうしたんだい」「烏金の集金は青茶婆とか高田婆と呼ばれている婆さん達なんですよ」「集金は婆さんか、まあ、年寄りは目が覚めるのが早いからうってつけだ」「うってつけですか、朝早くから大きな声で金の催促をするので困るらしい」「卯吉さんが困ってるのかい」「あっしは烏金などから金など借りやしませんよ。貢ぐ女が両手の指より多いんですから」「流石、町内の色男だ」「町内、そんなに狭くありやせん。江戸の色男と言って下せえ」「それは恐れ入りました。それで烏金の婆さんの件はどうなった」「あっしが掛け合って、借金をちゃらにしてやりましたよ」

「そんな事、出来るのかい」「あっしの顔を見りゃ婆さんもいちころですよ」「いちころって、どうやんだ」「いい思いを婆さんにさせてやるのよ」「まさか婆さんと寝たんじゃねえだろうな」「功徳ですよ。一足早く婆さんを極楽浄土へ」「女なら婆さんでも構わねえのか」「友達の為です。でも婆さんの顔は見たくないので婆さんの顔に手拭いを被せました」「それじゃ本当の仏様みたいじゃないか」と卯吉の嘘に田杉白玄先生、大笑い