2011-04-09 14:43:39

 人呼んで筍医者 田杉白玄 酒なくて何で己が桜かな

テーマ:江戸小噺

 彼岸も過ぎて暖かくなると風邪をひく人もいなくなり、藪にもならない筍医者 田杉白玄は暇を持て余している。退屈している白玄に気を使って権助が「先生、そろそろ花も見頃らしいでがんす」と声を掛けても返事がない。ならばと「先生、花より団子ちゅうが、あれは団子っ鼻のことですかい」慣れない権助の冗談に仕方がなく白玄先生苦笑交じりに頬が緩むと、権助は冗談が受けたと勘違いして自分も笑いこけながら「酒も飲めねえ、下戸の団子鼻のだんごさくが団子喰いすぎちまって、ぴいひゃらぴいひゃら、お神楽ばやしになっちまったそうなので往診に行ってみますか」「・・・」「奴は懐もぴいひゃらぴいひゃらだから、行ってもすかたがねえでがんすな、それなら留吉がいいでがんす。そう、女郎買いの留でがんす。かみさんに先立たれてから女郎買いどころか、家に閉じこもったきりで、もすかしておっちんじまったかもしれねえんで、見に行きやすか」気を使う権助に煩わしいと思ったが無視しておくわけにもいかないので「おっちんじまっていては困るから留吉の家にでも行ってみるとするか」行ってみると、小奇麗だった家が男寡に蛆が湧くというが家の中はは足の踏み間もなく、とっちらかっていた。「女郎買いの留さんが、女郎買いにも来ないので、おっちんじまったんじゃねえかと、近頃、女郎買いにも行かないそうじゃねえか」「そんな気にならねえんで」「体の具合が悪いのかい」「悪いなんてもんじゃねえよ、眠れねえ、食いたくねえ、働きたくねえ、ねえねえだらけよ、医者の先生に診てもらっても、働いていねえから生憎だがおあしもねえんで」「勝手にやってきたんだから気にすんな、このまんまじゃ本当の病になっちまう。病は気からと言うじゃねえか、外に出て気分転換しようじゃねえか」外ってどこに行くんですか」「お花見よ、そろそろ、見頃だそうだ明日行くか」「花見は上野ですかい」「上野寛永寺境内は陰気でいけねえ、酒も飲めやしねえ、酒なくて何で己が桜かな」「何です酒なくてってのは」「酒なくて何で己が桜かなだ、花見は酒が飲める隅田堤に限るまかしておいてくれ」翌日、風もない花見日和、権助に連れられて留吉が隅田川堤に来てみると、深川の綺麗どころを引き連れた、どこのお大尽の花見に出っくわした。「権助さん、すげえ花見だね。あるところにはあるんだねえ、おあしが」と留吉が感心してしていると、お大尽の花見の宴のなかから田杉白玄の大きな声が聞こえてきた「おーい留吉さんここだここだ」と白玄先生が手招きをしていた。宴の中に招き入れると田杉白玄先生「留吉さんもお見えになったことだし、音吉姐さん唄わせてもらいますよ♪梅は咲いたか桜は・・・もう咲いちまったか♪字余り、白玄先生、すでにご機嫌なご様子。恐縮した留吉が権助に「すごい花見を田杉白玄先生はするんですね」と言うと「伊勢屋徳兵衛さん伊勢徳のお花見に招かれてだけです。先生は一文も払っちゃいませんしご祝儀を貰ってます。遠慮しないで留吉さんもぱあっとやってくだせえ」始めのうちはかしこまっていた留吉だったが勧められているうちに酒もかなり入り、しかも隣に深川芸者とくれば女郎買いの留さんの本性が出てきて、あろうことか芸者の胸元に手を入れようとして、「あっしは深川芸者、女郎と一緒にしないでおくれ」としたたかに手を叩かれていた。「春吉姐さん、留吉さんはかみさんに先立たれて、すっかりしょげちまってたんだ、大目に見てやってくんねえ」と白玄先生が言うと留吉まで「大目にみてくんねえ」「甘えんじゃないよ、甘えたかったらかみさんの所にいっちまいな」深川辰巳芸者の啖呵に留吉はしゅんとしたが、それも一時で、いつのまにか春吉姉さんと留吉が寄り添うように話し込んでいる。それを見て田杉白玄先生、薬が効きすぎたようだが、まだ喪が明けていないと呟いた。



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